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大奥で下女をしていたら、算術の才能がバレて勘定方と組むことになった件 ――利権まみれの大奥を最適化します。  作者: 細川 雅堂
【江戸再興編 ―風と光を操る店―】

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第12話 薬草園、倍に実る

――大奥構造改革編・第二手


御納戸頭取となったおぬいは、

朝の薬草園に足を運んだ。


夏の陽が差し込み、

薄荷はっか紫蘇しそ当帰とうきなどの葉が揺れている。

だが――その葉の色は、どこか弱々しい。


「今年は虫が多くてねぇ……」


「せっかく育てても、半分は食われちまうよ」


古参の薬草係がため息をついた。


お縫は、葉の裏をそっとめくり、

虫食いの跡を観察した。


(……原因は“単植”。

 同じ草ばかり並べれば、虫も宴会になる)


お縫は、薬草園の配置図を頭の中で組み替えた。


(なら――“混ぜて植える”。

 それだけで虫は寄りつかなくなる)


お縫は、女中たちを集めた。


「皆様。

 本日は薬草園の“植え替え”をいたします」


「えっ、今から? もう夏だよ?」


「植え替えなんてしたら、余計に弱るんじゃ……」


お縫は、にこりと微笑んだ。


「弱るのは“同じ草ばかり並べるから”でございます。

 虫除けの草を間に挟めば、

 薬草はむしろ元気になります」


女中たちは半信半疑だったが、

お縫の指示で動き始めた。


薄荷の横に、

匂いの強い紫蘇を。

当帰の間に、

虫が嫌うたでを。


「こんなふうに混ぜて植えるだけで……?」


「ええ。

 虫は“匂いの混ざった畑”が苦手でございます」


三日後。

薬草園は、目に見えて変わっていた。


「……葉が食われてない!」


「新しい芽が出てるよ!」


「なんだいこれ、増えてるじゃないか!」


女中たちが歓声を上げる。


お縫は、静かに頷いた。


「虫除けの草が、薬草を守ってくれたのでございます。

 これで薬草の買い付けも減りましょう」


その言葉に、

古参の薬草係が目を丸くした。


「買い付けが減るってことは……

 本多様の薬種商からの“中抜き”も……?」


お縫は、にこりと微笑んだ。


「ええ。

 大奥の薬は、大奥で賄えます」


女中たちの間に、

ざわりと熱が走った。


「頭取様……すごい……!」


「水に続いて薬草まで……!」


「お縫様についていけば、

 大奥は良くなるんだね……!」


お縫は深く頭を下げた。


(これで“現場の心”は完全に掴めた。

 次は――制度そのものを変える番)


その日の夕刻。

水野が薬草園を見に来た。


「……増えているな。

 本多が“薬種商の売上が急に落ちた”と騒いでいた」


お縫は、静かに答えた。


「大奥の薬は、大奥で作れます。

 外から買う必要はございません」


水野は、わずかに笑った。


「お前の工夫は、

 利権を潰すたびに“大奥の生活”を良くしていく。

 これほど美しい改革はない」


お縫は、前髪の奥で静かに目を細めた。


(本多。

 あなたの“資金源”は、ひとつずつ消えていく)


薬草園に吹く風は、

どこか清々しかった。


(第13話へ続く)

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