いざ、ルクスヴェイン遺跡へ
遺跡へ向かう道は、近くは無かったが思ったほど遠くはないようだった。
遺跡はエルディナ大陸内の竜骨山脈の麓にあるそうだ。
最も近い街はグラニス。
昔エドガーから聞いた話によれば、グラニスはエルディナ大陸一希少な鉱石や魔石が豊富な都市で、良い剣や防具は大体グラニス製でると覚えさせられた。
その教えは確かなもので、店で見た修理依頼の剣やら防具やらは大半がグラニス製であったことを覚えている。
どれぐらいの距離かとエドガーに聞いたら金を払えば馬車で1週間程でいけると言っていた。
グラニスから竜骨山脈の麓までは歩いて2日ほど、それから遺跡はおそらく北東へ3日の範囲だそうで麓からの情報は北東方面という情報しかないとのことだった。
となると遺跡まではここからは早くとも2週間はかかるかと、セレスタの町を出る前、ノアはヴィクトルから渡された紹介状と地図を、何度も確かめ、道のりを考えていた。
「そういえば、ノア君。グラニスまではどうやって向かうつもりだい?」
「以前、親方にグラニスまでは馬車が出ていると教わりました、とりあえずはグラニスまでの馬車を探そうかと」
「なるほど、それはいい案だがグラニスまでとなるとそれなりの日数が掛かる、君、十分な路銀はあるんだろうね?」
思いがけない質問に、ノアの表情が固まった。
そういえば、旅に出ることばかり考えていて、必要なお金のことをあまり考えていなかった。食料や道具を買うにも、宿に泊まるにもお金は必要だ。
「ええと……一応、持ってはいます」
ノアは気まずそうに懐から財布を取り出した。
口を開いて中を覗き込む。
そこには、わずかな硬貨が入っているだけのはずだった。
「…………」
「……あれ?」
硬貨の種類、数が明らかに認識していた数と合わない。
また、硬貨と一緒に小さく折り畳まれた紙が一枚入っていた。
取り出して開いてみると、そこには見覚えのある文字が並んでいた。
――ノアへ。
勝手に出ていったことは、まだ許していない。
だが、お前が本気で旅に出るつもりだったことは分かった。
帰ってきたら、まずは無事な顔を見せろ。
それから、旅先で困らないように少しばかり入れておいた。無駄遣いするなよ。
エドガー
「どうしたんだい?」
「いえ!その……思っていたより、少ないなと……」
ノアは苦笑いを浮かべつつ手紙を見られないようにこっそり隠した。
ヴィクトルはそんなノアを見て、困ったように微笑む。
「旅には思いのほかお金がかかるものだよ。食事や宿代だけでなく、予想外の出費もある。無理をして節約しすぎないようにね」
「はい……」
「ちょうど明日、うちの商会の荷馬車がグラニスへ向かう予定になっている。よければ、それに乗せてもらうといい。私から話を通しておこう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ノアは思わず顔を明るくした。
「ただし、荷物を運ぶ馬車だからね。乗り心地はあまり期待しない方がいい」
「いえ、乗せてもらえるだけで十分です!」
「ははは、それならよかった」
◆
翌朝、ノアは商会の荷馬車に乗り込んだ。
荷台には木箱や麻袋がいくつも積まれており、ノアはその隙間に腰を下ろす。馬車を引く御者は商会の人間で、ヴィクトルから話を聞いていたらしく、気さくに声をかけてくれた。
「坊主、グラニスまで行くんだってな。長旅になるぞ」
「はい。よろしくお願いします」
「なあに、途中で何度か休憩を挟む。焦らず行こうや」
こうしてノアを乗せた荷馬車は、セレスタの町を後にした。
グラニスまでは、街道を進んでもおよそ一週間。
馬車は中央平原を横切り、いくつもの村や宿場町を経由して進んでいく。
道中では、広大な草原や川沿いの農村、遠くに見える森など、セレスタでは見ることのできなかった景色が次々と目の前を通り過ぎた。
時には別の商人の荷馬車とすれ違い、時には宿場町で旅人たちと食事を共にすることもあった。
初めての長旅に、ノアは戸惑うことも多かったが、それ以上に新しい景色や人々との出会いに胸を躍らせていた。
「世界って、こんなに広いんだな……」
馬車の荷台から見える景色を眺めながら、ノアは小さく呟いた。
幼い頃、吟遊詩人セシルから聞かされた黄金の龍アウレリアの伝説。
その物語に憧れ、いつか自分の目で世界を見てみたいと思っていた。
今、その夢への第一歩を踏み出している。
そして出発から七日目の昼過ぎ。
遠くに連なる巨大な山々が、ノアの目に飛び込んできた。
「見えてきたぞ。あれが竜骨山脈だ」
御者の声に、ノアは身を乗り出した。
山々はまるで巨大な龍が大地に横たわっているかのように連なり、その麓には石造りの建物がいくつも見える。
「すごい……!」
やがて馬車は、竜骨山脈の麓に築かれた鉱山都市グラニスへと到着した。
町の通りには鉱石を積んだ荷馬車が行き交い、あちこちから鍛冶屋の槌を打つ音が響いている。煙突からは白い煙が立ち上り、町全体が活気に満ちていた。
職人見習いであるノアにとって、珍しい鉱石や見たことのない道具が並ぶ店は、どれも興味を引くものだった。
「ゆっくり見て回りたいけど……今は遺跡が先だな」
後ろ髪を引かれながらも、ノアはまず宿を探し、翌日からの山道に備えて食料や水、ランタンの油などを買い足した。
翌朝、ノアはヴィクトルから受け取った地図を広げ、ルクスヴェイン遺跡への道を確認した。
グラニスから先は、商会の荷馬車も通らない山道だ。
鉱山関係者が使う道をしばらく進み、やがて森林と岩場が入り混じる険しい道へと入っていく。奥へ進むにつれて人の姿は少なくなり、道標も見当たらなくなっていった。
遠くから獣のような鳴き声が聞こえることもあった。ノアはそのたびに足を止め、周囲を警戒しながら慎重に歩みを進めた。
その日は山道の途中で野営をすることになった。
慣れない野宿に戸惑いながらも、食事を済ませ、焚き火のそばで地図を確認する。
「明日には着けるはずだ……」
そう呟き、ノアは夜空を見上げるのであった。




