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大奥で下女をしていたら、算術の才能がバレて勘定方と組むことになった件 ――利権まみれの大奥を最適化します。  作者: 細川 雅堂
【江戸再興編 ―風と光を操る店―】

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第20話 物の値は、揺れねば嘘

――大奥構造改革編・断罪の一撃


御納戸おなんどの帳場。

ぬいは、十年分の帳面を前に静かに座っていた。


「頭取様……

 これ、本当に全部見るんですか……?」


若い女中が震える声で言う。


お縫は頷いた。


(……本多と御用達商人の“談合”。

 その証拠は、数字の揺れに現れる)


(物の値は、年ごとに必ず揺れる。

 豊作、不作、流行り廃り、天候……

 揺れぬ数字は、作り物)


お縫は筆を取り、

帳面の端に小さく印をつけた。


「本日は“値の揺れ”を見ます」


「揺れ……?」


「どういうことでございますか?」


お縫は、淡々と説明した。


「こちらをご覧ください」


お縫は、十年分の“布の仕入れ値”を並べた。


一年目:三分


二年目:三分


三年目:三分


四年目:三分


五年目:三分


六年目:三分


七年目:三分


八年目:三分


九年目:三分


十年目:三分


女中たちが息を呑む。


「……全部、同じ……?」


「十年も……?」


お縫は静かに頷いた。


「布の値は、

 天候や流行りで毎年揺れます。

 十年揺れぬなど、あり得ませぬ」


女中たちの顔色が変わる。


「じゃあ……

 これは……?」


「談合でございます」


お縫は、淡々と告げた。


「値を揃え、

 “高値のまま”売りつけていたのです」


お縫は別の帳面を開いた。


「こちらは、油の値」


一年目:四分


二年目:四分


三年目:四分


四年目:四分


五年目:四分


「こちらは、紙の値」


一年目:二分


二年目:二分


三年目:二分


四年目:二分


女中たちは震えた。


「全部……揺れてない……」


「こんなこと、あり得ない……!」


お縫は、筆を置いた。


「物の値は、人の心と同じ。

 揺れぬものは、作り物」


夕刻。

水野が帳場に姿を見せた。


「本多が“値は変わらぬものだ”と喚いていたぞ」


お縫は静かに答えた。


「では、老中会議で伺いましょう。

 “十年揺れぬ値”が、

 果たして自然かどうか」


水野は笑った。


「お前の数字は、

 逃げ道を許さぬな」


お縫は、前髪の奥で目を細めた。


(本多。

 あなたの“商人との結託”は、

 もう隠せません)


翌日。

水野は、お縫のまとめた帳面を携え、

老中会議へ向かった。


お縫は御納戸で静かに待つ。


(数字は、嘘を許さぬ。

 あとは、水野様の言葉で十分)


しばらくして――

水野が戻ってきた。


「……決まった」


お縫は静かに顔を上げた。


「本多は、

 “御用達商人との談合”の罪にて、

 免職・御家断絶」


女中たちが息を呑む。


「大黒屋は、

 御用鑑札を剥奪。

 商いは続けられぬ」


お縫は、深く頭を下げた。


「数字が語っただけにございます」


水野は、静かに言った。


「お前の数字は、

 大奥を救った」


その夜。

大奥は静かだった。


蝋燭の灯りが揺れ、

新しいガラス障子が柔らかく光を返す。


お縫は、

帳場の灯りを消しながら呟いた。


(本多。

 あなたの“利権の城”は、

 数字に崩された)


(大奥は、

 もうあなたのものではない)


静かな夜風が、

お縫の頬を撫でた。


(第二部・完)

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