幸佳と愛
アイセ、トイッテイルンデス
柴田幸佳の台詞を聞いて、伊藤愛は、呆然とした。
言語機能に異常をきたしている。
地獄のような沈黙。
そして、叫んだ。既に言語機能に異常をきたしていた彼女は、それでも口を限界まで大きく開けながら
ハッキリと言ったのだ。
「てめえ、一体何を言っていやがる!訳の分からねえことをぬかしやがって!!」
伊藤愛という女性の、開かれた口の中、その歯並びは、相変わらず、見るに堪えないほどガタガタのズタボロで、正に惨憺たる有様だった。
幸佳は、怯まずに説き続ける。
「厳密には、この子に、きちんと向かい合え、と言っているんです」
伊藤愛は訊き返す。
「あ?」
「自分を苦しめ、恐がらせ、痛めつけた挙句、呪い殺そうとする、恐ろしい魔物、許せない怪物、そう貴方が思い込んで、死ぬほど嫌って、ずっと戦っている相手の、本当の姿を見てあげてください」
その幸佳の発言を聞きながら、愛は次第に、目の前にいる白いワンピースの女の子を、冷静に見られるようになってきた。
(この時、赤星ゆかりは、魔法を使って、荒れ狂う伊藤愛の精神を落ち着かせようとし、どうにか
成功していた。)
「この女の子の顔を見てあげてください、伊藤愛さん!」
柴田幸佳も、更に続けて、ハッキリと言った。白いワンピースを着ている魔法少女ファイ、つまり
真山徹子を指差しながら。
「この女の子は、母親である貴方に復讐したくて、黄泉の国から蘇った、憤怒と憎悪と怨恨の集合体のような、恐怖の亡霊ではない!ましてや、あなたを苦しめて傷つけて恐がらせて、その様子を眺めて喜んでいる、暴力の鬼なんかじゃないんです!」
その場に立ち尽くす伊藤愛という女に向かって、柴田幸佳という女子は続けた。
「ただ、母親である貴方に愛してほしい一心で、あなたを追いかけて、まとわりついていただけの、可哀想な子なんです!」
愛は途方に暮れたような表情で尋ねた。
「そんな事言われてもよ・・・あたしは・・・あたしは、どうしたらいいんだよ?」
幸佳は、即答した。
「その疑問に対する答は二つあります。
まず、一つ目。
自分の正直な気持ちを、この子に伝えてください。
次に、二つ目。
この可哀想な子を受け入れて、優しくしてあげてください。そして、さっき、私が言ったように、この子を愛してやってください。それだけです」
幸佳と愛の様子を、赤星ゆかりと白石かえで先生が固唾を呑んで見守っている。
伊藤愛には、白いワンピースを着ている小さな女の子が、自分が殺してしまった娘の幽霊に見えている。
真山徹子には、自分の娘を虐待する伊藤愛のような女性が、自分を痛めつけて捨てた母親に見えている。
この二人を、あえて、このような形で対峙させることで、お互いの抱える、心の問題を解決しようとしているのだ。
それが、柴田幸佳の思いついた、「自分に出来ること」だった。
・・・伊藤愛は、迷っている。
拒絶して暴れるか?
それとも、
自分には、やはり復讐鬼と化した娘の幽霊にしか見えない、白いワンピースの女の子を、それでも受け入れようと試みるか?
二つに一つだった。




