第33話 二年目⑦ 姉から見た二人
アデレインがヒューイ様を大型犬と認定してから、二か月。
夜会シーズンも終わり、季節は秋。
日は短くなり、夜が長くなる。
「……パーシーには見せられないわね」
休日に妹アデレインの元へと突撃したコルネリアは、だいぶ見慣れてしまった光景にため息を吐いた。
「当たり前です。こんな情けない男が世の中に存在すると思ってもらいたくありません」
アデレインはそう返しながら、膝に乗せた男の頭を撫でている。
膝枕状態ではあるが、アデレインの膝と、ヒューイ様の頭の間には薄いクッションが敷かれている。それなりに節度を保っている……のかは、甚だ疑問ではある。
「僕は姉君が来たら起きる気はあったんだけど?」
「……わたくしは疲れがとれていません。このまま大人しく撫でられていてください」
ある時から二人の様子が変わり、アデレインに訊くと『大型犬を飼っている』と言われた。
大型犬なので、膝に乗せようが、膝に乗ろうが、頭を撫でようが、手を撫でようが構わないらしい。
大型であるのは間違いないが、コルネリアには極上の部類に入る人間の男にしか見えない。アデレインの現実逃避もここまで来ると立派である。
「パーシーが親離れしたのが、相当堪えたのね……」
「……パーシーは元から親離れができていました」
「そうね。貴女が子離れできていなかっただけね」
つい、そう零すと、アデレインの手がぐしゃぐしゃと男前の金髪をかき回す。
ヒューイ様は少し痛かったのか、顔をしかめた。
「パーシー……この間のお茶会でとても気になる女の子がいたそうで」
(なるほど。……そのせいで、アデレインはいつも以上に荒れているわけね)
コルネリアは納得した。
「ええ、エヴァーシャム伯爵夫人から聞いたわ」
「え?」
「傍から見ても、リンゴンリンゴンと鐘の音が聞こえるほどの恋の落ちっぷりだったそうよ」
「……!!」
「あの男の血かもしれないわね」
「あ~あ~!!」
コルネリアの言葉にショックを受けたのはアデレインだけではなく、その膝の上の大型犬も一緒だった。謎のわめき声をあげている。
それを無視して話を続ける。
「まぁ、普通に恋して誰も傷つけなければ、あの男の血だろうが構わないわ」
「そう……ですわね」
自分がされたことはあまり気にしていないのに、他の人が同じ立場になるのは、気になるのだろう。アデレインの顔が曇った。
飼い主を心配したのか、膝の上の犬が口を開く。
「パーシーは優しい子だから、大丈夫だ」
「でも、あの人も別に優しくなかったわけでは……」
「あーあー!! その話は聞きたくない!!」
大型犬は叫んだ。
耳を手でぴたりと塞ぐ。
それを見たアデレインが、呆れたような顔をしつつも、その手の上に己の手を重ねるのだから、コルネリアとしては意味が分からない。
(いい加減、結婚に舵を切ればいいのに)
そう思うのだが、タイミングが今ではないことは分かっている。
焦ればアデレインは逃げる。
時が来るのを待つのみ。
(……ヒューイ様には恐れ入るわ)
ブランデルウッド公爵家の権力を行使すれば、アデレインとの結婚なんてあっという間だ。それをしないヒューイ様はまっすぐで、そして粘り強い。
(まぁ、落ちたも同然なんですけど)
大型犬は今や、アデレインが餌として作ったケーキやクッキーも食べている。
あれほど手作りのものを決して作らなかったのに。犬だと認識してからは、嬉々として厨房に立ち、愛犬のために腕を振るっているのだ。
(ほんと、我が妹ながら、馬鹿な子ね)
大型犬の毛並みを整えているアデレインを眺めながら、コルネリアは愛犬のために作られたクッキーを口にした。




