表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の貧乏貴族に転生した俺、千年の軍事知識で小国を救う  作者: 空鯨レイ
アーク1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/20

王都の華と、錆びた歯車

王都ルンデルは、遠目には宝石のように輝いていた。


白亜の城壁、尖塔がそびえる王城、そして街を覆う色とりどりの旗。

ヴェラム王国の心臓部であり、三大帝国の外交官たちがひしめく政治の中枢だ。


だが、馬車の窓からそれを眺める俺の目には、この街は「朽ちかけた砂上の楼閣」として映っていた。


「……酷いな」


俺は思わず呟いていた。

隣に座るカイルが、いぶかしげに眉をひそめる。


「何がだ、アルデン。王都の繁栄がねたましいのか?」


「繁栄? 兄上、あれを見ろ」


俺は窓の外、城門へと続く街道を指差した。

そこには、王都へ向かう物資を積んだ荷馬車の列が延々と続いている。

だが、その荷馬車の大部分には「オルヴァーネ商業連合」の紋章が掲げられていた。


「王都の食料自給率は、俺の計算では四割を切っている。残りの六割は、西の商業連合からの輸入に依存している。

つまり、オルヴァーネが国境を封鎖すれば、この王都は二週間で飢え死にする。

これが『繁栄』か? これは『家畜』の姿だ。飼い主が餌をやるから生きているだけの」


カイルは言葉を一瞬失い、そして苦々しげに唇を噛んだ。


「……父上も、同じことを呟いていたな。『王都の貴族は、剣の錆びに気づかず、さやの装飾ばかり磨いている』と」


「その通りだ。だから俺たちが来た。辺境の『錆びついた鉄』が、王都の『飾り物』たちに、本当の戦争の匂いを嗅がせてやるためにね」


***


王都への入城は、予想通り難航した。


「ヴェラム伯爵家の三男? 庶子? ……はあ。通行証は? 紹介状は?」


城門の衛兵は、俺の貧相な旅装と、十二歳という年齢を見て、露骨に面倒くさそうな顔をした。

辺境の貧乏貴族など、王都にとっては「いてもいなくても同じ」存在なのだ。


「紹介状はない。だが、これを通せば、宮内庁の『ある方』が関心を持たれるはずだ」


俺は懐から、一通の封筒を取り出した。

中には、羊皮紙が一枚。

そこには、王都の「水事情」に関する詳細な分析図と、ある提案が書かれている。


衛兵は半信半疑で封筒を受け取り、上官へ回した。

三十分後、俺たちはなぜか「宮内庁の馬車」で迎えられ、一般市民とは隔離された貴族用ゲートから王城へと招かれた。


カイルは呆気あっけに取られている。


「……お前、何をした?」


「王都の地下水脈は、近年の過剰な汲み上げで枯渇しかけている。貴族たちは魔法で誤魔化しているが、平民地区ではすでに井戸が涸れ始めている。

俺は、古代帝国の『灌漑かんがい技術』と、この地域の地質データを掛け合わせ、新たな水源の候補地と、節水システムの設計図を書いておいた。

……王都の技術官たちは、喉から手が出るほど欲しい情報だったんだろうよ」


知識は、国境を越えるパスポートになる。

これが、俺の最初の「外交カード」だ。


***


王城の一角にある「王立図書館」。

ここは、王家の血筋と、許可された学者しか入れない聖域だ。

俺は「水源提案の礼」という名目で、特別に一時入室を許可されていた。


目的は一つ。

ここで「ある人物」と接触することだ。


書架の迷路を進むと、奥まった読書室から、低い口論の声が聞こえてきた。


「——だから、その理論は机上の空論なのよ! ラズラン帝国の機甲師団を、正面から受け止める兵力など、我が国には存在しないの!」


「しかし、セラフィナ殿下。我々の騎士団の勇猛さは、帝国兵の比では——」


「勇猛さで鉄は貫けないわよ! あなたたち武官は、いつもそればかり!」


俺は読書室の扉を、ノックもせずに開けた。


中にいたのは、銀の髪を長く伸ばした少女——第二王女セラフィナ(16歳)と、彼女の指南役らしい老騎士だ。

セラフィナは、机の上に広げられた大陸地図を睨みつけ、苛立ちを隠せずにいる。


彼女の噂は聞いている。

王族の中で唯一、国の滅亡を予測し、孤軍奮闘している「憂国の姫」だと。

だが、彼女の周囲には「お飾りの王女」として扱う者ばかりで、まともに取り合う者はいない。


「……失礼。部外者だが、少し気になってな」


俺が声をかけると、セラフィナは鋭い眼光で俺を射抜いた。


「誰? ここは貴族の子供の遊び場じゃないわよ。出て行きなさい」


「遊びではない。君の『敗北予測』は正しいが、『解決策』が間違っていると言おうかと思ってね」


セラフィナの眉間が、ピクリと動いた。


「……どういう意味?」


俺は机の上の地図を指差した。


「君は、帝国の機甲師団を止めるために、国境に要塞を築き、兵力を集中させようとしている。だが、それは『最悪手』だ」


「はあ? 正攻法で守らなくて、どうしろと?」


老騎士が怒鳴ろうとしたのを、セラフィナが手で制した。

彼女の瞳は、俺を値踏みする色に染まっている。


「聞かせて。『最悪手』だというなら、あなたの『正解』は何?」


「要塞は作らない。兵力も集中させない。むしろ、国境の門を『開ける』」


「……は?」


セラフィナと老騎士が、同時に間抜けな声を漏らした。


「帝国軍を入れればいい。だが、ただは入れない。

街道を『泥沼』にし、村々の食料を『焼き払い』、井戸に『毒草』を混ぜる。

帝国軍が王都へ到達する頃には、彼らは飢えと病で半分以下に減っている。

そこで初めて、我が国の全兵力で『包囲殲滅』する。

これが、小国が大国に勝つ唯一のシナリオ——『国土強靭化と焦土作戦』の組み合わせだ」


俺は、前世で研究した「ロシアのナポレオン征伐」と「フィンランドの冬戦争」の戦訓を、この世界に合わせて翻訳して語った。


セラフィナは、口を半分開けたまま、地図と俺を交互に見つめている。

やがて、彼女はゆっくりと椅子に座り直し、俺を——十二歳の辺境貴族を、一つの「政治勢力」として認識し直したようだ。


「……面白いわ。とても面白い。

でも、それを実行するには、国王である父様の許可と、貴族たちの既得権益(領地や財産)を犠牲にする決断が必要よ。彼らは、自分の領地が焼かれることを許さないわ」


「だから、俺が来たんだ」


俺はセラフィナの目を真っ直ぐに見据えた。


「俺は辺境の貧乏貴族。失うものなど、最初からない。

俺が『実験台』になり、辺境でその戦術を実証してみせる。

成功すれば、殿下はそれを『王都防衛の新ドクトリン』として、貴族たちに押し付ければいい。

……どうだ、殿下。俺と『契約』しないか?」


セラフィナは、しばらく沈黙した。

やがて、彼女は妖しく、そして知的に微笑んだ。


「……名前を聞き忘れていたわ。辺境の化け物くん」


「アルデン・ヴェラムだ」


「よろしくね、アルデン。私はセラフィナ。

あなたの『戦争ごっこ』、私が王宮内でバックアップしてあげる。

ただし、条件があるわ」


「何でも」


「私を、あなたの『共犯者』にして。

この腐った国を、一緒に壊して、一緒に作り変えましょう」


彼女は俺に手を差し伸べた。

その手は、華奢だが、ペンを握るためにしっかりと筋肉がついていた。


俺はその手を握り返す。


「光栄だ、殿下。だが、俺が壊すのは国じゃない。『常識』だ」


こうして、辺境の少年と、憂国の王女による、王国を巻き込んだ「反逆」の盟約が結ばれた。


王都の歯車は、俺たちの手で、音を立てて狂い始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ