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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE4『再来する〝終末〟(さいらいする〝ワールドエンド〟』
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第190話 凛⑤

「乱……ですか……?」


涼香が少し青ざめる。


「八人全員揃うことは稀ですが、揃った時にはいずれも何かが起こっています」


「何かってどのようなことが……?」


「鬼が現れたり、戦が起こったり、様々です。二人がよく知っているところで言えば、およそ四〇〇年程前に起きた戦による霧ヶ浜の焼き討ちですとか」


戦国乱世の時代に国主に従わなかったとして霧ヶ浜一帯が焼き討ちにあったと叢丞も聞いたことがあった。


「ここらで龍が暴れたというあの時期も八人揃っていたと知らされています」


「兄様……」


涼香が叢丞の上着の袖をそっと掴む。その手は震えていた。


「大丈夫だよ、八人揃うことはまず無いってことだし」


「は、はい……」


叢丞はそう言って震える涼香の手を包み込むように取ると涼香は安堵し笑みを見せたが、それでもまだ少しだけ震えは止まらなかった。


涼香が怯えているのを慰めようと口にはしたが、颯季の複雑そうな表情が叢丞は気になったていた。



───まるで、既に八人揃ってしまっていると言っている様な顔だった。



「ん……?」


そういえばこの場にはもう一人居たはずだと叢丞が周りを見回す。


「すぅ……、すぅ……」


そのもう一人、凛は静かに寝息を立てていた。


「途中からついていけなくなったのかな……?」


「それもあるでしょうが、まだ目覚めたばかりではしゃぎ疲れてしまったのもしれませんね」


颯季の表情は今しがたとは打って変わって、何か昔を懐かしむような優しい顔をしていた。


「それと叢丞」


「はい」


「どうやら〝力〟が戻ったようですね」


「え……?」


「蝋燭の灯火のようにまだほんの僅かですが、あなたの中に感じます」


「そう……なんですか?」


自分では実感出来ない叢丞だが、レインが言っていたことが証明された。


「本当ですか? よかったですね、兄様」


叢丞に〝力〟が戻ったのが余程嬉しかったのか、涼香はもう震えていなかった。


「ありがとう、涼香」


叢丞は涼香の頭を優しく撫でる。


「これで兄様が修練を抜け出す理由がなくなりましたね」


頭を撫でる叢丞の手がぴたりと止まる。


「そっか、そうなるよね……」


「兄様?」


「本当にあなたたちは仲睦まじいですね」


「えへへ」


涼香が照れくさそうにしている。


「僕が体験したのはこんなところです」


「わかりました」


「それでは失礼します」


「待ちなさい」


退室するために凛を起こそうとしたところ、颯季がそれを制止した。


「叢丞は残りなさい。もちろんその子も」


視線で凛を指す。


「……わかりました」


「兄様……」


心配そうに涼香は叢丞を見る。


「大丈夫だよ」


「……はい。それでは失礼します」


渋々といった様子で引き下がった涼香は、部屋の敷居の外側で丁寧に指をついて頭を下げた。

そして障子が閉められた瞬間、部屋の中の空気が一気に張り詰めたように感じられた。


「叢丞」


「はい?」


「三年前のこと、やはり思い出せませんか……?」


「はい……」


三年前。涼香が大病を患っていたという日々。その期間の記憶だけが何故かすっぽり抜けてしまっている。


「そうですか……。〝力〟が戻ったから記憶もと思ったのですが…」


颯季は哀しそうな顔をしている。


「すみません。でも〝力〟が戻ればいずれ記憶も戻るだろうってレインは言っていました」


「レイン……。もう一人の彼女ですか」


颯季は微睡む凛に目を向けた。


「んぅ……」


その凛がムクリと身体を起こした。


「凛、起きたの……?」


「そーすけ……」


凛は寝ぼけ眼で叢丞を見上げた。


「むずかしいはなしおわった?」


「母上、お話は以上でしょうか?」


「そうですね。ではその子に部屋を用意しなくてはなりませんね」


颯季が家人を呼ぶ。するとすぐに女中長である妙他、数人の女中がやってきた。


(早いな。まるで隣に待機していたような……)


「凛殿を〝部屋〟にご案内しなさい」


冷たく言い放つ颯季を見て叢丞の懸念が現実になる。


「かしこまりました」


そう応えるや否や、左右から彼女の両腕を拘束して無理やり連れて行こうとした。


「そーすけっ!」


凛がもがいて叢丞に縋ろうとする。


「母上?! いったい何を?!」


叢丞の言葉が聞こえないのかのように颯季はその様子を見守っていたる。


「凛っ!」


叢丞は凛に向かって手を伸ばす。


「そーすけっ!!」


凛もその手を取る為に思い切り手を出す。


「坊ちゃん、失礼っ」


妙が叢丞に当て身を喰らわせた。


「ぐっ……」


後もう少しで届きそうなところで阻まれてしまった。しかし次の瞬間───、


「そーすけっ───!!」


部屋の中を暴風が吹き荒れた。


「こ、これは?!」


「そーすけをいじめるなっ!」


颯季は吹き飛ばされないように咄嗟に結界を張った。その術すべの無い女中衆は襖や障子を突き破って部屋の外まで吹き飛ばされた。叢丞は身を屈めて何とかその場で踏ん張っていた。


「凛……!」


吹き荒れる暴風の中、叢丞はどうにかして凛の傍まで辿り着いた。


「凛っ。僕なら、大丈夫、だから」


そう言って叢丞は凛を優しく抱き締めた。


「そー……すけ」


すると暴風は止み、凛は安堵の表情で気を失った。膝から崩れ落ちる彼女を支えるようにして叢丞もその場に座り込んだ。


「叢丞」


「は、母上、これは一体どういうことですか?!」


颯季は真剣な眼差しで叢丞の目を見た。


「叢丞。あなたはその魔術師と名乗った少女と八澄家ここの地下で出逢い、そして龍をその身に宿していると聞いた」


「……はい」


「そして今しがた強大な〝力〟。どう考えてもただの・・・魔術師ではないでしょう」


颯季は暗に彼女が危険な存在ではないかと危惧している。


「それは……」


叢丞もその事を理解しているからこそ二の句を継げなかった。


「地下に封じられていた以上、用心深く調べてみるに越したことはないのです。……これ以上、家族を亡くしたくはありませんから」


「っ!」


叢丞や涼香の父親であり颯季の夫であった前当主は、七年前の谷曇の退魔行に参加し命を落としている。


詳しい事情を知らない叢丞だが、颯季の気持ちは痛い程よく分かる。その彼女の判断が正しいということも理解出来た。


「そう……ですね。僕が浅はかだったかもしれません」


居住まいを正し、叢丞は再び颯季に正対した。


「いいえ、叢丞。あなたが聡明な子で私は嬉しい限りです」


そう言って久しぶりに見た颯季の笑顔を見て叢丞は心が温かくなるのを感じた。


「でも母上、始めから疑ってかかるのはよくないと思います。凛はとても良い子なのに」


「……そうですね。今は〝妖気〟をカケラも感じることはありませんし、もう無理矢理連れて行くのはやめにします」


「ありがとうございます、母上」


叢丞は頭を下げた。


「ですが完全に信じる為にも彼女の検査はさせていただきます。その時は出来るだけ叢丞にも立ち会ってもらえるようにしましょう」


「お願いいたします」


「……それにしても、あなたは本当に優しい子に育ちましたね」


「そうでしょうか……。自分ではよく分かりません」


「涼香もそうですが、出会ったばかりのその子がすっかりあなたに懐いているのが何よりの証拠です」


颯季が微笑みかける。叢丞は母に嫌われていると思っていたのが、自分の思い込みだったのだと安心した。


「そういえば母上、涼香のことなんだけど……」


「涼香がどうかしましたか?!」


予想外の反応に叢丞は少し驚いた。


「僕が地下に迷い込む直前のことなんですけど……」


叢丞はそれほど長くない一部始終を話した。


「そうですか、清九郎殿がそんなことを……」


「それと彼は帝國陸軍に招聘されたと言っていましたけど、何か嫌な予感がします」


「それには私も同意です。それも衛生兵ではなく、技術開発に関する部署だと聞きました」


医療系祈祷術師の家系である谷曇家。その家の人間が軍に入って衛生兵ではなく別の部署に配属された時点で何かあると勘繰ってもおかしくはない。


「ただでさえ本家であるということを笠に着た横暴な態度が目に余るというのに……」


「本家、ですか……」


そう呟いて颯季は顔を曇らせた。


「母上……?」


「彼の件に関しては私の方で預かります」


「ですが……」


「叢丞、あなはたその子についていてあげなさい」


「凛にですか? まあ、この様子だと放っておいてもついてきそうですけど」


気を失っても服の裾から手を離さない凛を見て叢丞は苦笑した。


その時、柱時計がボーンボーンと時報を鳴らした。


叢丞が時計を見ると二つの針が丁度上を向いて重なっていた。


「どうやら昼餉の時間のようですね」


颯季が立ち上がる。


「昼餉の後で彼女を部屋に案内させましょう。今度は無理矢理にではなくね」


「はい」


そして叢丞が凛を起こそうとした時、


「……ごはん?」


凛がむくりと起き上がった。


「うん。お昼ごはんの時間だよ」


「ごはん!」


凛のとろんとしていた目がパッチリと開き、その口からは大量のヨダレが溢れてきた。


「凛、ヨダレが……」


「これは少し多めに用意しなくてはならないようですね」


颯季はまるで子供が一人増えたかのように、とても優しい笑みを浮かべていた。




つづく

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