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――貴女を愛してほしいの。 離縁した侯爵令嬢は、三つ年下の青年に求婚される  作者: 星見蒼


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第31話 二年目⑤ ヒューイの寂しさ

 蕾のお茶会から約一か月。

 パーシーは宣言通り、キューピッドになろうと一生懸命だった。


「お義母様、僕はテオのお家に遊びに行きます」

「……ええ、行ってらっしゃい」


 ヒューイがオルダートン侯爵邸に行くと、パーシーがいない日も増えた。

 テオと遊ぶと言われれば、彼女は何も言えない。

 にっこりと笑って送り出す。

 そして、ヒューイと東屋で過ごすことになる。


「パーシーは、迷惑を掛けていないかしら」

「……パーシーなら大丈夫だとは思うけど」

「そうですよね。あの子はしっかりしていますもの」


 とても元気がない。

 遠い目で庭を眺めている。

 抱きしめたいなと思うけれど、それは許されていない。

 どうしたら彼女が笑ってくれるのか、ヒューイは悩んでしまう。


「嫌だって言ったら?」

「え?」

「たまには自分と遊んでって」

「何を」

「寂しい気持ちを我慢する必要はないんじゃない?」


 いつもなら強い否定の声が返って来るのに、それさえない。

 灰青色の瞳が、深く濃く沈んでいる。


「わたくし……ヒューイ様みたいに子供じゃありません」

「……じゃあ僕が言おうか?」

「やめてください!!」

「僕と遊んでって。そしたら君もパーシーと一緒にいられるよ?」

「……」


 彼女は何も言わない。

 さわさわと風が渡る音だけが聞こえてくる。


 ヒューイは静かに目を閉じた。


「まぁ、僕は君と二人きりで幸せだけど」


 何も見えなくても、脳裏に彼女の姿を思い浮かべることはできる。

 ただ、今彼女がどんな表情をしているのかは分からない。


「でも、君が笑ってくれている方が好きだから」


 悲しみや寂しさを抱えてほしくはない。

 だからといって、無理やり笑ってほしいわけでもない。

 どうしたら一番いいのか、ヒューイは分からない。

 自分の気持ちを伝えることしかできない。


「君がしたいようにして」

「……あなたと」


 小さな声が聞こえてきて、ヒューイは目を開けた。


「結婚しないという選択をしたいです」


 震える唇が見えた。


「うーん。ごめん。それは僕がしたくない選択だね」

「あなたはいつも……そう」

「うん、ごめんね」


 ヒューイはそうとしか返せなかった。



 * * *



「お兄様?」


 家に帰るとクラリッサが珍しく本を読んでいた。


「珍しいな」

「ええ。本を読まないといけませんってお母様に言われました」


 ヒューイは寂しさを紛らわすために、クラリッサを膝の上に乗せた。


「……どうかなさいましたの? あ、さてはアデレインお義姉様と喧嘩しましたわね」

「……喧嘩できればいいのにね」


 今年十六歳のクラリッサは大きく、重くなった。

 もうこんな風に甘えてはいけないと分かってはいるのだが、やるせない気持ちに耐え切れず、膝に乗せたクラリッサの肩に額を当てた。


「仕方ないですわね」


 昔から可愛がり過ぎて、クラリッサは普通のことだと思っている節がある。抵抗がない。

 ちょっと問題かなぁとは思いつつも、所詮自分たちは兄妹なのだ。

 寂しければ遠慮なく口にできて、こうやって甘えることもできる。


(違うか。これは俺の性格か)


 アデレインは誰かに甘えることはあるのだろうか?

 姉君と仲がいいのは知っている。

 姉君に甘えられているのなら、まだいい。

 もしかしたら、パーシーに甘えていたのではないだろうか?と思わないこともない。


(俺がめいっぱい甘やかしたい)


 寂しいのなら泣いてくれればいいのに。

 こうやって抱き上げて、ヒューイがアデレインの頭を撫でてあげたい。

 今撫でられているのはヒューイの方だけれど。


「はぁ……」

「お兄様、重症ですわね」

「そうだなぁ」


 頭を撫でてくれるクラリッサの手のぬくもりを感じながら、ヒューイはどうにもできない気持ちを持て余していた。

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