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大奥で下女をしていたら、算術の才能がバレて勘定方と組むことになった件 ――利権まみれの大奥を最適化します。  作者: 細川 雅堂
【江戸再興編 ―風と光を操る店―】

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第19話 数字は、嘘を許さぬ

――大奥構造改革編・外堀を埋める一撃


御納戸おなんどの帳場。

ぬいは、積み上がった帳面を前に静かに座っていた。


「頭取様……

 これ、全部“本多様の差配”で動いた帳面ですよ」


若い女中が震える声で言う。


お縫は頷いた。


(……第一部の頃から気になっていた。

 “帳尻だけが合っている帳面”。

 中身が伴わぬ数字は、必ずどこかで綻びる)


お縫は筆を取り、

帳面の端に小さく線を引いた。


「本日より、

 “入れた金”と“出した金”を、

 必ず二つに書き分けます」


「二つ……?」


「どういうことでございますか?」


お縫は、淡々と説明した。


「金は、

 “入った先”と“出た先”がございます。


入ったら“入れた欄”に、

 出したら“出した欄”に。


この二つが揃わねば、

 帳面は成り立ちませぬ」


女中たちは顔を見合わせた。


「そんな簡単なことで……

 何が変わるんです?」


お縫は、にこりと微笑んだ。


「“幽霊物資”が消えます」


「幽霊……?」


「はい。

 実際には届いていないのに、

 帳面だけに載っている物のことです」


女中たちが息を呑む。


「そんなものが……

 本当にあるのですか?」


お縫は、静かに頷いた。


「本多様の帳面には、

 “入れた”と書かれているのに、

 “出した”先が書かれていない物が多すぎます」


お縫は帳面を開き、

女中たちに見せた。


「ここ。

 “米三斗、入れた”とあります」


「はい」


「ですが――

 “どこへ出したか”が書かれていない」


女中たちの顔色が変わる。


「では……

 その米はどこへ?」


「分かりませぬ。

 帳面が嘘をついているからです」


お縫は、筆を走らせた。


「ですが、

 二つの欄に書かせれば――

 嘘は必ず露わになります」


夕刻。

水野が帳場に姿を見せた。


「お縫。

 本多が“帳面の書き方を変えるな”と怒鳴っていたぞ」


お縫は静かに答えた。


「帳面は“大奥の金の流れ”を記すもの。

 誰か一人の都合で書き換えるものではございません」


水野は笑った。


「お前の言い分は正しい。

 老中にも通る理屈だ」


お縫は、前髪の奥で目を細めた。


(本多。

 あなたの“帳面の魔法”は、

 もう通じません)


翌日。

女中たちが新しい帳面の書き方で記録を始めると――


「頭取様!

 “入れた”と書かれているのに、

 “出した”が空白の物が山ほどあります!」


「こちらもです!

 “出した”と書かれているのに、

 “入れた”が見当たりません!」


お縫は頷いた。


「それが“幽霊物資”です」


「じゃあ……

 本多様は……?」


お縫は、静かに言った。


「数字は、

 誰が嘘をついているかを、

 雄弁に語ります」


女中たちは震えた。


「これ……

 老中会議に出せば……?」


「はい。

 本多様の“外堀”は、

 これで埋まります」


その夜。

水野が御納戸に戻ってきた。


「本多が“帳面を元に戻せ”と喚いていた。

 だが、もう遅い」


お縫は、静かに目を細めた。


「帳面は、

 大奥の真実を映す鏡。

 曇らせることはできませぬ」


水野は頷いた。


「次は“商人の談合”だな。

 お前の数字の刃が、

 いよいよ本多の首を取る」


お縫は、前髪の奥で静かに微笑んだ。


(本多。

 あなたの“金の流れ”は、

 もう隠せません)


帳場の灯りが揺れ、

お縫の影が静かに伸びた。


(第20話へ続く)

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