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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE4『再来する〝終末〟(さいらいする〝ワールドエンド〟』
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第199話 何モノにも代え難く①

「兄様」


叢丞が出掛けようとしたところ、涼香が声をかけた。


「本日はどちらへ行かれるのですか?」


「今日は剣術の稽古が休みだと言っていたからね。少し散歩でもしてこようかなと」


「剣術の稽古がお休みなのは私も聞いています。でしたら八澄の修練にお出になってはいかがですか?」


それはこれまでも耳にタコが出来そうな程、散々涼香に言われ続けてきたことだった。


「だからね、涼香。僕には……」


そう応えるのが習慣と化してしまったかのように当たり前に口にしかけて、叢丞は思い出した。


「〝力〟ならお戻りになったじゃありませんか」


涼香の無邪気な笑顔が叢丞に向けられた。


「……そうだよね。大義名分いいわけが無くなっちゃったんだよね」


「なら……」


「僕に〝力〟が戻ってきているのはたしかだよ。でもね、涼香。まだ満足に使いこなせないんだよ」


「その為の修練じゃありませんか」


確かにそうだと叢丞も思う。

しかしそれでどうにかなるモノではないとも感じていた。


「そうじゃないんだよ、涼香」


「そうじゃないとはどういうことですか?」


「涼香も知っていると思うけど、僕には三年前の出来事に関する記憶が無い」


「───ッ!!」


その時の涼香の反応が叢丞には少し過剰に思えた。


「涼香?」


「え? な、なんでしょうか?」


「大丈夫かい? 少し顔色が青い気がするけど」


「そ、そんなこと……ありません」


「……あ」


叢丞は後悔した。


三年前、涼香が大病を患った。その時に叢丞が執り行った術式によって病魔を払うことに成功した。しかしその代償として叢丞は記憶を失った。……と叢丞は聞いている。


涼香の性格なら、その事に引け目を感じていることは十分に兄である叢丞なら予想出来た筈であった。


「ごめん、涼香」


「兄……様?」


「僕の配慮が、……いや、僕の我が儘だったのかな」


叢丞は踵を返して修練場へと向き直った。


「兄様、どちらへ?」


「どちらって、涼香が修練に出るように言ったんじゃないか」


「兄様!!」


涼香の表情がぱぁっと明るくなった。


「涼香のそんな笑顔が見られるなら、もっと早く修練に出ればよかったかな」


「もう、兄様ったら」


涼香は頰を赤くして照れていた。

その時、玄関の引き戸がガラッと開いた。


「おや、二人してこんな所でどうしたのですか?」


入ってきたのは二人の母である颯季だった。


「母上。『龍神祭』の打ち合わせは終わったのですか?」


颯季は午前中から、年明けに行われる『龍神祭』の打ち合わせに【龍宮神社】へと赴いていた。


「ええ、今回は滞りなく。しかしまだ四ヶ月先ですからね。まだ何回かは集まらなければなりません」


「お疲れ様です」


「それでですが叢丞。次回からあなたも打ち合わせに出ませんか?」


「え? 僕がですか?」


突然の誘いに叢丞は戸惑った。


「こういった会合に出ておくのは今後の為にもなると思いますよ」


「母様、それは兄様が八澄を継ぐということですか?」


涼香が期待を込めた目で颯季を見上げた。


「それはまだ決まりではありません。叢丞次第とだけ今は言っておきます。だから叢丞」


「はい?」


「八澄の修練には出来るだけ出るように」


まるで涼香としていた話を聞いていたかのようなその科白せりふに叢丞は一瞬思考が止まった。


涼香も「そうです」とばかりに叢丞を見上げる。


そんな二人に見つめられた叢丞は観念するしかなく、


「……はい」


と改めて決意を固めた。


「そうそう。話は変わりますが叢丞」


「はい?」


「茉莉さんがお呼びでしたよ」


「まつり姉さんが?」


「あなたに話があるのだとか。咲夜さんも一緒でした」


「そっか。咲夜も水薙家の代表で参加してるんでしたね」


剣術の稽古が休みになった理由を叢丞は改めて思い出した。


「もしかしなくてもあの話、だよね」


「何か仰いましたか、兄様?」


「ううん、なんでもないよ」


叢丞改めて出掛ける準備をする。

するとそこへドタバタと廊下を走ってくる音が聞こえてきた。


その場にいる三人には、それが最早誰のモノであるか察しがついていた。


「そーすけ!」


そして三人の予想通り、凛がやってきた。


「そーすけ、どこかにあそびにいくのか?」


「遊びにではないけど、用事が出来て【龍宮神社】にね」


「たつみやじんじょ?」


「〝じんじゃ〟だよ。……そっか、凛は行ったこと無かったっけ」


「うん。よくわからないけどない」


「一緒に行ってみる?」


「リンもいっていいの?」


「ああ」


「うんっ! 行く!」


そして叢丞の腕に絡みつくように抱きついた。


「ちょっと、歩きにくいよ」


「~♪」


叢丞の苦労を知ってか知らずか、どこで覚えたのか鼻歌を口ずさんでいる。


あの満月の晩から一週間。凛の様子にも変化は無い。

〝応龍〟の気配も、あの強大な妖気もかけらも感じられない。


唯一の変化と言えるモノは、あの日以来、叢丞を見つけるとまるで人懐っこい犬のように駆け寄ってきては中々離れようとしない事だった。


「どうした、そーすけ?」


「え? な、何でもないよ」


懐いているという程度を少々逸脱しているように叢丞は思う。しかし当の叢丞からしたらそんなに悪い気はしていなかった。


同時に懸念事項も生じていた。


「あら、ずいぶんと仲の良いことですね、叢丞兄様?」


じと〜っとした目で『叢丞兄様』を強調する涼香。

そう。ここ最近、殊に凛が叢丞にべったりになるようになってから涼香がご機嫌斜めなのだ。


「涼香……?」


「こんな真っ昼間から逢引ですか……?」


「涼香も聞いていただろう? 大事な話があるからってまつり姉さんが呼んでいるって」


「それでは私がついていっても問題ありませんよね」


「僕は構わないけど、身体は大丈夫かい?」


最近涼香は咳き込むことが多くなっているようだったので叢丞は心配していた。


「大丈夫です。今日はものすごく調子がいいんです」


「そっか。でも無理だったらちゃんと言うんだよ? 涼香はすぐ無茶をするから」


「そ、そんなことありません」


叢丞は不意にぐいっと腕を引っ張られた。


「そーすけ、はやくいく」


凛は早く出掛けたいようだった。


「それではすぐ支度してまいります」


涼香は小走りで部屋に向かった。


「それで、さっきからどうしたんだい、凛?」


凛は急に機嫌を損ねてしまったかのように頬を少し膨らませていた。


「なんだかもやもやする」


「もやもや?」


「ん~、よくわからない」


「そう? ならいいんだけど」


もしかしたら〝応龍〟の気配が強まったのかと思った叢丞だったが杞憂だったと胸を撫で下ろす。


程なくして涼香は戻ってきた。


「お待たせしました」


「それでは母上、行ってまいります」


颯季は玄関に正座し、叢丞を見つめていた。


「母上?」


「叢丞、あなた……」


「何でしょうか?」


颯季は何か言おうとしていた。だが、


「……いいえ。やはり何でもありません。気をつけて行ってらっしゃい」


「はぁ……。では行ってまいります」


何だろうと思いつつも、叢丞は屋敷を出た。




つづく

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