第13話 ヒューイの目
オルダートン嬢の灰青色の瞳が少しだけ色を失う。
窓から差し込む光が、彼女の髪を琥珀色に輝かせる。
(……ほんとだ、パーシーの言う通りだ)
彼の手紙には『お義母様の髪は陽に当たると琥珀色になって、とても綺麗なんだ』と書いてあった。普段王宮内では陽に当たりにくい。なので、彼女の髪は灰色とばかり思っていた。
(綺麗だなぁ)
先ほどからパーシーの話で盛り上がっていたオルダートン嬢だが、負けて悔しいのだろう。灰青色の瞳が陰っている。
意外と負けず嫌いだし、人の話を聞かない時もあって、でもそのすべてがなんだか……
うーんとヒューイは考え込む。
オルダートン嬢を見ていると、うまく言葉にできないことがある。
(あ、そう言えば)
ずっと気になっていたことを、ヒューイは彼女に訊く。
「キャロットケーキは、君が作ったの?」
「え?」
「パーシーの手紙を読む限りは、君が作ったって書いてあって、料理人にお願いしたんじゃなくて?」
そう訊くと、頬がわずかに赤く染まる。
僅かに瞳を泳がせて、そしておそるおそるヒューイに答えを返してきた。
「……ケーキとかクッキーとかを作るのが、好きなんです」
小さな声だった。
きっと、令嬢らしくないと周りから思われるのが嫌なのだろう。
確かに貴族令嬢が厨房に立つなどありえない。
でも。
(……可愛いっていうか)
「食べたい!!」
ヒューイは彼女の手作りだという、その何か、クッキーでもケーキでも、なんでもいいから食べたいと思った。
「そ、それはさすがに?」
「え? なんでダメなの?」
「……いやいや、ヒューイ様に手作りは無理です。渡せません」
「なんで?」
食い下がるヒューイに、オルダートン嬢はため息を吐きながら、言葉を続けた。
「あのですね。貴方はブランデルウッド公爵家のご子息です」
「……」
「口に入れるものに気をつけていらっしゃいますよね?」
(やっぱり可愛くない)
ヒューイは思った。
さっきまではとてつもなく可愛かったのに、今度は可愛くない。淡々とヒューイをやり込めようとしてくる。
「……そうだけど。オルダートン嬢は別に毒なんて盛らないだろう?」
「当たり前です。でも、それとこれとは別ですよね?」
納得はしたくない。だが、ヒューイは腐っても公爵子息だ。オルダートン嬢は正しいことしか言っていない。
「毒見役がいればいいのか?」
「はい?」
「そういうことだよね?」
「……そう、なりますか?」
首を傾げつつ、彼女はそう言った。
ヒューイはこの耳で確かに聞いた。
にんまりと笑う。
オルダートン嬢の瞳がさらに陰った。
(察しがいい)
「ど、毒見役は、王宮には来れませんよね?」
「アーサーの毒見役を借りるよ」
「……あ、あの?」
いつも王宮にいる従弟のアーサーの名前を出した。
必要なのはその毒見役だが。
「それならいい?」
「そうは言ってないかと?」
「さっきは、そういうことになるって言ったよ?」
「い、言ってません!!」
普段は冷静な彼女が必死になっている。
(やっぱり可愛い)
ヒューイはそう思った。
そして、是非とも彼女にクッキーでもケーキでもなんでもいいから作ってもらおうと心に決めた。
「僕、甘いの好きだから」
にっこりと笑ってそう告げたが。
「絶対に作りません!!」
彼女はとても頑なだった。




