表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の貧乏貴族に転生した俺、千年の軍事知識で小国を救う  作者: 空鯨レイ
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/36

第二部 第14話 旧き血の断末魔と、硝煙の中の誓い


王都ルンデルと北の辺境を隔てる「竜の背骨」山脈。

そこに穿うがたれた全長三キロメートルの「大山脈貫通トンネル」は、大陸の物流を永遠に変える奇跡の土木工事だった。


「……明日の朝には、最初の定期列車がこのトンネルを抜ける。大陸の『距離』が、ついに完全に死ぬ日だ」


試運転用の装甲列車の車内。

アルデンは窓の外に広がる闇を見つめ、静かに呟いた。

隣には、私服のローブを纏ったセラフィナが、温かい紅茶をカップに注いでいる。

護衛は最小限。二人は今夜、王と王配としての仮面を脱ぎ捨て、ただの「技術者と女王」として、自分たちが作った新しい世界の胎動を感じたかったのだ。


「貴方が山に穴を空けるなんて、神様が呆れているわよ、アルデン」

「神様が呆れる前に、旧時代の亡霊たちが怒り狂っているようです、陛下」


アルデンの言葉の終わり、列車がトンネルの中央に差し掛かった時、突然の轟音と共に車体が激しく揺れた。


ドォォォォン!!


「——なっ!?」

「爆発!? トンネルの天井が崩落している!」


列車は非常ブレーキできしみながら停止した。

前後を、大量の岩盤と土砂が塞ぐ。完全な閉じ込めだ。


***


「出てこい、簒奪者さんだつしゃの娘と、煙を吐く悪魔め!」


崩れたトンネルの向こうから、松明の炎と共に数十人の影が現れた。

彼らが纏っているのは、錆びついた旧式のプレートアーマー。

手にしているのは、オルヴァーネの残党から横流しされた最新式のダイナマイトと、古式な長剣。


「我らは『青き血の誓約騎士団』! 王都粛清で追放された、真の貴族の末裔だ!」


リーダー格の男が、剣を突きつけて叫んだ。

「お前たちが敷いた『鉄の道』も、汚らわしい『工場』も、今夜ここでおしまいだ。

このトンネルごとお前たちを生き埋めにして、我々は大陸の諸国へ『ヴェラムの王の首』を送りつける。

血統こそが絶対! 平民ごときが王の隣に立つなど、天への冒涜だ!」


セラフィナは、カップをそっと机に置き、そして列車の壁に掛けられていた護身用の短剣を抜き放った。

彼女の瞳には、恐怖ではなく、ただ冷徹な「王の怒り」が宿っている。


「……血統? 貴様らが誇るのは、ただの『腐った血』よ。

私の国を焼き、民を飢えさせ、自分たちだけが甘い蜜を吸おうとした寄生虫ども。

貴様たちの『名誉』など、このトンネルの岩盤よりももろいわ」


「生意気な女だ! 殺せ!」


騎士たちが列車の扉をこじ開けようとする。

だが、アルデンは動じなかった。

彼は懐から、銀色に輝く奇妙な「鉄の塊」を取り出した。


兄上カイルには『騎士道に反する』と怒られましたが……これが、新しい時代の『礼儀』です」


バン! バン! バン!


乾いた破裂音が、閉鎖されたトンネルにとどろいた。

アルデンが手にしていたのは、王立工廠で極秘に開発された「六連発リボルバー(回転式拳銃)」のプロトタイプだった。

旧式のマスケット銃が装填に三十秒かかるのに対し、これは引き金を引くだけで連続して六発の鉛弾を叩き込む。


「ぐあっ!」「な、なんだその武器は!? 魔法か!」


扉を破ろうとした三人の騎士が、眉間と胸を撃ち抜かれて倒れる。

だが、敵の数はまだ多い。彼らはダイナマイトに火をつけ、列車の足元へと投げ込もうとしていた。


「アルデン、伏せて!」


セラフィナがアルデンの腕を掴み、車厢しゃこうの床へと引き倒した。

次の瞬間、爆風が扉を吹き飛ばし、硝子と木片が二人の頭上を飛び交った。


煙と粉塵の中、数人の騎士が車内に飛び込んでくる。

アルデンのリボルバーは撃ち尽くし、セラフィナの短剣が一人の騎士の腕を斬り裂いたが、多勢に無勢だ。


「死ね、悪魔め!」


大柄な騎士が、アルデンの頭上へ剣を振り上げた。

その刃は、アルデンの肩を深くえぐり、血が飛沫を上げた。


「アルデン!!」


セラフィナが悲鳴を上げ、自分の体をアルデンの上に覆いかぶせた。

王でも、女王でもなく、ただ一人の人間として、彼女は愛する男をかばったのだ。


「……陛下。なぜ……契約には、こんな危険は——」


血を流しながら、アルデンが嗚咽おえつ混じりに呟く。

セラフィナは涙を流しながら、しかし気高く微笑んだ。


「馬鹿ね……契約書に書いてあるから、貴方を守ったんじゃないわ。

私が……私が、貴方を愛しているからよ、私の共犯者」


その言葉は、硝煙と血の匂いの中で、誰にも聞こえないほど小さかった。

だが、アルデンの耳には、どんな汽笛よりも大きく、そして確かに響いた。


***


「……ふざけるな」


アルデンが、ゆっくりと立ち上がった。

肩の傷から血が流れているが、彼の瞳からは、人間としての感情がすべて消え去り、ただ冷酷な「物理法則の執行者」の光だけが宿っていた。


「貴様たちのような『過去の亡霊』に、私の未来を、私の妻を、傷つけさせるものか」


彼は壁の配電盤を拳で叩き割ると、中の太い銅線を無理やり引きちぎった。

それは、トンネル内の「電気照明」と「換気用ポンプ」へ送られる、高圧の直流電流のメインケーブルだ。


「何を——」


騎士たちがいぶかしんだ瞬間、アルデンはちぎったケーブルを、列車の鉄の車体(そして、床に溜まった水たまり)へと叩きつけた。


「——感電ショックしろ、旧時代」


バチバチバチバチバチッ!!!!


青白い閃光と、オゾンの匂いが車内を包んだ。

鉄の車体と水たまりを伝って、数百ボルトの電流が騎士たちの金属製のアーマーへと奔流した。


「ぎゃああああああ!!」「熱い! 体が焼ける!」


「青き血」を誇った騎士たちは、自分たちが纏う「古い鉄」によって、無残にも焼き尽くされ、痙攣けいれんして気絶、あるいは絶命した。

アルデンは、ゴム引きの絶縁手袋をめた右手だけでケーブルを握り、セラフィナを抱きしめたまま、この地獄の回路の中心で屹立きつりつしていた。


***


数時間後。

外部から緊急連絡を受けたカイル率いる救助隊が、瓦礫を撤去してトンネル内へと突入した。


「アルデン! 陛下! ご無事ですか!」


カイルが駆け寄ると、そこにはすすと血にまみれた二人の姿があった。

アルデンは壁にもたれかかり、セラフィナが彼の肩の傷に自分のドレスを裂いて包帯を巻いている。

周囲には、黒焦げになった旧貴族たちの残骸が散乱していた。


「……遅かったな、カイル。清掃がまだ終わっていないぞ」


アルデンが、疲弊しきった顔で苦笑した。

カイルは、二人の姿と、床に転がる電線を見て、すべてを悟ったように深く息を吐いた。


「……お前ら、本当に死ぬ気か。王と王配が、トンネルの中で感電死寸前のトラップを仕掛けるとはな」


「ええ。ですが、これで旧時代の残党は、本当に最後の一人まで根絶やしです」


セラフィナが立ち上がり、そしてアルデンの手を強く握りしめた。

彼女のドレスは泥と血で汚れ、髪は乱れている。だが、その瞳は、かつてないほど美しく、そして力強かった。


「カイル。王都へ戻ったら、大々的に発表してちょうだい。

『旧貴族の反乱は、我々の『電気』と『鉄』によって完全に鎮圧された』と。

そして……」


彼女はアルデンを見上げ、群衆や兵士たちの前であることを構わず、彼の唇にそっと自分の唇を重ねた。

それは、契約の更新でも、政治的なパフォーマンスでもない。

硝煙と血の中で交わされた、二つの魂の「永遠の誓い」だった。


「そして、王配アルデンは、私の唯一の『心臓』であると」


兵士たちが歓声を上げ、カイルが照れくさそうに帽子を脱いだ。

トンネルの向こう側から、夜明けの第一便となる蒸気機関車の汽笛が、新時代の夜明けを告げるように高く響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ