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大奥で下女をしていたら、算術の才能がバレて勘定方と組むことになった件 ――利権まみれの大奥を最適化します。  作者: 細川 雅堂
【関東商圏編 ―仕組みが国を動かす―】

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第21話 香りは、風に乗せて

――織江屋再興編・江戸の空気を塗り替える一撃


本多が失脚し、大黒屋が沈んだその翌月。

江戸の町は、奇妙な静けさに包まれていた。


「大黒屋がいなくなって、

 香り物はどこで買えばいいんだ?」


「南蛮香水は高すぎるし……」


「織江屋? あそこはもう……」


そんな声が町のあちこちで聞こえる。


ぬいは、

その声を聞きながら、

新しく掲げ直した「織江屋」の暖簾を見上げた。


(……ここからが本当の勝負。

 江戸の空気そのものを、

 “織江屋の香り”に染める)


お縫は、

大奥で作り上げた 和の香水 の瓶を手に取った。


お縫は、

水野を呼び出した。


「江戸の町には、

 “風の道”がございます」


水野は眉を上げた。


「風の道?」


「はい。

 人の集まる場所、

 噂の流れる場所、

 香りが最も広がる場所――

 それらはすべて“風の道”に沿っております」


お縫は、

香水の瓶を三つ取り出した。


「この香りを、

 江戸の“風の道”に乗せます」


水野は、静かに笑った。


「また妙なことを言い出すな。

 どうやって乗せる?」


お縫は、にこりと微笑んだ。


「人に、でございます」


その夜。

お縫は、人気役者・市村座の若衆の楽屋を訪れた。


「これは……香り物かい?」


「はい。

 袖口に、ほんの少しだけ」


若衆は袖を揺らし、

ふわりと香りが漂った。


「……なんだいこれ。

 南蛮の香りより、ずっと粋だ」


お縫は、静かに頭を下げた。


「舞台の上で、

 風が動くたびに香りが広がります。

 観客は、気づかぬうちに“織江屋”を覚えます」


若衆は笑った。


「面白ぇ。

 明日の舞台で使わせてもらうよ」


翌日。

お縫は吉原へ向かった。


花魁・薄雲うすぐもが、

香りをひと嗅ぎして目を細めた。


「……これは、男が落ちる香りだねぇ」


「いえ、

 “女が自分を好きになる香り”でございます」


薄雲は扇子で口元を隠し、

くすりと笑った。


「気に入ったよ。

 誰にも言わないでおく。

 “秘密の香り”ってのは、

 男を狂わせるからね」


お縫は深く頭を下げた。


(花魁が使えば、

 噂は自然と広がる)


◆瓦版が騒ぎ出す

三日後。

江戸中の瓦版が、

一斉に騒ぎ始めた。


「市村座の若衆、袖から“謎の香り”」

「吉原の薄雲太夫、誰にも教えぬ“秘密の香り”」

「南蛮香水ではない、新しい香りが江戸を席巻!」


町人たちがざわつく。


「なんだいその香り……?」


「どこで手に入るんだ?」


「織江屋らしいぞ!」


「織江屋……?

 あの織江屋か?」


お縫は、

店の前に立つ人だかりを見て、

静かに息を吸った。


(江戸の空気が、

 “織江屋の香り”に染まり始めた)


その夜。

水野が織江屋に姿を見せた。


「贅沢禁止令の網を、

 どうにか潜らせたぞ」


お縫は目を見開いた。


「香り物は“身だしなみ”として扱う。

 そう老中に通した。

 これで大黒屋の残党は手を出せぬ」


お縫は深く頭を下げた。


「水野様……

 これで、江戸の風は変わります」


水野は、

お縫の横顔を見つめながら呟いた。


「お前の香りは、

 江戸そのものを動かすな」


その夜。

江戸の町を吹き抜ける風は、

ほんのりと花の香りを含んでいた。


町人たちが振り返る。


「……いい香りだな」


「どこからだ?」


「織江屋だよ。

 今、江戸で一番粋な店さ」


お縫は、

暖簾の影で静かに微笑んだ。


(ここから――

 織江屋の再興が始まる)


(第22話へ続く)

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