第250話 再来する終末 その三
「なるほど。私は嵌められてしまったわけですか」
背後から首筋に紫電の刃を突きつけられた軍服の男は、背後の浅陽を振り向かずに嘆息した。
「そう何度も私を欺けると思うなよ?」
「貴女を欺くのは確かに骨が折れそうだ。しかし、この空間が我々の世界である事をお忘れのようですね」
『我々の空間……。やはりコイツは───』
浅陽は確信する。
直後気づく。
『咲夜っ───!』
「慌てるな。気づいている」
二人は周囲を悪意に囲まれた。
「八十年前と同じことをするとは、進歩が無いな」
咲夜は軍服の男に突きつけていた〈鳴神〉を頭上に翳す。
すると、星の瞬きが一つとして見えない漆黒の空に、輝く光の枝が一瞬にして拡がっていく。
浅陽はその光の中に、無数の尖った何かが融けて消えていくのを見た。
「進歩が無いかは、これを見てからでも遅くはないと思いますよ?」
少し間合いの離れた所から声がした。
無数の尖った何かは間合いを取る隙を作る為のものだったようだ。
浅陽が軍服の男の姿を捉える。
「ほう」
その手にしたモノに浅陽さくやは感嘆を漏らす。
『あれは……まさか───』
男の持つ漆黒の剣に既視感を覚えた。
「ふふふ……」
男は不敵な笑みをこぼす。
「剣一口で実力の差が埋められるとでも思わないことだ!」
間合いを詰めて浅陽が右手の〈焔結〉で斬りかかる。
漆黒の剣でそれを受け止める男。
「これで互角ですね」
「互角だと?」
「ええ」
鍔迫り合いの状態で男が口の端を吊り上げる。
「貴女が所有するのは左の紫電の剣。こちらの炎の剣はその身体の持ち主の物の筈。八十年前はその炎の剣を振るい自滅した。まさかお忘れですか?」
「忘れる筈が無かろう!」
「でしたら貴女の実力は八十年前と然程変わらない。しかし私の手にはこの剣がある。絶大なる闇の〝力〟を持つこの剣が」
漆黒の刀身から闇が溶け出してくる。
「今ならば私の実力が上!」
男が交わる刃を押し返す。
「言いたいことはそれだけか?」
「何?」
一変して均衡が浅陽に傾く。
「なっ?!」
「確かにこの〈焔結〉は私の物ではない。だが───」
『あたしが一時的に所有権を譲渡すれば咲夜でも自在に扱える。なんたってあたしの身体だからねっ!』
〈焔結〉の刀身が燃え上がると、浅陽はそれを押し切った。
「くっ───!?」
咄嗟の判断で男は後ろに引くも、浅陽の剣圧に弾かれて軽く吹き飛ぶ。
「言ったろう? その剣がたとえどんな代物であろうと、私とお前の実力差が覆ることはない」
続く〈鳴神〉による追撃で更に吹き飛ばされた男は海へと落下した。
「いくら強大な武器を手にしようとも、彼我の戦力差も見抜けぬようでは宝の持ち腐れだな」
立ち上がった男がザバッと海面から顔を出す。
「バカな……。この剣を手にしてニンゲン如きに後れを取るとは……」
わなわなと震える男を中心に海面に波紋が拡がり、その身体が次第に浮いてくる。
「その剣からは確かに得体の知れない〝力〟を感じる。見たところ扱いきれていないようだな」
「くっ……」
「まあ慣れるまで待つつもりはないがな」
男の身体が完全に海面に出たところで〈鳴神〉を振るう。
振るった軌跡がそのまま形になったような三日月形の衝撃波が男へと迫る。
男が懐から何やら取り出し、前へ差し出したところへ衝撃波と正面衝突した。
「なっ───?!」
衝撃波は何事も無かったかのように掻き消えた。
『あれは───!?』
「どうしてまつり姉さんがここに?」
突然後ろから現れた茉莉を見て慧太郎が驚きの声をあげた。
「どうしても何も、あの龍に用があったからこちらに来たまでですよ」
「じゃあ秘伝の舞は……?」
「襲撃が夜という話でしたが、実は夜ではない可能性があったのと、あの軍服の男が私達の動向を探っている可能性があったの。つまりあれはあの男を誘き出す為の嘘なの」
茉莉は笑顔でタネを明かす。
「それと皆は無事よ。今は向こう側とこの世界の狭間で、御神木の加護をあなたに届くように頑張ってるわ」
『無駄なことを』
ダミ声が凛の口から発せられ、茉莉が〝応龍〟を捉える。
『吾に用だと言ったな?』
「ええ。〝応龍〟……。いえ、海の眷属であるあなたに」
茉莉のその雰囲気に呑まれ気味に〝応龍〟が目を見開く。
『なん……だと……? まさか……?』
「まつり……姉さん?」
〝応龍〟の狼狽ぶりに慧太郎は怪訝そうに茉莉を見る。
『お前は……、いや、貴女は───』
つづく




