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二回戦 第一シングルス

 松下さんと羽代は、二ゲーム目ペースを取り戻した相手に連続得点されたものの冷静に抑えきった。決しておごらず、油断もせずに全力で試合してるのは見てわかる。けど、余分な力を使い過ぎず勝ち切ったって感じだ。松下さんがダブルスにエントリーされているのを見てか、それとも一回戦の晴風(おれたち)を見て警戒してなのか、明らかに観戦じゃなく偵察目的で来てそうな奴もチラホラいた。だからなるべく手の内を見せないようにしたのかもしれない。

 花光さんと天野さんは、一ゲーム目を落としたものの続く二ゲーム目を取り戻し調子は好調。三ゲーム目だってきっと取ってくれるはず。


 俺も第一シングルス絶対に勝つ。皆の体力を少しでも残して勝ち上がれるように。


「第一シングルス、両校の代表選手はコートに入ってください」


 春風杯の時は一人でコートに入ることがあれだけ不安だったのに、それより大きな大会のコートに一人で立とうとしている今は不思議と怖くない。


「小夜川!ガンバ!」

「俺らがついてるからな!!ドーンとかましてこい!」

「絶対大丈夫。いけるよ」


 羽代と松下さん、それから南さんに送り出されて、コートに足を踏み入れる。


「一本!」

『よし!!』


 隣のコートでは、ちょうど第三ゲームが始まるところだ。このコートに立っているのは俺一人。だけど今一人で戦っているわけじゃない。


「オンマイライト 雷山高校!レプリゼンティッドバイ 稲生さん。オンマイレフト 晴風高校!レプリゼンティッドバイ 小夜川さん。晴風高校トゥサーブ。ラブオールプレー!」


 さあ、行くぞ!

 考えながら動くのは今の俺にできない。ならば体に叩き込んできた技術と頭に叩き込んできたデータ、今持ってるもんを出して全力で戦う。


「さーて、経験者サマのお手並み拝~見~!」


 相変わらずこちらの神経を逆撫でしてくる稲生。

 身長一七七cm、恵まれた体格から放たれるスマッシュは強力。地田と同じく雷山らしい「攻め」のスタイルが得意。フィジカル面でいえば、晴風(うち)だと花光さんと近い。まあ、花光さんこの前も身長三センチ伸びて一八五になったって言ってたから数字だと大分差があるんだけど、それでも稲生は見劣りしないっつーか圧がある。それから今回は関係ねえけど、集中すると周りが見えなくなることからダブルスは苦手。

 そして何より気をつけたいのは、最初から最後まで徹底して動ききる、攻め切ることができる選手であるということ。俺も体力にはそれなりに自信があるものの、相手の体力切れを狙って勝ちに行くことは今回は望めない。それどころか最終ゲームまで行けば押し切られてしまう可能性が非常に高い。ならばやるべきことは一つ。スマッシュを中心にラリーを組み立てて、高火力で二ゲーム先取。相手以上に攻めて攻めて、パワーで勝ち切る。


 さっきのダブルスでは、ほとんどスマッシュが打てなかった。あの時はなかなか点が取れない自分に焦ったけど、悪い事ばかりじゃない。あまり目立たなかったおかげで、稲生は恐らく俺のスマッシュをそこまで警戒していない。もちろん俺の身長的に高い打点からのショットもセオリー通りに気を付けて()くるだろうけど。

 ただ、相手にスマッシュを打たせないようにするのならば、ネット前の戦いに持ち込むか、ロブやクリアなどの高い球を極力打たないかの二択になってくる。データから推測するに稲生はネット前でのヘアピンを中心とした打ち合いやボディ周りに来たシャトルへの対応をそこまで得意としていない。緩急をつけるラリーを好む傾向から、コート奥への配球も、低い球一辺倒になることを良しとはしないだろう。だから序盤はスマッシュの打ちどころなはずだ。警戒されだしてネット前に持ち込まれても、むしろ俺に分がある。相手が立て直す暇も与えずに、攻め切る。


 パァン!


 そのための一球目、俺が選んだのはロングサーブ。

 ダブルスと違って、コート奥まで目いっぱい飛ばせる。


 相手だって前情報が無ければ俺の得意不得意だってわからない。ならまずは、自分の得意なことしてえよな?


 バァン!


 予想通りスマッシュを打たれた。なら俺のやることは決まってる。


 ポッ!


 やっぱり球が重い。けどこれならいける!そっとシャトルに触れ勢いを殺し、前に落としたら即ネット前へ。デカい奴がラケット立ててネット前詰めてくるとスゲー圧あって嫌だよな。俺も散々花光さんにやられたからわかる。そしてそうされた相手がどうするかも、よくわかる。


「チィ!」


 予想通りのロブ。そう、よほどネット前に自信がない限り一度相手と距離を取りたくなるはず。高く上がったシャトルを追いかけて後ろへ。よし、これなら万全。一回戦で温まったからさっきより体が軽い。チラリと見えた稲生はコートの中央あたりに構えてる。

 失敗する気がしねえ。踏み込んで、身体全体で、打つ!


 ドガン!


 稲生のバック側に落ちたシャトルは、何度かバウンドして線審の足元に転がった。



「ワ、(ワン)(ラブ)


 っし!まずは先制て「おおー!?見たか今の?!」「あいつ本当に高校生か?」ん。

 シャトルが床に落ちるか落ちないかのうちに、あちこちから視線が集まったのを感じてはいた。しかし一瞬の静寂の後、俺の声が喉元を過ぎるよりも前に予想以上の大歓声。公式練習ん時や一回戦の時も、ちょっと驚かれてるとは思ってた。けど、今日一番のスマッシュが決まった今、桁違いの声・声・声だ。天野さんのジャンプスマッシュをきっかけに結構人集まってたってのもあるんだろうけど、こんな風に前向きな注目集めたことなんてほぼなかったからなんかくすぐってえな。


「さよ、かわ……?あいつなにもんだ?!」

「わかんねえ!あんなやべえ奴がいたなんて……!」


「晴風……雷山相手に押してるし、実は強いのか……?」

「あれだろ?昔強くて全国優勝したこともあるってとこ。俺でも他校の研究したり過去の映像見たりすんの好きだからギリギリ知ってるけど、最近すっかり落ちぶれたって聞いてたぜ?なのになんか松下幹人いるし、組んでた一年も聞いたことないのに上手いし。そんでさっきの二年ダブルスもめっちゃ飛ぶ奴とデカい奴。いままでどうして埋もれてたんだ?」


 県内全体のレベルが高くなって人が集まりにくくなって、加えて部内のあれこれで余計に低迷してた。でも、それでも晴風高校バドミントン部を守り続けてくれた人たちがいた。だから俺は今ここにいる。

「周りが気づいていなかっただけで、全国から遠ざかった後も晴風高校の物語はずっと紡がれていた。先輩方やコーチに先生、皆凄い人ばかりなんだぞって、インハイ予選で見せつけたいな」といつかの自主練中に羽代が話してたけど、本当にそれが証明されつつあるぞ。


「うっわあ……。そーんなの隠し持ってたなんてズルいな~」


 周囲の様子を怠そうに一瞥して、口をとがらせる稲生。下手に返してあっちのペースに乗せられたくねえしそっとしておこう。


「しゃ!もう一本!」


 そっから何球かは、スマッシュを軸に主導権を握ることができた。

 打たせないようにするべきか、打たせて取るべきか。その選択を強いられる時点で相手は少なからず迷うことになる。その迷いは、ショットに出る。高いのでも低いのでも、どんなコースだって、迷いながらの半端な球ならなおさら力でゴリ押せる。


「サービスオーバー6-1」


 失点はスマッシュがギリギリアウトになった一度きり。ここまでは、試合前考えていた作戦通りに動けている。


 あと一点取れば一ゲーム目も折り返し。このまま押し切る。

 気合いを入れて打ち出したショートサーブを、稲生がヘアピンで返してきた。ラリーに緩急をつけるためにネット前へ落とすのは得意だけど、ネット前で戦い続けるのは苦手、だよな?コートを広く使った攻めが得意である反面一か所にとどまってのラリーを好んでいないことは、ここまで戦ってきてよくわかった。だから引かずにヘアピンでお返しする。ここで上げてくるようならスマッシュを打ち込むまでだし、留まってくるなら付き合うまで。


 パッ!


 相手の答えはクロスヘアピン。しかし打ち損じたようで、フワリと浮いた。


 バシッ!


 きっちりプッシュで叩いて一点。これで7-1。インターバルだ。


「あ~あ、取られちゃった」


 ここまでは順調すぎるくらい順調。だが、一回一回ミスや失点に対してつまらなそうに顔をゆがめるものの、この点差に全く焦っている様子がない稲生が不気味だ。


「ナイス小夜川。スマッシュバッチリ決まってる。外から見てても調子いいんだなってわかるよ。今のところ言うことなし!相手は小夜川がくれたデータだと、勝とうが負けようが第一ゲーム落としてることが多い後半型。油断はしちゃだめだけど、くれるならこのゲームはしっかりもらっとこう。あまり攻め急ぎすぎても体力消耗するから、そこだけは気を付けて!」

「はい!」


 南さんの分析を聞きながら、羽代が渡してくれたタオルで汗をぬぐう。松下さんは何やら眉間にしわをつくって相手ベンチを眺めてる。


「涼先輩ナイスショットー!!」

「あ!言い忘れてた。あっちは何点かリードしてるけどかなり接戦みたい。でもそれは気にせず、小夜川は自分の試合に集中してね」


 青葉の声で思い出したように隣のコートを見る南さん。団体戦である以上、他の試合の勝敗も気になるところではある。でも、それを意識しすぎてもいけない。下手に気負い過ぎれば自分の足を引っ張ることになるから。

 俺が考えすぎてもロクなことにならないのは、十数年生きてきたからよくわかってる。


「それじゃ、いってきます」


 どんな状況になろうと、目の前の一球一球を全力で打ち抜くのみ。


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