第256話 再来する終末 その九
「やぁぁぁぁぁっ!!」
襲い来る無数の闇の刃を、二刀で斬り払いかいくぐりながら軍服の男、改め黒仮面の男へと迫る。
「くっ……」
男も刃を次々と生み出しているが、それ以上の速さで浅陽によって撃ち落とされている。
その様子を浅陽の内側から、正まさしく客観的に咲夜が見ている。
(凄まじいな……)
それは〈焔結〉や〈鳴神〉の〝力〟もさることながら、浅陽の戦い方を見て思わず心に浮かんできた。
(私が彼女の身体で戦ったことは何度もある。そこで少しずつ学んでいたのか……?)
毎日の稽古も重要だが、実戦に勝る稽古はない。
浅陽はどんな時でも、咲夜が表に出ている時には───無意識であったかもしれないが、稀代の天才である水薙咲夜のすべてを学んでいたようだ。
剣を振るうその一挙手に、間合いを詰める一投足に、咲夜は魅入られ、そして簡単に自分を重ねることができた。
(だがそれだけではこうも二刀をうまく扱うことは……)
咲夜は思い出す。
浅陽の身近に二刀を使いこなす達人級の男がいることを。
(まさかあの時の戦いがさながら見取り稽古だったとでもいうのか……?)
背筋がうすら冷たく感じる。
(末恐ろしいやつだ)
そして、ああ、なるほどと得心した。
(そうか。皆が私をどう見ていたか。それを今理解した気がする)
天才天才と言われていたが、咲夜自身からしてみれば稽古をして、腕を磨いていただけなのだ。そしてその視点を理解した上で、浅陽のことを改めて思う。
(私をも越える天賦の才───)
もやっとした。
それは許婚である筈の八澄叢丞が、自分以外の女子と仲睦まじくしている時にとても似ていた。
(ふふっ。この私が他人の剣に嫉妬とは)
同時に胸の内が疼いている。
(ああ。彼女と仕合ったら、どんなに楽しいだろうか)
不謹慎とは思いながらも、そう思わずにはいられなかった。
(私にも身体があれば……)
水薙咲夜は八十年前に死去したことになっている。
その際に燃え尽きてしまった為に彼女の身体は残っていない。
(考えてもしようのないことだな)
そんなことを思われているとはつゆとも思っていない浅陽は、延々と降り注ぐ闇の刃を薙ぎ払い続けている。
(ほんっと、キリがないっ)
〈焔結〉の炎で幾千もの刃が燃え尽き、〈鳴神〉の雷で幾万もの刃が融解する。
だがそれでも一向に数が減ったようには彼女の目には見えない。
むしろ増えているとさえ思える。
(やっぱり、アイツをぶった斬るのが一番なんだろうけど)
それにはやはり刃の弾幕を潜り抜けて行かなければならない。
(いままでに戦った黒仮面に比べたら余裕の筈なのに)
彼女の考えている通り、目の前の黒仮面の男はそれほど強さを、本能に訴えてくるような怖さを感じない。
〝黒晶人形〟に比べたらさすがに男の方が強いが、それでも過去に出遭った黒仮面と比べるとレベルが低い。なのに浅陽は攻めあぐねている。
(あたしが攻めあぐねている原因はきっと……この空間)
黒仮面達の領域である漆黒の異空間。
空に赤い月が浮かんでいる以外は星明かり一つ見当たらない暗黒の夜空。
(そういえば、いつも黒仮面を撃退すると異空間が崩壊するよね。ということはこの空間の基点と言えるのは黒仮面の可能性が高い。でも目の前のあいつは言っちゃえば弱い。そんなヤツがこんな大がかりなこと出来るのかな……)
ひょっとしたら、この空間の基点は目の前の黒仮面ではなく、〝応龍〟の方なのかもしれない。だが浅陽はその可能性は低いと考えた。いや、そうではないと仮定する。
剣を振るいながら、何か打開できる───言ってしまえば綻びが無いか探す。
(となると怪しいのはやっぱり……)
この異空間で一際怪しい、現実には無い物。それは───、
(───あの赤い月……ん?)
気のせい程度だが、赤い光がほんの少しだけ変わったように見えた。
剣を振るいながら目をしばたかせる。
すると、鮮血のように真っ赤だったのが、確かに、だけど僅かに変わっている。
(あの色……)
少しオレンジ色を混ぜたような、それはまるで地平に沈んでいく太陽を思わせた。
(まさか───)
一つの策が浅陽の頭に浮かんだ。
つづく




