↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トンチキつよつよ出奔令嬢、魔国に渡りて福を成す  作者: 葛餅もち乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/30

急転直下(5)


 それからエドガーとローディは緊急会議を開くと言って王城本宮に向かった。シェリーはフレッドとこの場で待機である。

 どのくらい時間がかかるかわからない。シェリーはひとまず二人分のコーヒーを淹れた。


「フレッド、二年間も長い間、本当にありがとう。辛いことも色々とあったでしょ。話を聞かせて」

「いいよ別にボクの話は。それに結構楽しくやってたんだよ。それよりもさシェリー。ここでの生活、ほんとのところどうなの?」

「私は本当によくしてもらってる。フレッドも今にわかるよ。それよりフレッドの話を聞きたいのだけど?」

「ハハ! そっかそっか……そんな感じがしたよ。あの手紙をもらったときはどうなることかと思ったけど、ここに来て正解だったね。婚約解消は僥倖だった」

「ありがとう。……で? ここまで誤魔化すってことは、本当はかなり大変だったのじゃない? 結構危ない橋も渡っていたみたいだし」


 シェリーがじっとり見つめると、違う違うとフレッドが手を振る。


「いや、本当に大丈夫だったって。ちゃんと話すから。でもそれよりさ、ボクが気がかりだったのはシェリーのことだから……。シェリーはいつだって自分を見失わないよね。北極星みたいなボクの光なんだよ」

「フレッドはいつだって大袈裟に褒めてくれるね。励ましてくれてありがとう。ここからも頑張らないとね」


 ここからが正念場である。十分な情報は集めてくれたし、エドガーたちなら計画を未然に防ぐことはわけないだろうが、そのあとの処理をどうするか。


「まぁそれはもうすぐ明らかになるだろうから……今はフレッドの話を聞こうかな」

「ハァーイ。じゃあまずねぇ、ダズワード伯爵家の次女と三女から取り合いされた話から聞く? 媚薬まで盛られそうだったんだよ。平民設定だったのにさ、身を隠さなければならない高貴な青年に違いないって勘違いされて。そんなにイイ男の香りがするのかな、ボク」

「初っ端から不安になってきた……」

 ――と、しばらくの間、フレッドの冒険譚を聞きながら会議が終わるのを待っていた。



 そうして二時間は経ったあたりで、エドガーが戻ってきた。フレッドと話していたので、体感ではあっという間である。

「お待たせしました。シェリーさんは今から会議に来ていただけますか?」

 きた、とシェリーの体に緊張が走る。

「下僕君については、ルルリがお世話してくれることになりました。彼女が色々と説明してくれるので、身の振り方について考えておいてください」


 エドガーの背後から、ルルリがひょこりと顔を出す。まかせてください、と頷かれた。シェリーは丁寧にお辞儀をして、エドガーの後ろに続く。

 会議に向かう道すがら、この二時間で決まったことの説明を受ける。北東の自治集落には、軍の者がすぐ駆けつけたようだ。事態が収束するまで王都に身を寄せてもらうよう説明し、転移魔法陣を使って移動を始めている。


 無論、襲撃者たちを迎え撃ち、首謀者を叩く方向なので、集落を不自然な空っぽにはさせられない。戦える男たちは残り、女性の隊員たちは身を扮して集落に留まり、変身魔法が得意な者は子どもの姿になって、襲撃を待つ。

 集落周囲を調べた結果、襲撃前の偵察に来たであろう痕跡も残っていたらしい。獣道だったはずが襲撃者の作ったらしいルートも確認し、それは真っ直ぐエルラン国ダックワース地方に出たのだと。


「北東の自治集落は王都から遠く、魔ノ森も挟みますから、エルラン国のほうがよっぽど近いのですよね。何かの偶然であの集落のことを知ってもおかしくなかった」

 フレッドの手帳を読むと、弱そうな女性と子どもを狙って誘拐する計画らしい。従属魔法は簡単にできるものではないので、エルランに連れてきてから施す予定だと。

 醜悪さに吐き気がする。


「従属魔法はおそらく……一旦、精神を壊すのでしょう。そしてたぶん、その実験台になった人間がいる。その証拠も掴めたらいいのですが」

 ここまできて、エルラン側の被害者のことまで考えを巡らせてくれている。

 なんて気高いのだろう。


「エドガー様……ありがとうございます。感服いたします」

「……あなたがこの国に来た本当の目的は、この計画をつぶすことだったんですね」

「一番やるべきことではありましたが、目的の一つですエドガー様。入国が認められなければ、まずダックワーズ地方に潜入してこの計画を何とかしようと思っていました」

「確かに、そういうことを言っていましたね。そうですか……。シェリーさんは本当に一貫している」

「ユートリアで暮らしていきたい理由はもっとたくさんあります。……この件が終わっても、できれば、この国にいたいと思っています」

 エドガーは足を止めた。あと数歩で、おそらく目的の会議室がある。


「それは、本当ですね? この国にいたいと」

 真剣に問われ、シェリーはしっかり頷く。

「はい。許されるのなら、ここで生きていきたいです」

 ユートリアの風土はシェリーに合っていると思う。自分の能力を存分に発揮して、貢献できる。

「私は、みなさんのことが好きです」


 おおらかで器の大きい人たちである。優しくて、一緒にいると心地よくて、楽しい。

 エドガーのことも、勿論。

 そんな気持ちを込めてエドガーを見つめた。エドガーは口元に笑みをたたえる。

「それを聞けて良かったです。……さて、頑張りましょう」



 会議室では国王リトを中心に、ローディと軍の隊長方、政務を取り仕切っている文官方、合わせて十五人ほどが詰めていた。シェリーが入室すると、彼らからの厳しい視線に晒された。シェリーは片膝をついて跪き、頭を下げた。

「我が国の人間が申し訳ございません」

 すぐさま隣にいたエドガーが身を屈め、「シェリーさんの謝ることではないです」と肩に手を添えてくれる。それでもシェリーは頭を上げない。


「シェリー。頭を上げて、席に座って。君を糾弾するために呼んだのではないから」

 リトが静かに言った。そっと顔を上げると、他の皆は視線を逸らせる。エドガーに腕を引っ張られて立ち上がり、エスコートされるように座席についた。

「こちらの対応についてはエドガーから大まかに聞いたと思うけど、何か言いたいことはあるか?」

「私たちのお話を聞いていただき、ありがとうございました」

「うん。ほかには? どうしてこの国に来た最初のときに言ってくれなかったのか、とか」


 なるほど、と理解した。こんなギリギリになってしまったのだ。シェリーもそろそろエドガーに相談したいと思っていた、その矢先だった。


「本当に起きるかわからない計画だった、それが第一です。それに、突然やって来て信じてもらえるかわからないし、逆に怪しまれるかもしれない。幸い、入隊を受け入れてもらえたので、まずは真摯に働いて自分の信用を得たいと思っていました。……エドガー様にご相談する前に、事態が動き出してこんなことになってしまいましたが」

「うん。まぁ、そんなとこだろうとは思ってた。シェリーの口から聞きたかったんだよな。……じゃあ、本題。自治集落を襲撃してきた賊は捕縛、首謀者の貴族たち諸共制裁する――んだけど、これについては何か意見はある?」


 リトの声音は低い。隊長や文官たちは皆固く口を引き結び、視線を斜め下にやっていた。シェリーのほうを見ていないのに、沈黙が重く、シェリーの肩にずしりとのしかかるようだった。

 シェリーは膝の上でぎゅっと手を握りしめる。


「できることなら……罪は、ダズワード伯爵および関わった者たちの咎として扱ってほしいです。どうか国民や領民には、火の粉が降りかからないように願います。今回の件、王室や国政は関わっていないはずで、国としての責任を追求するのは難しいと思います。とはいえエルラン国の非でしょう。リト様のご意向を推測するに、侵略の予定はないことかと。でしたら、不可侵条約や友好条約のようなものを結んでもいいのではと思いました。ユートリア国はこれから積極的に諸外国と外交なさる方針ですよね? エルランは強大国ではありませんが小国でもなく、歴史だけはある国です。その信用はありますので、悪くないと思います」


 シェリーは静かに淡々と話した。一旦、場が静かになる。

 皆、リトの言葉を待っているようだった。


「……うん。そうだな。どれも、会議の中に出てきた提案だ。制裁についてはもとよりそのつもり。これがエルラン国が企てたものなら勿論エルラン国に報復してたけどな?」

 シェリーが重く頷くのを見て、リトがふっと緊張を緩める。


「エルラン国と――王家とどうやったら穏便に話ができるかな、と思っていたんだよな。何しろエルランと国交樹立したことないし。そこでシェリーの協力が得られたら可能なんじゃないかって」

「ハノーヴァ公爵の力を借りる、ということですか? 具体的には」

「ダズワード伯爵が企てている今回の計画について、そちらの王と直接話ができればいい。その機会を作ってほしい」


 なかなか無茶である。

 手段や方法を選ばなければ可能だろうが、その場合はリスクがある。


「父と連絡を取ってみます。ダズワード伯爵のことを話していいのなら、私が一度こっそり帰国して父をここに連れてきても――」

「いや、シェリーが一人でエルランに行くのは許可できない。ほら、隣にいるソレが、怖いから」

 リトが顔を顰めてシェリーの隣を指さした。エドガーが仄暗さを感じる笑みを浮かべている。


「シェリーさんは捜索が出されていたんですよ。下手に見つかると厄介です。フレッド君に行ってもらいましょう」

「……ということで、シェリー。フレッド君とやらに頼んでくれ」

「承知しました。私からは手紙を送っておきます。よろしいですか?」


 出奔したあのとき、捜索を出されていたことをシェリーは忘れていた。ハノーヴァ公爵家に見つかるのなら良いが、宰相側に見つかると厄介である。父からの信頼も厚いフレッドが適任だ。


「うん、頼む。俺も一筆書こうかな……フレッド君とやらを呼んでくれ。皆、それでよろしく」


 そう言ってリトがふぅ……とため息をつくと、張り詰めていた場の緊張も緩んだ。今後の動く方針が決まったからだろう。何人かは慌ただしく部屋を出ていった。

 その後、部屋に残ったシェリーは詳しい計画を聞いた。フレッドは任務を言い渡されて張り切っている。ローディは自治集落のほうに潜伏するらしい。狼の獣耳を出せるので、村人に扮して襲撃に備えるのだと。

 全ては襲撃者たちを捕らえてから始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。