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精霊付き遺産相続 22

 「発見」

 わたしは少し投げやりにつぶやいた。

 散歩へ出かけようとして外階段の手すりが落ちて以来、わたしは以前よりもずっと気をつけて屋敷で過ごすようにしていた。

 そして時間を見つけては建物の不具合や破損がないか見て回り、発見するたびに補修をしていたのだけれど、一人でお金をかけずに地味に作業をしていたのではいつまでも終わらないと思えるほど、時の埃は屋敷のあらゆる箇所をむしばんでいた。

 かなう限り補修していかないと、屋敷は荒廃する。わたしが発見したのは、その事実だった。

 わたしはガス管や水道管に破損がないかを見てまわり、弛んだ蝶番(ちょうつがい)を締めた。雨漏り、壁紙のシミやはがれ、外壁のひび割れ、手すりの傷を次々と見つけた。そして今日もまた、わたしは屋敷の破損箇所を発見したのだ。

 今なら多くの貴族たちが見栄っ張りのアメリカ大富豪に屋敷を売りつけたがる気持ちが、痛いほどよくわかる。そろそろため息も出なくなっていた。

「これはどうやって補修したらいいのかしら」

 わたしは三階付近で壁から不格好に垂れ下がった壊れた雨樋を見上げ、腰に手を当てて考え込んだ。建物の表ではなく裏だったし、よく使う部屋からも遠かったので、今までこんなに派手に破損していたと気がつかなかったのだ。

 あれを修理するためには、屋根に登らないといけないようだ。どこから屋根に出ればいいか、わたしはあたりを見回した。たぶん三階の部屋の窓から這い出るしかない。そして屋根を伝って壁を見下ろす所まで行き、腕を伸ばして雨樋を引き寄せて……。

 それからどうしたらいいのか。

 しばらく手順を考えてみる。危険だわね。ここの補修は緊急リストの下の方に並べることにしよう。壁のシミよりは上の順番で。

 こうやって屋敷の補修リストは、一日一日、修理をしてもしても、減るどころか増えていく。点検するたびにわたしは新たな不具合を発見し、補修はいっこうに進まない。

 もしも女王陛下に、「英国国民のすべてのティ・カップにお茶を注ぎなさい」と命じられたとしたら──仕方がない。わたしはメイドなのだからそんな理不尽なご命令にも(渋々ながら)従いましょう。時間はかかるけれど、なんとかなるかもしれない。

 けれどもこれが、同じお茶をよくたしなむ中国人のすべてのティ・カップにお茶をと言われたら──あそこは土地も広大だし人の数も膨大だと聞く。英国の比ではない。わたしは「できません」と即答するだろう。

 つまり、わたしが最初にこの屋敷には手入れが必要だと気がついた時に覚悟したのは、「英国国民のすべてのティ・カップ」レベルだったのに、はじめてみれば「中国人のすべてのティ・カップ」レベルだったとわかった。今のわたしはそんな気分なのだ。

 自分にできる範囲でいい。できないことは今はやらなくていい。屋敷の管理の要領を掴んでくればしだいにわたしにできる範囲は広がっていって、それでなんとかなるようになる。グレックソン家でも、実際に仕事をしていたのはただ命じるだけのグレックソン氏や夫人ではなくメイドのわたしで、グレックソン家であれだけ上手く屋敷の手入れをやってこられたのだから、アドベリーハウスでもなんとかやっていけるわ。と、思っていたのに。

 随分、甘い考えだったようだわ。

 グレックソン家の屋敷だって築数百年。グレックソン氏や夫人はそれをつつがなく住みよく保つために、計画的に使用人を動かしていたのだ。時々無意味なことをやらされたりもしたけれど、それでも、グレックソン氏や夫人は自分の屋敷のことを熟知していた。

 そしてわたしは命令されたことはきちんとこなしていたけれど、それ以外のことなど実はまったく知らなかったのだ。

「なんてことかしら」

 わたしはがっかりしながら、いったん屋敷内に戻ることにした。

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