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第十五話 収穫祭二日前

ブランカ視点でのお話です

『 宮中儀礼ですから 』


の一言で、強制的に衣装部からやってきた女官達によって、私の身体が採寸され、デザインと生地を決められ、何とか新調した収穫祭のためのドレスが届いた翌日は


収穫祭の二日前


だった。


おそらく、今頃、西の神殿では、明後日になった

収穫祭

の準備のため、神官たちや巫女たちが大騒ぎしているのでしょうねぇ


と、思いながら、いつものように化粧と着付けを終えて朝食の席に着く。


が・・・

今日はいつもついているはずの、日替わりのスープと卵料理が見当たらない。

日替わりのスープをいつも楽しみにしている私は、そのことを今週の給仕当番であるココに尋ねると、


「 申し訳ございません。お嬢様。毎年、収穫祭の二日前から八日目の昼食までは、収穫の女神様に感謝をささげるために、お食事の品数は減らされるのでございます 」


と、教えてくれた。


「 女神様への感謝のため・・・。なら仕方がないわね 」

私は、少し納得できない気持ちもあったが、宮廷では収穫祭の儀式が始まったのだと思うことにして、納得させた。


ま、後でアンナから、食事の品数が減る本当の理由・・・

収穫祭の期間中は、部屋つきの召使を含む全ての使用人が交代で宿下がりをするため、厨房も人数がたりなくなって

今までどおりの食事を用意することが難しくなるのだ

と、言う話を聞かせてもらったので、心から納得することが出来たんだけどね。




その後、いつものように、フェロル侯爵夫人をお供に、皇太子殿下のお出迎えに向かう。



神殿の鐘の音を合図に、皇太子殿下がおいでになられ・・・・たのですが、今日のお出迎えはいつもとは違うものでした。

収穫祭二日前である今日は、収穫祭前の重要な儀式である


肩衣トガ及び 宝冠ティアラ留金ブロチェ授与の儀 』


が、行われるのです。


と、言うのも、収穫祭の初日と二日目は、皇帝陛下をはじめ、皇族方や国中の貴族とその代理人、召使以外の後宮の女人たち・・・后妃候補を含む后妃・妾妃と女官、侍女、近習たちの参加が義務付けられているのですが、その二日間は全員が

キトン

と、呼ばれるくるぶしまでの丈の民族衣装をまとうことになっているのです。

そして、貴族と皇族、召使以外の後宮の女人たちは、キトン の上に、トガと呼ばれるショールのような肩衣を身にまとって、既婚者は左肩のところで、未婚者は両肩のところで、トガをそれぞれ留金によって留め、更に女性たちは身分によってティアラや額飾りを身につける事となっていました。


後宮で暮らす者が身に着ける トガと、ブロチェと呼ばれる留金、ティアラや額飾りは、二日前に皇帝ないし使えている主人・女官長などから授けられることとなっていて。

それらの品を、皇帝が后妃・妾妃・夫人 ( 候補含む ) に授ける儀式が、この


肩衣トガ及び 宝冠ティアラ留金ブロチェ授与の儀 』


なのです。



トガやティアラ、ブロチェは、身に着ける方の身分や地位によって細かく定められています。

勿論、キトンの上に、皇帝陛下 ( もしくは皇太子殿下 ) から賜わらなかったトガや宝飾品を身につけて収穫祭に参加することは許されません。


ちなみに、皇帝陛下 ( 今回の収穫祭は、先帝陛下の喪中であることから皇太子殿下ですが ) がまとうのは、布地の一面に太陽と月、星、山と海などの模様を金糸で刺繍した深い紫色のトガ

ソル・レイナとルナ・レイナは、トガの色こそ皇帝陛下と同じ深い紫色ですが、ソル・レイナのトガには、銀糸で太陽と山の模様が施してあり、ルナ・レイナのトガには金糸で月と海の模様が施してある品。

そのほかの后妃達と皇族たちは、布の前面に一種類の色糸で花や風、波などの一種類の模様を刺繍した紫色のトガをまとい、妾妃達がまとうトガは布の一部のみに一色の色糸で花などの模様を刺繍した紫色の品。

夫人と后妃候補がまとうトガは、布の一部のみに一色の色糸で幾何学模様を刺繍した薄紫色の品です。



私達、后妃候補は、当たり前のように・・・。

そう。

それが当たり前のように、皇太子殿下から薄紫色のトガと、銀とトルコ石で出来た一連の額飾り、金細工に誕生石が一粒だけはめ込まれたブロチェを受け取って。


儀式は終了となるはずでした。


しかし・・・

皇太子殿下が授けたそれらの品を、

「 申しわけございませんが、私、この品を受け取ることはできません 」

と、言って。

受け取らなかった后妃候補がいたのです。


ウエルバ侯爵令嬢のアデーラ様


「 なんと??? 」


皇太子殿下の目が、キラリと光りました。

アデーラ様は、礼儀も構わず、顔を上げて。

皇太子殿下のお顔を見つめます。


「 私が授けた、このトガが不服だと申すのか? 」

「 はい 」

「 アデーラ様・・・ 」


お付きの女官がオロオロするのも、アデーラ様は目に入らないのでしょうか。

まっすぐ皇太子殿下のお顔を見つめたままです。


「 なぜ、私が、セニョーラと同じ薄紫のトガを賜らねばならないのですか? 」

「 そなたは、私の后妃候補に過ぎぬ 」

「 しかし私は、この場にいるすべての后妃候補の一番上の身分。セニョーラと同じトガなど・・・まといたくはございません 」

「 言わせておけば・・・無礼な!! 」


皇太子殿下はアデーラ様に一度は授けたトガと額飾りを、むんずとつかまれると、床の上に叩きつけられ、足で踏みにじられました。

そして、女官長に向かって、アデーラ様をその場から連れ出すように命じられました。


アデーラ様は、何度も何度も皇太子殿下の方を振り返りつつ甲高い声で何事かを叫びながら、

その場から連れ出されて行きました。


その後。

儀式は滞りなく終わったのですが・・。

この事が明後日からの収穫祭の中で、ある事件を引き起こすこととなってしまったのです。

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