古い本に記された名
ある日、店に身なりの整った、物腰の柔らかな男が来た。
年齢はエドガーより少し若いくらいだろうか。街では古い書物や骨董品を集めている人物として知られていた。
男はヴィクトルと名乗った。
彼は時折、エドガーの店に古書を持ち込んでいた。
傷んだ本の修復を依頼するためだ。
「今回も頼めるだろうか。ずいぶん古い本でね。ページが脆くなっている」
「見せてみろ」
エドガーは本を受け取ると、表紙や背表紙を確かめた。
「こいつはかなり傷んでるな。無理に開けば、ページが崩れるぞ」
「ええ。ですから、できるだけ丁寧に頼みたい、これは前払いだ。」
ヴィクトルはそう言って、金貨を1枚机に置いた。
エドガーは「少し待っていろ。」と告げ、本を受け取り店の奥へと向かった。
彼は古い本を集めているだけではないらしい。
何かを調べているようだった。
俺が修復の手伝いをしているときも、彼は店を訪れては、古い伝承や歴史書を探していると話していた。
「何を調べているんですか?」
俺が尋ねると、ヴィクトルは少しだけ笑った。
「なんでもないさ、ただの趣味でね。」
「趣味?」
「ああ、古い伝説だの、言い伝えなんかを読むのが僕の趣味なんだ。」
「へー!俺も黄龍伝説が好きで調べるのが趣味なんですよ!」
「ほぅ黄龍伝説を…その歳にしては立派な趣味だね、今度僕が集めた中で見つけた黄龍伝説に関わる話を見せてあげよう!」
「え!いいんですか!?約束ですよ!」
近い趣味を持っているからかノアとヴィクトルは次第に意気投合し、話を弾ませていたところ、エドガーが店の奥から戻って来た。
「軽く見たが状態が酷い、1週間は掛かるぞ、料金は金貨10枚だ。」
「仕方ない、それで頼むよ。それと、定期的にここに来ていいかな?入手するのに手を焼いた本だ、様子を見たい。
話の合う友人も見つけたことだしね?」
「それは構わんが…仕事の邪魔はするなよ?ノア、手伝え、仕事ができたぞ。」
「了解!」
その日以降、ヴィクトルは幾度か店に来るようになった。
どうやらヴィクトルは有名な商人だったようだ。
金には困っていなさそうで、たまに何冊かの古書を持ち込み、修復を依頼して来た。
ある日、エドガーが別の客の修理をしている間にヴィクトルが来た。
「すみません、親方今対応中で……」
「いいさ、待たせて貰おう、それに君に見せたいものがあってね。」
そういながらヴィクトルは俺に1冊の本を見せて来た
ひどく傷み、題名も半分ほど読めはしなかったが、
表紙には龍が大きく描かれてることだけはわかった。
「それ……」
思わず声が漏れた。
「以前、僕のコレクションを見せてあげると言っていたからね?」
俺は吸い込まれるようにヴィクトルに向かい、手から本わ受け取った。
そして、本を開き、傷まないよう慎重にページをめくった。
そこには、古代の大陸や四つの国、そして黄金の龍にまつわる伝承が記されていた。
基本的な内容は、俺が知っている伝説そのままだったが、
しかし、その本にはほかの書物にはない記述があった。
黄金の龍が最後に果てた場所。
龍は世界を5つに割った後、使い果たした力を取り戻すべくか龍脈に向かったのだと。
龍は龍脈に辿り着きはしたものの、その場で光の泡となり果てて、その場所を遺跡かと見紛うような構造に変化させたのだと書かれていた。
そしてその名が、ページの最期に記されていた。
「……ルクスヴェイン遺跡」
俺は思わず、その名を声に出して読んでいた。
「――そう、興味深いだろ、よく見聞きできる伝説は黄金の龍は光の泡になって消えたということしか出てこないが、この本には黄金の龍は最期に龍脈へ向かったとある、それがルクスヴェイン遺跡と呼ばれているものだ。」
「ありがとうございます!こんな貴重なもの見せていただいて!」
「なんてことはない、ここにはお世話になってるし、君とも約束したからね。」
「それでもありがとうございました!、それにしてもルクスヴェイン遺跡か…どこにあるんだろ?探せば見つかるかな?」
ノアはお礼もそこそこに、新しい情報をまえにワクワクと心を震わせてところヴィクトルは話を続けた。
「ノア君」
「はい?」
「僕がルクスヴェイン遺跡の場所を知っていると言ったら、君はどうするかい?」
ごくり……喉鳴った
「行きたいです……」
俺がそう答えると、ヴィクトルは静かに微笑んだ。
「そうか。なら、ひとつ頼みたいことがある。
と言ってもこれはお願いではなく正式に仕事として依頼するつもりだ。
もし君が受けてくれるなら遺跡までの地図をわたそう。
また、遺跡の中で見つけたものを私に見せてほしい。珍しい品であれば、相応の値で買い取ろう。」
その言葉に、俺の胸は弾んだ。
六千年前の黄金の龍。
その最後の場所。
ずっと本の中で追いかけてきた伝説が、手の届くところにあるかもしれない。
けれど、すぐに思い浮かんだのはエドガーの顔だった。
「……親方に相談してみます」
「そうするといい」
ヴィクトルは穏やかに頷いた。
その表情の裏に、何が隠されているのか。
そのときの俺には、知る由もなかった。




