第249話 再来する終末 その二
数時間遡り明け方前の、まだ水平線から陽も出てない薄暗闇の頃。
浅陽が日課の早朝鍛錬に出ようとしたところ、茉莉に声をかけられた。
「どうしたんですか、こんな朝早く?」
「浅陽さん達に伺いたい事があるんです」
「あたしらに?」
「はい」
神妙な面持ちで茉莉は頷く。
「星明に敵の動向を視てもらったのです。具体的に言えば、どのタイミングで向こうが仕掛けてくるか」
『それで分かったのか、まつり姉?』
「〝夜〟ということが分かりました」
「夜ですか」
『まあ予想通りではあるな。だが……』
浮かない茉莉の表情が二人は気になった。
「何か気がかりなことがありそうですね」
「……赤い月が出ていたと」
「赤い……月」
浅陽の顔が強張る。
「はい。鮮血のような真っ赤な月とのことです。……浅陽さん、これはもしかして?」
「十中八九。奴らの世界かと」
───真っ赤な月の浮かぶ夜の世界。
黒仮面達が自分達の領域と呼ぶ禍々しい空間。
「報告通りだと、時間に関係無くいつ如何なる時でもその空間に誘われるということですが?」
『最初に引き摺り込まれたのは正午くらいだったか』
「うん。でもそんなに戦っていた感覚は無いんだけど、終わったら朝になってた」
『時間の流れが違うのかもしれんな。一概にそうとは言えないが』
「兎も角、常に警戒しておくのがよいでしょうね」
茉莉の表情が少し険しくなる。
「陽が昇った頃に皆に召集をかけて、そこでこの話と対策会議をしようと思います」
『それはいいが、恐らく敵も同じようにこちらの動向を伺っているかもしれん』
「それはあるかもしれないわね。こっちからは見えないし感じることが出来ないけど、アイツらはこの空間をあの領域から見ることが出来るらしいし」
浅陽は何もない宙空で、窓に下げられたブラインドの隙間から外を見るドラマの刑事のような仕草をする。
「それじゃあ敵がこちらの動向を伺っていることを前提で、話を進めましょう」
そして茉莉が考えている布陣を二人に伝える。
非戦闘組は社殿と本殿の間の臨時の舞殿で破邪の舞とその補佐。
戦闘組は境内にて軍服の男、及び〝応龍〟を迎え撃つ。
『どうせなら、例の軍服の男をおびき出すような布陣にするか』
「何か策があるの、咲夜ちゃん?」
『策という程のものではない。一人が海上の舞殿で舞うということにして、そこで私が迎え撃つ』
「実際に迎え撃つのはあたしなんだけど」
浅陽が抗議する。
『それなんだがな。私に任せてもらえないだろうか?』
「咲夜に?」
『ああ。時が移ろったとは言え、元々これは私達八十年前の人間がカタをつけねばならぬ問題。だから私の手で、ヤツに引導を渡したい』
「……そうね」
茉莉が同意を呟く。
「これは私自身の問題でもあります」
そう発した茉莉の雰囲気が見たこともない程に凛としていることに二人は気づいた。
『まつり姉……?』
(こんな茉莉様初めてみたんだけど)
浅陽は自分の内側に語りかける。
(私もだ。こんなに神々しく見えるまつり姉は見たことがない)
さすがの咲夜も驚いている。
「ではこういう作戦で行きましょう」
二人は改めて茉莉の言葉に耳を傾ける。
「私が秘伝の舞を海上の舞殿で舞うことにします。それは誰にも見せてはならない破邪の舞で、恭香さんにも存在すら隠していた舞であると。そして海上の舞殿に向かったと見せかけて」
『私が海上の舞殿で、まつり姉のフリをして舞っていればいいのだな』
咲夜が受け継ぐように口にする。
「ええ。そして私はぐるっと回って境内に戻り、〝応龍〟と対峙しているであろう叢くんの補佐に回ります」
「えっ?! 茉莉様って戦えるんですか?」
寝耳に水とばかりに浅陽が目をパチクリとさせている。
「こう見えても【異能研】の代表ですからね」
そこに根拠などは無いのだが、浅陽はそれでほとんど納得してしまっていた。
『…………』
一方で咲夜は疑いの眼差し(といってもそういう気配だが)を向けている。
「そういった感じで行きますのでよろしくお願いしますね、お二人とも」
そうして背中を向けて茉莉は母屋へ戻っていった。
「まあ、分かった」
『どうしたいきなり?』
「あんたのやり残した事ってワケなんでしょ? だったら貸してあげる、あたしの身体と〈焔結〉」
『恩に着る』
そして浅陽も、暗闇の中へと走り出していった。
つづく




