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大奥で下女をしていたら、算術の才能がバレて勘定方と組むことになった件 ――利権まみれの大奥を最適化します。  作者: 細川 雅堂
【江戸再興編 ―風と光を操る店―】

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第14話 米は“回す”ものにて

――大奥構造改革編・流通の要を握る


御納戸おなんどの裏手にある米蔵は、

朝からざわついていた。


「また米が傷んでるよ……」


「虫が湧いてる。これじゃ使えないよ」


「捨てるしかないねぇ。もったいないけど」


ぬいは、

その光景を静かに見つめた。


(……“大俵”を開け閉めするたびに湿気が入り、

 虫も湧く。

 そして“腐ったから捨てた”と称して横領する――

 本多派の役人たちの常套手段)


お縫は、米蔵の帳面を開いた。


(入荷は月に一度。

 消費は毎日。

 なら――“回す”しかない)


お縫は、米蔵の役人たちを集めた。


「本日より、米の扱いを改めます」


「扱い……?」


「どういうことだ、頭取様」


お縫は、淡々と告げた。


「大俵は“御納戸の鍵付き倉”に移します。

 開封は十日に一度のみ。

 その場で“小分け俵”に詰め替え、

 米蔵には“小分け俵だけ”を置きます」


役人たちがざわつく。


「そ、そんなことをしたら……

 大俵の在庫が見えなくなる……!」


「いや、逆だよ……

 御納戸の目の前で詰め替えられたら……

 横領のしようが……!」


お縫は、にこりと微笑んだ。


「大俵を開ける回数が減れば、

 湿気も虫も入りません。

 小分け俵は密閉されておりますゆえ、

 腐りもいたしません」


役人たちの顔色が変わった。


お縫は、米蔵の前に立ち、

女中たちに声をかけた。


「皆様。

 昨日の夕餉ゆうげの残りは、どれほどでしたか?」


「ええと……一升ほどです」


「では、今日の昼餉は?」


「二升半ほどかと」


お縫は、指を折って計算した。


「では――

 一日に使う米は“三升半”。

 十日で“三斗五升”。

 これを基準に、

 “十日ごとに大俵を一度だけ開け、

 必要量だけ小分けにする”形にいたします」


女中たちが息を呑む。


「そんな……

 そんな細かい算段、どうやって……?」


お縫は、静かに微笑んだ。


「算盤がございます」


翌日から、米蔵は一変した。


大俵は御納戸の鍵付き倉に移され、

開封は十日に一度だけ。


米蔵には、

小分け俵が整然と並んだ。


「虫が湧かない……!」


「腐らない……!」


「大俵を開け閉めしないから、湿気も入らないんだね!」


役人たちは青ざめていた。


「こ、これでは……

 “腐ったから捨てた”と言えなくなる……!」


「大俵の中身も、御納戸の目の前で詰め替えられたら……

 横領の余地が……!」


お縫は、淡々と告げた。


「米は“回す”もの。

 溜め込むから腐るのです。

 腐らねば――横領もできません」


役人たちは言葉を失った。


夕刻。

水野が米蔵を見に来た。


「……見事だな。

 本多派の役人が“米が減らない”と騒いでいた」


お縫は、静かに頭を下げた。


「大俵は御納戸の鍵の下。

 小分け俵は密閉。

 虫も腐りも、入り込む隙がございません」


水野は、わずかに笑った。


「お前の工夫は、

 “金の流れ”を変える力がある。

 本多が焦るのも当然だ」


お縫は、前髪の奥で目を細めた。


(本多。

 あなたの“横領の道”は、これで閉ざされました)


米蔵の空気は、

どこか清々しく澄んでいた。


(第15話へ続く)

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