第30話 二年目④ パーシーのお茶会
姉が紹介してくれたのは、エヴァーシャム伯爵夫人が開催する、子供同士の『蕾のお茶会』だった。
伯爵家のご次男セオドア様は、パーシーと同じ十一歳。人見知りで同年代の友人が少なく、それを伯爵夫人が気に掛けているらしい。
姉はパーシーと気が合うのではないかと考えたそうだ。
他に参加するのは、十三歳になる伯爵家のご長男と、その友人二人。
つまり、実質的にはパーシーとセオドア様を引き合わせるためのお茶会だ。
濃紺の正装を着たパーシーは、とても緊張していた。
アデレインの手を強く握って、すーはーすーはーと何度も深呼吸する。
「僕はお義母様が大好き。迷惑を掛けない。僕はお義母様が大好き。大丈夫」
可愛い呪文を繰り返している。
おそらく教えたのはヒューイ様だろう。
この呪文を聞いた姉は、淑女にあるまじき大爆笑だった。
「……パーシー」
「はい。お義母様」
「大丈夫よ。いつも通りで」
「はい。ヒューイ様もいつも通り『お義母様大好き』なら大丈夫だって言ってました」
(あの男!!)
イラっとしつつもパーシーには笑顔を向けた。
「そうよ。パーシーはいつも通りで大丈夫。セオドア様はパーシーと一緒でご本が好きなんですって」
アデレインの言葉に、パーシーの顔が輝いた。
「じゃ、ご本の話をすれば大丈夫ですか?」
「ええ。きっと」
ちょっと甘やかしすぎたかなぁと思わなくもないが、それでも初めてのお茶会である。このくらいのズルは許してほしい。
「僕、頑張ってきます」
パーシーはそう言うと、アデレインの手を離した。
* * *
「パーシー、またね」
「テオ、僕の家にも……あ!」
ふたりはとても仲良くなったらしい。
パーシーもセオドア様を家に誘おうとして、その権限が自分にないと思い至ったようだ。
(……気にしなくてもいいのに)
賢いけれど、こういうところがもどかしい。
アデレインは一歩、セオドア様へと近づく。
「セオドア様、ぜひ、我が家にもいらしてください」
セオドア様と目を合わせてそう伝えると、彼はもじもじしながらも小さく頷いた。
その様子を見守っていたエヴァーシャム伯爵夫人が、満足げに微笑む。
「ありがとうございます。オルダートン嬢」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。わたくしもとても楽しく過ごせました」
パーシーが遊んでいる間、アデレインはエヴァーシャム伯爵夫人とふたりでお茶をしていた。
ご長男の友人の母君たちは今回は不参加だったのだ。
それは姉が配慮したのか、伯爵夫人が気遣ってくださったのか。
「オルダートン嬢はお仕事があって社交界にはお顔を出されませんけれど」
「ええ」
「とても魅力的な人柄ですわ」
「あ……ありがとうございます」
「ブランデルウッド公爵子息様が夢中になるのも分かりますわ」
アデレインは曖昧に微笑む。
「ふふ、ほんとうに面白い方ね」
艶やかに笑われて、姉の友人だと納得した。
* * *
お茶会のあった翌週。
「ヒューイ様! 僕、お友達ができたんです」
庭へと向かう途中で、パーシーがヒューイ様に報告する。
いつのまにかパーシーの手はヒューイ様と繋がれていた。
「へぇ? そのお友達に夢中になって僕のことをないがしろにしない?」
(……子供相手になんてことを言うのかしら?)
「僕はヒューイ様と違って、みんなに優しくするよ」
「え? それだと僕が優しくないみたいになるけど?」
「だって、ヒューイ様の一番はお義母様でしょ?」
「パーシーだって、そうだろう?」
「ううん。僕はみんなを一番にするんだ」
「なにそれ? パーシーちょっと卑怯だよ」
「僕の一番はみんなで。ヒューイ様の一番はお義母様で、だからヒューイ様は絶対にお義母様を幸せにしないといけないの」
「ぱ、パーシー!?」
アデレインは思わず後ろから声を挟んでしまった。
くるりとパーシーが振り返る。
「あのね、お義母様」
パーシーはとてもいい笑顔だった。
「僕は、お邪魔虫じゃなくて、キューピッドになるの」
可愛い。本当に可愛いけれど。
「誰ですの!! パーシーにそんなことを言ったのは」
「テオのお母様!!」
そう言うと、パーシーは走り出す。
ヒューイ様さえ置いて駆けていく。
「て……敵だらけだわ!!」
アデレインは叫ばずにおれなかった。




