第15話 申し入れ
姉が身上書を持ち込んでから、約一か月。
サマーホワイトの実があちこちに落ち始める十月。
家の庭でパーシーとレジナルドと三人で、祈りの実を探していたところで、父に呼び出された。
パーシーをレジナルドに任せ、父の執務室へと向かうと、険しい顔をした父がアデレインにソファを示した。
それに従いソファに腰を下ろしたアデレインの前に、父は一通の封書を置いた。
「これは?」
「身上書だ」
(……お父様まで!?)
アデレインはうんざりした。
姉からは毎日のように身上書が届く。それもなかなかの量だ。
おそらく、アデレインが根を上げて、誰でもいいから顔合わせをし、そのうちの一人ぐらいとうまくいくかもしれないという魂胆なのだろう。
そこに父まで参戦したのかと思い、アデレインは気が重くなったのだが。
「……これは先方からの申し入れだ」
「え?」
父が難しい顔をしているということは、相手に不満があるのだろうか?
それでいて断りづらい?
アデレインは震える手で封書から身上書を取り出す。
(な……っ!!)
アデレインは驚きに目を見開いた。
* * *
「どういうことですか!!」
身上書を見た翌日、アデレインはヒューイ様を捕まえた。
相変わらず金色の髪は眩しいし、ローズピンクの瞳は綺麗だ。だが、今はそんなことに構っていられない。周りに目があるのは分かっているが、なんとしても捕まえなくてはいけなかった。かといって公爵家に押しかけるわけにはいかないので、仕事終わりに、絶対に通るであろう場所で待ち構えていたのだ。
「……どういうこと?」
「し、身上書、です」
捕まえ終われば、さすがに注目を浴びるのを避けたい。
小さな声で伝えれば、「あぁ」と彼は頷き、それから微笑んだ。
「どういうことって、書いてあったよね? 婚約の申し込みだけど?」
思わずアデレインは周囲を見渡した。
声が聞こえそうな範囲に、今のところは誰もいない。
だが、ここは通り道でもある。いつ誰に聞かれるともしれない。それでも、話はしたい。どこかへ移動しなくては。でも、どこへ?
「僕の家に行く?」
気を遣って小さな声で訊いてはくれるが、勘弁してほしい。敵地に行く気はない。ずるずると芋づる式に婚約が決まってしまいそうで怖い。
あの身上書には間違いなくブランデルウッド公爵家の家紋と、公爵閣下の署名もあった。その状態でアデレインが公爵家を訪れてしまえば、逃げ道がなくなってしまうかもしれない。
どこへ行けば安全なのか。
「グレイスコート侯爵邸に、来てください」
苦し紛れに、姉の家を提案した。
本当はそこにだって行きたくない。だが、万一ヒューイ様が我が家に来たのを見られたら? まだ、百歩譲って姉の家であれば、義兄に仕事の話があったとでも誤魔化せるはず。……ただし、姉の反応は怖い。
「グレイスコート侯爵邸ってたしか……」
「姉の嫁ぎ先です」
「そこに、今から?」
「……い、今から」
多少強引すぎることに遅まきながら気づく。
「一緒に?」
「ダメです!! 絶対にダメです!!」
「……分かった。今からどれくらい後に伺ったらいいの?」
ヒューイ様は気を遣える方だ。
唐突なアデレインの提案に、迎える側の心配をしてくれたのだろう。
(……悪い方ではないのよ。全然悪い方ではない)
ただ、アデレインではヒューイ様に申し訳なさすぎる。
「……一時間後なら、たぶん」
姉一家に事情を話さなくてはいけないし、彼らがヒューイ様を招くにあたって体裁を整える必要だってあるだろう。一時間で足りるかは分からないが、それ以上はヒューイ様に失礼な気がした。
「分かった。それまでどっかでゆっくりしている」
「……」
ふわりと微笑まれ、しかもなんだか妙に甘く響いて、アデレインは手段を誤った気がした。




