第24話 一年目④ 月の夜へ
「お義母様、とっても素敵です」
パーシーの金色の瞳がきらきらと輝いて、アデレインを見ている。
「本当ですね。姉上。まるで月の女神のようです」
レジナルドは一体どこで学んできたのか、ちょっとおおげさである。
それでも二人からの賛美の声は嬉しく、アデレインも素直に受け止めた。
* * *
「……どうしよう。綺麗だ。もう王宮に行くのやめない?」
ブランデルウッド公爵家の家紋付きの馬車から降りてきたヒューイ様は、アデレインを見てそう言った。
「わたくしも賛成ですわ」
「うん。やめよう。で、ふたりで月明かりの下で踊ろう」
「……踊る気もないのですが?」
「え? どうして?」
「夜会でもないのに踊るつもりはありません」
「……」
アデレインはそのまま部屋に戻ろうとしたのだが、ヒューイ様に腕を掴まれた。
「だめ。それなら、嫌だけど王宮に行く」
「……嫌なら行かなければいいのでは?」
「だって君と踊りたい」
「……わたくしは踊りたくないので、欠席で構わないのですけど?」
「僕は踊りたい。それに欠席だと、ただ単に仕事をさぼったことになる。夜会には出ないと」
「……先ほどのご自身の発言を思い出していただきたいのですが?」
「あれは君がとっても綺麗だから、つい」
「……」
「こんな綺麗な君は僕だけが知っていればいいし、他の奴に見せる必要もない」
「もうすでにパーシーとレジナルドが見ていますが? あと使用人たちも」
「……数に入れないことにした」
「で、どうなさいますの?」
アデレインはヒューイ様を改めて見上げた。
目の前のヒューイ様は、それはもう見事としか言いようがない。
濃紺の燕尾服とスラックス。クラヴァットとベストはアデレインの瞳と同じ灰青色。襟元を飾る三日月の銀細工のブローチからは、銀の細い鎖が垂れ、先端にはブルーサファイアの小さな雫が揺れている。
正装姿のヒューイ様は、いつも以上に眩しすぎる。
その隣を歩かなくてはいけないアデレインの気持ちを考えてほしい。
(……行きたくない。家でのんびりしていたい)
「行くよ。それで君と何度も踊るんだ」
「わたくし、体力がありませんので、一度で終わらせていただけませんでしょうか?」
「疲れたら休めばいいと思う」
「疲れたくありません。あと」
ちょっとズルいかなぁと思ったがアデレインは伝えた。
「靴のサイズが合わないのか、少し痛みを感じていますので……」
言い終わらないうちにヒューイ様の目が鋭くなり、アデレインは抱えあげられていた。
「ちょ……ちょっと待ってください」
「ダメだよ。痛いならダメ」
「あの……」
「このまま馬車まで運ぶから。っていうか、他の靴はないの? どうせドレスで見えないからいつもの靴に変えよう。そこの侍女、ほら、すぐに持ってきて」
あまりの距離の近さにアデレインの心は悲鳴を上げていた。
完全に触れ合っている。
背中から腰、そして膝裏にヒューイ様の腕が回っている。しかも、顔がものすごく近い。ヒューイ様の胸の硬さがドレス越しに伝わってくる。
(無理!! 無理です!!)
こんなことなら大人しく何度もダンスをした方がマシだった。
「だ、大丈夫ですから!!」
「ダメだって。アデレインの足に傷なんてつけたくない。っていうか。もう傷があったりしないよね?」
「な、ないです」
見せろと言われそうな気がしたので、アデレインは即座に答えた。
「本当に?」
「本当です」
「……見て確認したいけど」
「ダメに決まってます!!」
「そうだよね……」
ヒューイ様はアデレインを抱えたまま、馬車に乗る。
(……い、意外と力持ち)
優しくて甘い顔立ちのせいで、鍛えている雰囲気がないのだ。
王宮に行く前だというのに、アデレインの心臓はすでに疲れきっていた。




