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大奥で下女をしていたら、算術の才能がバレて勘定方と組むことになった件 ――利権まみれの大奥を最適化します。  作者: 細川 雅堂
【江戸再興編 ―風と光を操る店―】

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第15話 火は“押し返す力”で消す

――大奥構造改革編・信頼を勝ち取る一撃


夏の午後。

大奥の廊下に、突如として叫び声が響いた。


「火だ! 火が出たぞ!」


「台所の裏手だ! 油に引火した!」


女中たちが悲鳴を上げ、

桶を抱えて走り回る。


だが――

桶の水は、火にかければ蒸発するだけ。

火勢はむしろ強まっていく。


ぬいは、

その炎を一瞥し、静かに息を吸った。


(……来た。

 本多派が仕掛けてくる“嫌がらせ”の一つ。

 ここで消せば――大奥の信頼は、すべてこちらに傾く)


「水野様!」


お縫が呼ぶと、

水野はすでに動いていた。


「例の“押し返す道具”は、用意してある」


お縫は頷いた。


「では――参りましょう」


二人は御納戸の裏手へ走る。


そこには、

お縫が設計し、水野が職人に作らせた

“手押し式の高圧水押し(ポンプ)” が置かれていた。


木枠に組まれた筒、

押し棒、

吸い口と吐き口。


見た目は素朴だが、

その仕組みは――


(パスカルの理。

 狭い所に力を集めれば、

 水は“押し返す力”を持つ)


お縫は女中たちに叫んだ。


「桶は置いてください!

 こちらに並んで、押し棒を交代で押してください!」


「えっ……?」


「こんな道具で火が消えるのかい……?」


お縫は、にこりと微笑んだ。


「火は“押し返す力”に弱いのです」


水野が吸い口を井戸に沈め、

お縫が吐き口を火元へ向ける。


「押せ!」


女中たちが押し棒をぐっと押し込むと――


ごうっ!


細い筒から、

桶の何倍もの勢いで水が噴き出した。


「な、なんだいこれ……!」


「桶の十倍はあるよ!」


炎が一瞬で押し返され、

火勢が弱まる。


「もう一度!」


ごうっ!


二度目の水で、

炎は完全に沈んだ。


煙が薄れ、

焦げた匂いだけが残った。


火が消えた直後、

御台所が駆けつけた。


「火は……どうなりました?」


お縫は深く頭を下げた。


「鎮火いたしました。

 女中衆の力をお借りし、

 “押し返す水”にてございます」


御台所は、

焦げ跡と、

整然と並ぶ小分け俵、

そしてお縫の姿を見比べた。


「……お縫。

 あなたは、命を救ったのですね」


お縫は静かに首を振った。


「皆様が押してくださったからこそ。

 私は、道具を整えただけにございます」


御台所は、

その言葉に深く頷いた。


「大奥は、あなたに任せます。

 水野、よく支えましたね」


水野は軽く頭を下げた。


(これで――

 御台所の“絶対的信頼”を得た)


その夜。

水野が御納戸に戻ってきた。


「本多が“火消し人足の費用が減った”と怒鳴っていた」


お縫は、静かに答えた。


「火は“押し返す力”で消せます。

 人足を雇う必要は、もうございません」


水野は、わずかに笑った。


「お前の工夫は、

 利権を潰すたびに“大奥の安全”を高めていく。

 本多にとっては悪夢だろうな」


お縫は、前髪の奥で目を細めた。


(本多。

 あなたの“逃げ道”は、

 これでまた一つ消えました)


炎の跡は消え、

大奥には静かな夜風が吹いていた。


(第16話へ続く)

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