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大奥で下女をしていたら、算術の才能がバレて勘定方と組むことになった件 ――利権まみれの大奥を最適化します。  作者: 細川 雅堂
【江戸再興編 ―風と光を操る店―】

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12/25

第11話 頭取お縫、最初の一手は「水」

――大奥構造改革編・開幕


御納戸おなんどの頭取に就任したおぬいは、

朝の光が差し込む御用場に立ち、

静かに深呼吸をした。


(……ここからが本番。

 工夫で大奥を変える。

 そのためには、まず“現場の心”を掴まねばならない)


だが、周囲の空気は冷たかった。


「頭取って言っても、若造じゃないか」


「織江屋の娘だって? 商家上がりが大奥を仕切れるのかね」


「水野様に取り入っただけだろうさ」


古参の女中たちが、

わざと聞こえるように囁く。


お縫は、へこへこと頭を下げた。


「ご指導いただければ幸いにございます……」


(はいはい、“無害な新参”の芝居ね。

 でも――最初の一撃は、もう決めてある)


夏の大奥は、井戸水が濁りやすい。

女中たちは毎朝、桶を覗いては顔をしかめていた。


「今日も濁ってるよ……」


「これで顔を洗うのかい? 肌が荒れるよ」


「お腹を壊す子も出てるって話だよ」


お縫は、桶の水をすくい、

光に透かした。


(鉄分、泥、藻……

 原因は単純。

 なら、解決も単純)


お縫は、御納戸の倉庫から

炭と砂と布を持ち出した。


「な、何をするつもりだい?」


古参の女中が眉をひそめる。


お縫は、にこりと笑った。


「少しばかり、工夫を」


桶の上に布を敷き、

その上に砂を薄く広げ、

さらに炭を砕いて重ねる。


「そんなもので水が綺麗になるわけ――」


女中の言葉が途中で止まった。


濁った水が、

布と砂と炭を通り抜けるたびに

透明度を増していく。


ぽたり、ぽたり。


滴り落ちる水は、

まるで湧き水のように澄んでいた。


「……え?」


「なにこれ……綺麗……!」


「お縫様、これ、どうやったんですか!?」


お縫は、控えめに頭を下げた。


「炭には“吸い取る力”がございます。

 砂は“濾す力”。

 ただ重ねただけでございます」


女中たちがざわつく。


「お縫様の水で顔を洗ったら、すべすべだよ!」


「お腹を壊してた子も、これなら大丈夫だ!」


「頭取様、すごい……!」


さっきまで冷たかった視線が、

一気に熱を帯びる。


(まずは“実利”。

 これで現場の心は掴める)


その日の夕刻。

水野が御納戸に姿を見せた。


「お縫。

 “高級名水の仕入れ”が止まったと、本多が騒いでいる」


お縫は、静かに微笑んだ。


「大奥の水は、井戸で十分にございます。

 余計な出費は、もう不要かと」


水野は、わずかに口元を緩めた。


「……初手から利権を潰すとはな。

 頭取としての覚悟、確かに見た」


お縫は深く頭を下げた。


(本多。

 あなたの利権は、ここから順に消えていく)


大奥の水が澄んだその日、

お縫の“改革”は静かに動き出した。


(第12話へ続く)

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