二人の共通点
どれほどの時間が経過しただろう。
戻ってきた幸佳の背後には、一人の人間がいた。
その人は・・・。
「伊藤、愛?」
魔法少女ファイこと真山徹子達の追撃から逃走した際、軽自動車に衝突し、ケガをして病院で手当てを受けているはずの女性・伊藤愛だったのだ。
「すみません、随分、手間と時間がかかっちゃいました・・・」
そう言った幸佳は、全身のあちこちに打撲傷や切り傷のようなものを負っていた。
伊藤愛をここまで連れてくるのに、さぞかし苦労したのだろう。
発狂したかのように暴れる愛を宥めすかして、彼女の猛烈な抵抗をかわし、または殴る蹴る噛みつく罵るなどの暴行に耐えながら、どうにか、ここまで戻って来たのだろう。
愛は、いまだに、怒り狂う野獣のように唸っている。
精神病院に入院させるべきなのではないか、と思うくらいの異常な有様だった。
「あたしを、苦し、めるクソガキの・・・幽霊を、ぶっ殺す方法を教え、るっていうから、来て、やったんだぞ・・・」
荒い息を吐きだしながら、愛は呻くようにそう言った。
愛は、ゆかりのすぐそばで、ベッドに横になって眠っている人を見て、一瞬、絶句した。
その人、真山徹子は、魔法少女の姿に再び変身しており、その上、幸佳が予め指定していた服を着せられていたのだ。
その服とは、あろうことか、白いワンピースだったのだ。
ゆかりが絶叫する。
「幸佳ちゃんっ!一体、何を考えているの!正気じゃないっ!!」
よりにもよって、伊藤愛のような人間を、この場に連れてくるなんて!
しかも、今の状態の徹子に、こんな服を着せて!
愛にしてみれば、今、自分の目の前にいる真山徹子の姿は、白いワンピースを着ている小さな女の子、なのだから、自分を長年苦しめ続けてきた娘の幽霊に酷似していることになるのだ。
伊藤愛という女性は、当然、再び怒り狂って、なりふり構わず暴れた。
慌てて、幸佳とゆかりが愛を取り押さえる。
愛は、再び錯乱しかけており、暴れながら叫ぶ。
「こいつは、あたしを殺そうとしてるんだ!だから逆にぶっ殺してやるんだ!」
幸佳は訊いた。
「でも、殺せないんでしょう?というか、どんなに必死に戦って、殺しても殺しても殺しても、すぐに蘇ってしまうんでしょう?」
狂乱状態に陥っていた愛の動作が、幸佳の発言を聞いて、少しだけ緩慢になった。
幸佳は訊き続ける。
「どうなんですか?伊藤愛さん」
愛は、口ごもる。
「・・・そ、それ、は・・・そうだ、けど・・・」
「殺そうとするから、殺せないんですよ」
幸佳の発言に対して、愛は再び猛反発する。
「じゃあ、どうしたら良いんだよ!あたしは、どうやったら、この苦しみから解放されるんだっ?放っておけば、いつか、そのうち消えてなくなるとでもいうのかよ!そんな都合のいい話あるわけねえし、あたしはそんなの待てねえ!!!」
正気を失い、惑乱して、喚き散らし、暴れ狂う愛の傍らで、幸佳は説明した。
伊藤愛。
真山徹子。
激しく凄まじく敵対している、この二人の女性には、だった一つだけ共通点がある、と。
それは、自分を容赦無く徹底的に責め立て、ボロボロに傷つけ痛めつけ、いつでもどこでも苦しめる、
不快極まるものを必死に消そう殺そうとして、長年戦い続けてきた、という点である。
愛は、自分が殺してしまった娘の幽霊と。
徹子は、自分を長年虐待し、存在と人格をハッキリ完全に否定した挙句、あっさり捨てた後、行方不明になってしまった母親の記憶と。
消そうとしても消えない、殺しても死なない幽霊との、血みどろの争いに身を投じ、地獄の底で、のたうち回りながら、それでも耐えて戦い続けることを余儀なくされているのだ、と。
そこまで説いた幸佳は、まだ暴れている愛を必死に宥めながら、言った。
「殺そうとする限り、この幽霊は一生消えませんよ」
伊藤愛は、柴田幸佳に詰め寄った。
「じゃあ、どうしろっていうんだよ、てめえ!話が全然違うじゃねえかよ!この幽霊を一生殺せないっていうんなら、あたしに死ねって言うのか?この地獄の苦しみから解放されるには、それしかないっていうのか?」
「いいえ、違います。そんなこと、私は一言も言っていません」
柴田幸佳は、伊藤愛をまっすぐ見据えて言った。
「愛せ、と言っているんです」
赤星ゆかりと、白石かえで先生は両方とも、唯々絶句していた。




