○消えたツキノウサギ○
流星は止むこと無く、月時雨のように地上へと降り注ぐ。星が堕ちる度、蒼い炎で飾り立てた、夥しい数の墓標でその地は埋め尽くされる。狂気の歌声が止むことは無い。
その歌は、不完全なる器から魂が引き剥がされても尚、消える事なく、波紋のように広がり、深い傷となって少女の魂を傷つけ、抉り続ける。
少女の魂に、贖罪と懺悔が刻まれた、無数の刃が突き立てられる度に、蒼い炎は勢いを増し、狂ったように舞い上がり、幻の如く揺らめきながら、狂喜の踊りを舞い続ける。
蒼い炎は、激しい苦痛に堪えかね、悲鳴を上げる少女の魂の叫びを糧にして、勢いを増している。その痛みがどれ程か、蒼い炎の勢いを観れば一目瞭然であろう。
やがて足の踏み場も無くなるほど、辺り一面が蒼い炎で焼き尽くされた時。少女が見守る中、蒼い炎に囲まれた、最後に残った若い女の腕に抱かれたウサギの身体に、ビー玉ほどの光の塊が湧き出した。
光の塊は無数に現れ、まるで身体に寄生した虫が孵化したかのように、ウサギの身体から片端に産み出されている。
見よ、事実その光の塊は、惑うなくウサギの、魂と、肉塊を糧にして産まれているのだ。
何故なら光の塊が産まれる度に、ウサギの身体は少しずつ、光の塊と同じ大きさで消えて逝く。光の塊は獰猛な猛禽類のように、腹を満たすために容赦なく食い尽くす。
慰めがあると云うのなら、ウサギの魂は既に召されており、依り代はただの抜け殻にすぎず、緩りと肉体を貪られる痛みも、苦痛も、全く感じないことであろうか。
ウサギの身体には、無数の穴が開けられ、体躯は少しずつ、醜く、崩れて消えて逝く。それもまた、ウサギへの罰で在り、罪で在り、対価として差し出すべき贖罪なのかもしれない。
ウサギの苦しむ声は聞こえない。だが、ただ独りの苦痛と悲痛に満ちた声が聞こえる。艱苦、苦悩、痛み、苦痛。それは、ウサギを抱いている、最後に残った若い女の声であった。
どのような痛みが若い女を傷つけているのか、誰も知る由もない。
ただ、ウサギをその手に抱きながら、若い女もまた、其の体躯に穴を開けている。そう、ウサギと同じように……そうであるなら、其の苦痛はいかほどのものだろうか。
少女はただ黙り込み、もう、ウサギを抱いてはいられなくなった若い女から、崩れかけのウサギの体躯を引き取った。
光の塊は黒のみを糧にして産まれている。少女の腕の中で、最後に黄金色の瞳を残し、総てを貪った光の塊は、少女の頭上で寄り集まり、嵩んで行き、少女を包み込むと、唐突に炸裂し、辺り一体丸ごと総てを飲み込んだ。
ウサギと若い女は同時に光の渦に飲み込まれ、きれいさっぱり跡形も無く消え去った。
炸裂した光は白く輝きながら、宙を丸ごと覆う尽くすほどに広がり続ける。その純白なる光は、銀河でウサギが目にした、ヒカリノタマを産みだした、あのヒカリであった。
少女の腕に残されたのは、誠実、慈愛、真理、貞操、友情が宿ったイエローサファイアの宝石のように輝く二つばかりの黄金色の眼球と、碧いフード付きの天鷲絨のコート、そして、七色天然石で加工された、宝石だけである。
少女は思い出が詰まる、残された唯一の遺品に頬を寄せ、暫しの別れを悼み、惜しむように、涙で潤ませた瞳を静かに閉じた。総てを捧げ、久遠の愛情を注いだ掛け替えのない清まる魂とその依り代。
それは永劫、果てると知れない時を過ごして行くであろう少女の慰めであり、一欠片の希望。何時かまた、涙を飲み込み、魂を押し殺し、総てを捧げた愛しい家族に、我が子に、この遺品を渡す日が必ず訪れるのだ。
少女は知っている。少女は総てを知っている。
起こりうる行き先。繰り返される輪廻の運命。
それは我らの罪で在り、罰で在り、永劫の懺悔である事象なのだ。
すると膨れあがった純白たるヒカリの中で、無数のヒカリノタマが産み堕とされた。偉大なる人の証が刻まれた、真なる清まる純白なる魂。彼等の魂が銀河へと昇るのだ。
宙は煌びやかな純白の光で覆われ、大地はくすんだ蒼い炎で覆われている。
純白なる清まる魂は宙へと昇り、黒く穢れた魂は地下へと潜る。
宙では祝福の歌が響き、地下では呪術が唱えられる。
清まる魂は星の稚児となり、束の間の悠久の時を謳歌する。
邪な穢れた魂は、醜い子鬼となり果て、贖罪の為、悠久の時、石を掘り続ける。
それぞれに、牢獄たる不完全なる器へ還る、その時まで―――
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