第12話 薬草園、倍に実る
――大奥構造改革編・第二手
御納戸頭取となったお縫は、
朝の薬草園に足を運んだ。
夏の陽が差し込み、
薄荷、紫蘇、当帰などの葉が揺れている。
だが――その葉の色は、どこか弱々しい。
「今年は虫が多くてねぇ……」
「せっかく育てても、半分は食われちまうよ」
古参の薬草係がため息をついた。
お縫は、葉の裏をそっとめくり、
虫食いの跡を観察した。
(……原因は“単植”。
同じ草ばかり並べれば、虫も宴会になる)
お縫は、薬草園の配置図を頭の中で組み替えた。
(なら――“混ぜて植える”。
それだけで虫は寄りつかなくなる)
◆
お縫は、女中たちを集めた。
「皆様。
本日は薬草園の“植え替え”をいたします」
「えっ、今から? もう夏だよ?」
「植え替えなんてしたら、余計に弱るんじゃ……」
お縫は、にこりと微笑んだ。
「弱るのは“同じ草ばかり並べるから”でございます。
虫除けの草を間に挟めば、
薬草はむしろ元気になります」
女中たちは半信半疑だったが、
お縫の指示で動き始めた。
薄荷の横に、
匂いの強い紫蘇を。
当帰の間に、
虫が嫌う蓼を。
「こんなふうに混ぜて植えるだけで……?」
「ええ。
虫は“匂いの混ざった畑”が苦手でございます」
◆
三日後。
薬草園は、目に見えて変わっていた。
「……葉が食われてない!」
「新しい芽が出てるよ!」
「なんだいこれ、増えてるじゃないか!」
女中たちが歓声を上げる。
お縫は、静かに頷いた。
「虫除けの草が、薬草を守ってくれたのでございます。
これで薬草の買い付けも減りましょう」
その言葉に、
古参の薬草係が目を丸くした。
「買い付けが減るってことは……
本多様の薬種商からの“中抜き”も……?」
お縫は、にこりと微笑んだ。
「ええ。
大奥の薬は、大奥で賄えます」
女中たちの間に、
ざわりと熱が走った。
「頭取様……すごい……!」
「水に続いて薬草まで……!」
「お縫様についていけば、
大奥は良くなるんだね……!」
お縫は深く頭を下げた。
(これで“現場の心”は完全に掴めた。
次は――制度そのものを変える番)
◆
その日の夕刻。
水野が薬草園を見に来た。
「……増えているな。
本多が“薬種商の売上が急に落ちた”と騒いでいた」
お縫は、静かに答えた。
「大奥の薬は、大奥で作れます。
外から買う必要はございません」
水野は、わずかに笑った。
「お前の工夫は、
利権を潰すたびに“大奥の生活”を良くしていく。
これほど美しい改革はない」
お縫は、前髪の奥で静かに目を細めた。
(本多。
あなたの“資金源”は、ひとつずつ消えていく)
薬草園に吹く風は、
どこか清々しかった。
(第13話へ続く)




