第十七話 海琳朱乃《みたましゅの》
巨悪が住み着いた摩天楼に蒼月の時計塔。この地には曰く付きの場所がいくつもある。だからかネットで「聖峰」と検索してみると「幽霊」やら「魔女」やら「巨悪の残党」やら、根も葉もない都市伝説が無数にヒットする。もちろんこんな出鱈目を信じる人なんてこの学園にはいない。それに足を踏み入れるだけで停学のリスクもあるんだ。好き好んで近づく輩なんて本来はいなかった。
しかし今、聖峰は発見された隠し部屋の話題で持ちきりだ。おかげで噂が広まってからは就寝時間後に宿舎を抜け出す不届き者が絶えないと聞く。尤も、あれから時計塔は二十四時間厳重に警備されているし、抜け出そうものなら風紀委員が全力で取っ捕まえにくる。結局は独房にぶち込まれて反省文を書かされるのが関の山。下手すれば退学。何があろうとあの教室には絶対に近づけない。
魔法少女の手がかりとあらば興味を惹かれるのも無理はない。学園側もそれがわかっているからか逃亡の意図がない限り、一夜限りの独房生活と反省文三枚で済ませてくれるようだ。貴重な学園側の温情に甘える生徒は少なくない。
だからその、それくらいなら別にいいかなと思っちゃって、あたしも抜け出してきちゃった。この懐中時計があれば脱走なんてチョチョイのちょい。だけどあたしの目的はあの部屋ではなく巨悪の摩天楼。実は遠くから一目見た時から気になってたんだ。近づくなと言われてたから近づきもしなかったけど、この割引期間を活かさない理由はなかった。
日が沈んでいるとはいえ、七月の夜はジトジトジメジメ。脱出の五分後には冷房が利いた部屋を手放したのを後悔した。それでもあたしは夜道を歩く。向かう先はまだ見ぬ摩天楼。緑が生い茂る山中からぽつんと伸びた摩天楼の先端。自然と鉄骨。人類の栄光と巨悪の象徴。嫌悪と好奇心。その矛盾したコントラストは人を引き寄せる魅力があった。
「入り口がない建物って気持ち悪い」
うまく警備の裏をかけたのか、誰にも見つかることなく摩天楼まで辿り着いた。紛うことないマンハッタンの一角。もしもここがアメリカなら惚れ惚れするけど、残念ながらここは魔法少女大戦終結の地。自然の調和を逸脱した悪の結晶を前に素朴な疑問を抱いてしまった。
己が力を誇示するために人類の叡智を模倣した。それならこの摩天楼が造られたのも納得だ。だけど本来あるものをあえて排除するなんて、きっとそれなりの理由があったんだ。
「似た者夫婦とはいうけれど、悪いところは似ないでほしかったわ」
聞き慣れた声に振り返れば真っ赤な外套を羽織った凛々しい立ち姿の鷺谷委員長。こんな時間に人がいるなんて心臓が飛び出るくらいビックリした。
「……這いつくばってなに探してるの」
「心臓飛び出してないかなって」
「……安心しなさい。健康的な肌色しているから」
「それならよかった。でもそれよりこんな時間に出歩いて平気なんですか? 風の噂で体調を崩したって聞きましたけど」
「えぇおかげざまで。ちょっと疲れて元気がなかっただけで周りが騒ぎすぎるのよ」
鷺谷委員長とはあの日以降、顔を合わせていなかった。けれど優秀な風紀委員長の立ち回りのおかげで口裏合わせの必要もなく、今のところ三人目の発見者の存在は隠されたまま。今のところは鷺谷委員長の目論見どおりに進んでいる。
「で、あなたは?」
「ほっ?」
「どういう吹き回しでここにいるの? 『天眼』の命令ではないでしょう」
「朱乃ちゃんは関係ありません。……それにあれから一度も会えてませんから」
鷺谷委員長は「そっ」と文字どおり素っ気ない態度。それから冷ややかな顔でライトを片手にジリジリと近づいてくる。なんでそんなに怖い顔をするんだろう。学年は違えど面識がないわけじゃないんだ。だからもっと笑ってほしい。そんな目で見つめられるとまるで……犯罪者みたいじゃないか。
「はい、確保。お話の続きは牢屋の中でね」
次の瞬間、あたしの右手に、お次は左手に、カシャンと冷酷な冷酷な音が響いた。
「へっ、え、えっ? ジョーダンですよね」
「手錠が迷子センターの入場券になると思って? 顔見知りとはいえ規則違反。牢獄行きです」
ゲームオーバー。
こうして魔法少女の弟子の冒険は一夜にして幕を下ろした。冒険の舞台から引き剥がされると扱いはさながら犯罪者。ただでさえ手錠をかけられて歩きづらいのに、鷺谷委員長はスラスラと坂道を下るから連行されるのも一苦労。
やっと森を抜けたと思ったら向かう先は見知らぬ場所。見慣れた宿舎を通り過ぎ、真っ暗な裏の畑へと連れて行かれる。
「は、畑に埋められるぅ」
「天下の風紀委員がそんなことするわけない」
とはいうが、一体どこへ連れて行かれるのだろう。なんだか背筋が凍えてきた。
しかしそんな心配もすぐに杞憂に終わった。鷺谷委員長は道を外れて茂みの方へ進んでいく。その先には木造の三角屋根のログハウスがあった。
「ここって倉庫じゃないですか?」
そんなことを言うと鷺谷委員長は相合を崩した。
「初めて来る人はみんな同じことを言うわね。安心しなさい。ここは立派な風紀委員の拠点。さ、あがって。あなたとはあれからろくに話もできなかったでしょう。ちょうどいい機会だし、ここらで一旦情報共有といきましょう」
さすが聖峰女学園。実際に軽井沢の奥座敷にありそうな素敵空間を贈呈するなんて太っ腹。こんな待遇ならあたしも風紀委員に入ってもいいかも……なんて思っていたら、扉を開けた先には洒落た外見とは打って変わって、普段よく見かける事務的な世界が広がっている。書類の山。灰色のデスク。タバコの代わりに市販の芳香剤の香りが充満していた。
「————そう。付け回されてないなら、とりあえずは心配ないようね」
「付け回されてる⁉︎」
時間が経っているから、いくつか曖昧な説明になってしまった。それでも大役を果たせて一安心、なんて思っていたら穏やかじゃない話が出てきた。
「あの部屋を発見した私たちが疑われている最悪の場合ね。でもよかった。何もないってことは私の説明を信じてくれたって意味だもの。ひとまずあの子のことがバレずに済んだ。そう考えましょう」
鷺谷委員長がそういうなら大丈夫なのだろう。
にしても付け回されるなんて物騒な話だ。淑女の箱庭で暮らすあたしは全く考えもしなかったし、安心しきって鷺谷委員長に丸投げしていた。これにはあたしも猛省。不安要素が少しでもあるなら人に頼らず自衛しなければならない。たとえこの学園の中でもだ。
「今更だけど一応報告。ひとまずあの部屋は学園が管理することになりました。調査が進むまでは口外禁止……って伝えようと思ったのに、どこから話が漏れるのやら。それとも密告者がいるのかしらね」
嘆息する委員長。その様子から心労を察する。
「ま、口裏合わせがバレていないなら下手に動かない方がいい。本当ならこうやって顔を合わせるのもリスクしかないのだけれども、な、ぜ、か、自分から勝手に捕まりに来るんだもの。風紀委員として捕まえないわけにもいかない。はぁー、ダメね。近くに悪い手本を置いちゃ。小さい子はすぐ影響される」
「小さい?」
「はい、これで部屋の件はおしまい。で、私としてはもう一つの問題を片付けたいのだけど」
なんかしっくりこない。しかし委員長は待ってくれない。不本意ながらも言葉を飲み込んだ。
委員長が言うもう一つの問題なんて一つしかない。一つ……いや、もう一人の容態について報告する。
「……あたしも毎日朱乃ちゃんに声をかけていますけど反応ありません」
「それはどうでもいい」
「ほっ?」意外な返事に思わず頓狂な声をあげてしまった。
「海琳朱乃は放っておいてもそのうち立ち直る。だから心配していない。それよりもなぜ、あなたがあそこにいたのかってこと」
どうでもいい、とはまた随分と冷たい言い方だ。あたしはただの気分転換で出かけたまで。それ以上の理由はない。それよりもあんな取り乱した姿を目にして何も思わないなんて友達失格……友達?
そういえばこの二人ってどんな関係なのだろう。
思い返せば最初から朱乃ちゃんは風紀委員と鷺谷委員長のことを悪く言っていた。懐中時計の件で初めて鷺谷委員長と会った時も朱乃ちゃんはツンツンしてたけど、二人はどこか親しそうだった。一癖も二癖もある朱乃ちゃんのことだから、ひょっとしてあたしの転入前に風紀委員と一悶着あったのだろうか。加えて重度のめんどくさがりだから真面目な風紀委員との衝突は容易に想像できる。
けど仲が悪いかと思えば蒼月の時計塔では息のあったコンビネーションで淡々と調査していたし、いつの間にか抜け駆けして秘密の部屋に侵入しようとした前科もある。
水と油の関係。犬猿の仲。喧嘩するほど仲がいい——ううん、どの言葉もしっくりこない。
「ねぇ、訊いてるのだけど」
「へっ、あっ、気分転換でつい。鷺谷委員長はどうしてあそこに?」
「警備に決まってるでしょう。今日は他の子たちは休ませたくてワンオペなの。魔女警邏がいなくなったと思ったら野次馬好きの淑女どもが脱走し始めるんだもの。けど今日は式典の準備で警備の方が夜通しいてくれるし、今日こそはゆっくりできると思って帰ろうとしたら、何故か『抜け道』を知ってる子が現れるんだもの。私がゆっくりできるのはいつになるのやら」
抜け道とはなんのことだろう。聞きなれない言葉に首を傾げる。面倒見がいい朱乃ちゃんが相手だとぶうたれながらも優しく説明してくれる。けど委員長だとどうだろう。ほんのり期待と興奮を入り交ぜて次の言葉を待った。
鷺谷委員長は嘆息しながら冷め切ったマグカップに口付け、淡々と説明してくれた。
「この学園に仕掛けられたセキュリティをご存知で?」
「なんでも見つかると警備員と風紀委員が全力で捕まえにくるとかなんとか」
「それがわかっていて、なぜ出歩く真似を」
「ごめん、なさい」
ソファーに腰掛けながら深々と頭を下げる。
「ん、わかればよろしい。今回は運が良かったと思いなさい。本当だったらものの一分で探知できますから」
「い、一分⁉︎ 最近のテクノロジーってすごいんですね……え、でもおかしくないですか? それならあたしはとうに捕まってますよ」
「そうね。だけどこのセキュリティには穴があるの。あなたは偶然、聖峰のセキュリティを突破できる条件を揃えてしまった。探知できるのは実はレリックを一つだけ所持している人だけ。学園の生徒には支給されるでしょう——このピンクゴールドリングが。指環は常に身につけるのが校則で決まってる。だから生徒は一発で見つかっちゃうってわけ。指環を持たない先生方や寮母の巴恵美さん、それからお手伝いに来てくれる方たちはセキュリティに引っかからないのよ」
自分の人差し指に嵌めた指環に目を移した。転入してから寝る時以外、終始身につけていた忌々しい存在。何度授業中に外そうとしたことか。慣れない間は窮屈で違和感満載で指が痒くて仕方がなかった。けど他の子は素知らぬ顔で、淑女の嗜みといわんばかりに涼しげに嵌めているから負けじと我慢していた。
転入前に説明を受けた時は校章代わりにしていると聞いている。お嬢様学校ということもあって辛い現実を知る前は、なんてオシャレな学校なのだろうと胸が弾んだ。まさかこれが首元から下げている懐中時計と同じレリックだったとは。学園の校則を利用して生徒を監視するなんて賢いやり方だと感心してしまった。
「今回私があなたを見つけたのは偶然なの。言ったでしょう。探知できるのはレリックを一つだけ所持している人間だけだって。あなたは指環ともう一つ、その懐中時計、二つのレリックを所持していた。学園が開発した『対レリック監視網』には複数のレリックを持っていると感知できない致命的弱点がある。これを知るのは歴代の風紀委員と、あなただけ。この秘密を知られたからにはあなたも風紀委員に……」
「ひ、ひぇ、助けてぇ、朱乃ちゃーん」
ここまで強引な勧誘は生まれて初めてだ! 秘密を知ってしまったからにはもう風紀委員に入るしか、や、あたしが入ったら朱乃ちゃんはどう思う? 事後報告したら部屋から出てきてくれるかな。きっと怒られるに違いないが、友達の朱乃ちゃんには嫌われたくない。
「……強引な勧誘であの子に嫌われたくないし、返事はいつでも待ってるわ。一応わかってると思うけどセキュリティのことも口外禁止。ねっ?」
「なんだぁ、よかったぁ……って、これもおかしくないですか?」
「え? どこが?」
「だってさっき摩天楼で『似た者夫婦』って呼びましたよね。あたしの近くに同じことをする人がいるんですか?」
その指摘に委員長は目を丸くする。その動揺はある種、指摘が当たっていることを意味していた。
「風紀委員しか知らない裏技を知ってそうで、なおかつ実践できる怪しい人物。そういえば最近『魔女警邏』なんて呼ばれている不審者がいるそうですね。つまり『魔女警邏』があたしの身近にいる人物……そんなの、朱乃ちゃんしかいないじゃないですかっ!」
これはエウレカ。まさしくエウレカ。これをエウレカといわず何をエウレカと言うのか。
昔からクイズとかなぞなぞは大の得意だった。胸を張って自慢できるほどの特技ではないから誰かに言いふらしたことはない。だけどほら、あたしはこのとおり、歩くだけで知性と品性が溢れてしまうから頭の回転が早くたって意外ではない。
「……人って見かけによらないものね。うん」
「どういう意味ですかっ! まったく、寄ってたかってあたしをバカにする」
「どーどー、怒らないで。飴ちゃんあげるから」
「子供扱いするな!」
「わわっ、ごめんごめん。なら答え合わせをしましょうか」
誠に遺憾である。いつかこの不当な扱いを白日のもとに晒してやる。その覚悟をココアとクッキーと共に飲み込んだ。
「あなたの推理は大正解。海琳朱乃は脱走の常習犯で、夜な夜な変装しては摩天楼に近づく『魔女警邏』。なぜあの子がセキュリティの穴を知ってるのか知らないけど、指環以外のレリックを持っているのは明らか。だから私は海琳朱乃を警戒していた。でもあの子もかなり手強くてね、なかなか尻尾を掴ませてもらえなかった。今回の件までは」
「二人の因縁はわかりましたよ。けど、あの部屋では何も見つからなかったじゃないですか。どころか危うく命を落とすところだったんです。朱乃ちゃんの秘密なんてどこにも——」
「一緒に見たでしょう。真っ赤な海琳朱乃の髪色を。あなたのソレと同じよ」
「な、何を言って——」
心の声を見透かすように鋭い一刀で即座に否定した。
「海琳朱乃自身がレリック。その証左があの髪色。聖峰のセキュリティに引っかからなかったのも、『天眼』として勝ち星を重ねられたのも、見られたことに絶望したのも、あの子自身が魔法の塊のようなもので神秘めいた存在なのだと自覚しているから。そう考えると全ての辻褄が合うと思わない?」
そう言われて簡単に信じるほどあたしは馬鹿じゃない。だって朱乃ちゃんは正真正銘人間だ。
レリックがどんな存在で、いかに貴重なものなのかはこの身をもって知っている。
人間がレリック? 何を馬鹿なことを言うんだ、この人は。レリックは魔法を顕現させるための道具。なら朱乃ちゃんは血の通わない道具ってことなのか。朱乃ちゃんが非情なのはゲームの時だけだ。
「魔法少女大戦以降、幼少期に強大な魔力を浴びた子供の髪色が変化する現象が増えた。その、鷺谷委員長の灰色の髪だってその影響ですよね?」
「ええ、そうね」
「現代じゃ髪色が多少鮮やかでも目立ちません。煙たがって黒色に染めたり、ウィッグをつける子はそう珍しくはありません。朱乃ちゃんは多分コンプレックスを持っていて、他の子よりもデリケートな部分だったのかもしれません。女の子には秘密はつきもの。鷺谷委員長だってそうでしょう?」
「それはそうかもしれないけど引き篭もる動機としては弱くないかしら。少なくとも海琳朱乃はそんなやわな性格じゃない。あの隠し部屋の存在が広まったように、海琳朱乃の秘密がいつどこから漏れるかわからない。単に弱みを見られたからではなくて、必死に自身の秘密を守っている、と、私は考えた」
何も言い返せなかった。だって納得できてしまったんだもの。朱乃ちゃんは自分の髪色程度でショックを受ける繊細な性格じゃない。むしろ人付き合いを嫌うくせ、人一倍責任感ある性格。
人間がレリックなんて未だに信じられない話だ。だけどそれが真実だとすれば、隠し部屋なんて無に帰するくらい世界中が大騒ぎになる。
かつて世界が武力で競い合ったように、現代では魔法の研究でしのぎを削っている。無限大の可能性を秘めている魔法のメカニズムをいち早く解き明かせば、そこが次の時代の覇者となる。その立場を巨悪との戦いで疲弊した大国が狙っているのは語るまでもない。躍起になった大国が強引なやり方で研究結果を横取りしたという話も耳にする。
穏やかな話ではないけども無限大の可能性を秘めているのも事実だ。
事実、赤く染まった大地を鎮圧し、傷ついた誰かを癒し、絶望した人々が平和を夢見ることができた。強大な盾となり矛となり翼となる未知のエネルギー。これに興味を持つなという方が難しい。
けれども現実は極めて厳しい道のりを辿っている。世界初の人工衛星「スプートニク一号」が打ち上げられてから「アポロ11号」で月面着陸に成功するまでおよそ十二年。当時よりもコンピューターの演算能力は向上しているしネットワークだって地球を網羅している、のに、魔法少女大戦から十六年経っても魔力を加工することしかできていない。魔法発生のメカニズムを解き明かすなんて夢のまた夢。
それがどうだろう。停滞した世界に意思を持ったレリックが現れたら。こんなの聖峰に来たばかりのあたしでも容易に想像できる。それと同時に朱乃ちゃんの行いの正当性も理解できてしまった。
「時間はかかってもいいから、兎に角あなたは海琳朱乃のお守りを専念して。これは私にはできない、仲のいい友人のあなたにしかできないんだから。言うまでもないだろうけど今日の話は私たちだけの秘密のお茶会。わかったなら手を出して。手錠外したげるから」
ようやくこれから解放されると思うと気持ちも楽になる。その反動にふと、ここまで面倒を見てくれる鷺谷委員長について疑問に思う。「どうでもいい」なんて言っておきながら「お守りを専念しなさい」なんて、実は委員長は朱乃ちゃんのことをすっっっごく心配してるのでは?
こういうの、漫画とかアニメで見たことある。ほんのりと間が空いたので思わずこんなことを口走ってしまった。
「鷺谷委員長って結構朱乃ちゃんのこと、大好きですよね」
「……は?」
間の抜けた声とともに解錠の手が止まった。
「そもそも『魔女警邏』の正体だってわかっていても捕まえませんでしたよね。なんだかんだ言いながら退学させたくなかったんだ」
「そんなことないです。そんなことをすれば職権濫用ですよ」
「えぇー、でも『どうでもいい』って言っておきながら内心ではすごく心配してますよね。ツンデレですか」
「それは話の流れで邪魔という意味で」
「それに委員長の推理なんて心配の産物じゃないですか。よぉーく観察した証拠です」
「そんなこと……ない」
「またまたぁ、今日だって時計塔の警備のくせにどうして摩天楼にいたんです? あたしのことは探知できないんですよね? なのにどうして摩天楼に行くんですか。まして摩天楼にこだわる『魔女警邏』が現れないとわかっているのに。もしかして委員長はあたしと同じで朱乃ちゃんが心配で心配で居ても立っても居られずに——」
たとえ相手が先輩で権力者だろうと、恋模様を前に平常心を保てるわけもなく、ほんの少し饒舌になっていた。勢いよく捲し立てるものだからクールな委員長の顔がみるみると茹蛸みたいに真っ赤になって、沸騰直前に肩を掴まれてひょいと外に摘み出されてしまった。照れ隠しなんて乙女チックな一面もあるじゃない。
大丈夫だよ、朱乃ちゃん。鷺谷委員長はなんだかんだで扱いやすいから。それにあたしたちは何があろうと朱乃ちゃんの味方。もちろん他にも巴さんや榎本先生だって頼れる味方。
立ち直る時はあたしたちが全力で支える。だから一日でも早くいつもの朱乃ちゃんに戻ってくれますよーにっ!
ご利益があるかわからないものの、ひとまず夜空に浮かぶ三日月に祈ってみた。
——ところでこの手錠はいつ外してくれるのかな?




