第252話 再来する終末 その五
「レインが凛の別の人格じゃなくて、心臓の代わりの魔導具……」
茉莉の予想した通りの驚愕の表情を慧太郎は浮かべている。
『はい。だから〝応龍〟───あの名も無き海龍が封じ込められているのはその〝蒼月石〟───〝アズライト・ルナ〟ということになります』
「人体じゃなく魔導具に封印されている……か。なるほど。合点がいった。人体にほぼ影響を与えないであれほどの〝力〟を持った龍を封印するのはさすがに無理があるしね」
『さすがは封印を得意とする者ですね』
〝茉莉〟は淡く微笑みかける。
(そういえば、他にも何か言っていましたね。たった今、それを思い出しました)
「しかし、どうしてその対存在とやらはここに埋められているのですか?」
「お話してもいいですが、恐らく貴女は忘れてしまうと思います」
「私こう見えても記憶力はいいんですよ?」
「いえ。記憶力云々は関係ないのです。このお話はそういう〝呪い〟がかけられているのです」
「忘却の呪いみたいなモノでしょうか」
「そう取ってもらっていいと思います」
レインは御神木の根元を見た。
「ここに埋められている魔導具〝紅陽石〟───〝ソル・ロードナイト〟は邪悪な存在を封じている結界の要の一つだと聞いています」
「邪悪な存在───!?」
「ここの他にも三ヶ所、似たような場所があることは聞いています。それが何処かまでは詳しくは聞かされていませんが」
「その忘却の呪いがかけられた話を、レインさんは何故覚えているのですか?」
「先程も言った通り、〝蒼月石〟が司る〝力〟は月と夜と生命。恐らくですが、月と夜が奴等に近しいからだと思います」
「奴等とは一体……?」
「漆黒の水晶を従えし闇の群勢。その実態はほとんどが謎に包まれています」
「闇の群勢───」
「もしかしたら、この一連の騒動の黒幕も奴等なのかもしれませんね」
(彼女の言った通り私ですら忘れてしまっていたのを今思い出したのは、この空間がその奴等のテリトリーだからでしょうか……?)
茉莉は漆黒の空を見上げる。
(闇の群勢。一体何モノなのでしょうか───)
『く……くくく』
今現在〝応龍〟を構成している黒い靄もやが蠢きだした。
「馬鹿な。私の戒めを破ろうというのですか?!」
『くくっ。いつまでも貴女様の、いやお前の戒めなどに吾を留めておけると思うてか。よもや此処が何処か忘れたわけではあるまい』
「なに?」
『ここは彼奴の領域。その恩恵を受けている吾に───』
〝応龍〟の鬼灯のような怪しく光る赤い眼が〝茉莉〟達を捉える。
『いつまでも通用するモノではない!!』
その眼力だけで、踏ん張らなければ後方へ吹き飛ばされてしまいそうな強烈な風が吹きつけていると錯覚してしまう程のプレッシャーが二人に襲いかかる。
「くぅ───」
慧太郎が右手を前に思い切り伸ばす。
「なら、もう一度封印を───」
しかし何も起こらない。
「なっ───?」
『この空間がただの異空間だとでも思っていたのか?』
「なに?」
『ここは恩恵を与えられていないモノからは、呪力や霊力といった〝力〟を奪っていくらしいな』
「なん……だと……?!」
『くく、何やら小賢しいことをしているようだが、それも時間の問題よ』
「小賢しいかどうかは、その身をもって知るといいでしょう」
直後、御神木が淡い光を放ち、明滅をはじめた。
『バカな! ここにあるこの樹は神樹の影。そう、ただの影でしかない。その影が本物の神樹同様の〝力〟を発するなど───』
「光と影。真実と虚構。そして彼方と此方。縁を結ぶ霧ヶ浜の守人の〝力〟です」
そして〝茉莉〟は慧太郎に向き直る。
「さあ、守人最後の後継者よ。神樹の守護者たる者よ。龍の角より造られしその剣で、どうかあの名も無きモノを滅してください」
「龍の角より造られし……?」
剣を鞘からすらりと抜くと、その刀身が眩く明滅している。
「これは───」
そしてそれが、御神木の明滅と連動していることに気づいた。
「さあ。今、縁の〝力〟を一つに」
「───はい」
〝茉莉〟の言葉に慧太郎は頷いた。
つづく




