マリー・メルモットの謎
日付が変わって、そろそろ一時間。
昼間はあれほど人であふれていた王宮も、今はひっそりと静まり返っていた。
壁かけランプが放つ淡い明かりの中、わたしは湯差しと手拭いを手に、足音を忍ばせて廊下を進んでいた。
今のわたしの姿は、濃紺の地味な制服に、白いエプロン。黒から栗色に染め替えた髪を残らずキャップへ引っつめ、目立つ赤眼は彩色眼膜で茶色に変えている。頬には薄いそばかす。
そして、王宮紋章と夜番の番号が刻まれた勤務札を腰に下げている。
もちろん、すべて偽物である。
「そこのあなた」
ふいに背後から声をかけられる。
心臓が跳ねそうになるのを、呼吸ひとつで抑えこんだ。
廊下の奥から現れたのは、夜番の若い侍女だった。
片手に使い終えた燭台、もう片方には空の湯差しを提げている。
「西廊下の二十六号室、まだ暖炉の火を残すそうよ。お湯を届けたついでに、石炭を少し足しておいてくれる?」
「承知しました。火除けも確かめておきます」
少し声を低くし、教えこまれた訛り混じりに答える。
侍女はこちらを一瞥したが、足を止めることさえなかった。
「お願いね。三十号室の奥様は、もうお休みよ。前を通るときは静かに」
「はい」
それだけ言い残し、彼女は空の燭台をかすかに鳴らしながら去っていった。
完全に姿が見えなくなってから、わたしはようやく息をつく。
――やっぱり、あの子の変装術はすごいわね。原作でも達人級だったけれど。
フォーマン・ペグ。
『霧都事件ロマネスク』では、わたしの配下となり、汚れ仕事を一身に引き受けていた少年。けれど今は「ウェルズ」へと改姓し、わたしの専属従者として働いている。
前世の記憶を思い出した、十年前。
まずわたしがやったことは、この記憶が本物なのか確かめるために、とある孤児院の不正を暴くことだった。そこで助け出したのが、フォーマンだ。
その時の恩義を感じてくれているのか、彼はいつも献身的だ。こうしたむちゃぶりにも嫌な顔ひとつせず、少し心配になるくらいには。
『お嬢様、背筋が伸びすぎています』
出発前、フォーマンは姿鏡の前でそう指摘した。
『侍女がそのように堂々と歩いてはいけません。肩を少し落として、歩幅も今の八割ほどに』
『こう?』
『目線が高いです。貴族とは目を合わせず、上役に呼ばれてから顔を上げてください』
言われるがままに姿勢を直すと、鏡の中からジャクリーン・モリアーティの面影が薄れていった。
『これでいいかしら』
『見た目だけなら』
フォーマンは淡々と答え、わたしの腰元に偽の勤務札を留めた。
『ただし、夜番主任に名簿を確認されたら終わりです。献上式で臨時の侍女が増えているとはいえ、主任クラスならばだいたいの顔ぶれを記憶している可能性は高い』
『つまり、呼び止められないよう堂々としていればいいのね』
『いえ。侍女らしく、目立たずに動いてください』
彼の教えを思い出しながら、ランプの油を確かめ、暖炉を火かき棒で整えながら進む。
なにもせず歩き回るより、実際に働きながらのほうが怪しまれない。
そうしているうちに廊下を抜け、目的の扉へたどり着いた。
壁に掲げられているのは、金地を横切る真紅の帯と、その上下に配された三羽の小鷲。――リメジー男爵の紋章だ。
わたしは控えめに三度、ドアをノックした。
「リメジー男爵様。ご用命のお湯をお持ちいたしました」
夜更けに洗面用の湯を求める客は珍しくない。
まして今夜は、殺人事件のせいで大勢が王宮に足止めされている。まだ寝支度を終えていない者がいても、誰も不審には思わないだろう。
ほどなくして、内側で鍵が動いた。
扉がわずかに開き、その隙間から琥珀色の瞳がこちらを覗く。
次の瞬間、男の口元が楽しげにつり上がった。
「よう、嬢ちゃん。そろそろだと思ったぜ」
扉が大きく開け放たれる。
わたしは左右を確認すると、すばやく室内へ体を滑りこませた。
「まったく、相変わらず無茶をするやつだな」
「監視が厳しかったのよ。今はフォーマンがわたしに化けてくれているわ」
男は、深緑の上着をゆるく着崩し、壁に肩をもたれかけていた。
くせのある赤銅色の髪に、浅黒く焼けた肌。琥珀色の瞳は、光の加減で金にも緑にも見える。いわゆるアースアイというやつだ。
貴族らしく整った顔立ちをしているくせに、不敵な笑みと野性味のせいで、温室育ちの令息にはとても見えない。
リメジー男爵、ラウール・ルパン。
そして、その正体は――怪盗アルセーヌ・ルーピン。
『霧都事件ロマネスク』では、警察すらつかめない情報を主人公たちへ流す情報屋であり、れっきとした攻略対象のひとりだった。
そんな彼と、ゲームでは黒幕だった悪役令嬢が、なぜこうして親しくしているのか?
出会いのきっかけは十年前。
孤児院の不正を暴いたとき、その流れで彼にも恩を売ることになった。
それ以来、どういうわけか気に入られているらしい。
「それにしても、よく化けたもんだ。フォーマンも腕を上げたな」
「誰に仕込まれたのだったかしらね」
「さあな。筋がよかったんじゃないか?」
しらばっくれて、ルパンは肩をすくめる。フォーマンへ変装術を教えたのは、この男だ。
「親父さんも災難だったな。まだ警察に絞られてるんだろう?」
「ええ。さすが、耳が早いわね」
「俺の仕事を忘れたか?」
ルパンは軽く笑った。
「警察が押さえてる捜査情報なら、もうひと通り調べてある」
そうだと思った。でなければ、わざわざ危険を冒して会いにきた意味がない。
わたしは持ってきた湯差しを卓上へ置き、彼に向き直った。
「それで、わたしはなにをすればいいのかしら」
「話が早くて助かるよ」
当然だ。情報屋を相手にタダで聞き出すつもりはない。
ルパンは満足そうに笑うと、壁から身を起こした。
「マリー・メルモット子爵令嬢が身につけていたパリュールが、行方不明らしい」
「パリュール?」
「ああ。遺体にも、控え室にもなかった。そいつを見つけ出して、持ち主に返してやってくれ」
「また人助け?」
「まさか」
ルパンは鼻で笑った。
「俺は俺のためにやってるだけさ」
弱き者のために怪盗なんてものを続けているくせに、この男はいつだって心にもないことを言う。
「わかったわ。引き受けましょう」
「交渉成立だな」
ルパンはにやりと口角を上げ、近くの椅子を顎で示した。
「それじゃあ、まずは警察がどこまで掴んでるか――そこから話そうか」
長い脚を組んで、彼は語りはじめる。
「遺体が見つかったのは、昼休憩に入ってすぐだ。娘が戻ってこないのを不審に思った両親が控え室まで迎えに行ったが、ドアには鍵がかかっていた。呼びかけても返事がない。そこで王宮側に知らせて、親鍵で開けさせた」
「そして、中で遺体を発見した?」
「そのとおりだ。部屋は派手に荒らされ、窓が割られて部屋中にガラスが飛び散っていた。背中には果物ナイフが突き刺さっている。おまけに、身につけていたはずのパリュールが丸ごと消えていた。最初は誰もが、物盗りに入った賊の仕業だと思ったらしい」
密室に近い現場。荒らされた室内に、割れた窓。床に散らばるガラス片。背中を刺され、宝石を奪われた令嬢。
たしかに、絵に描いたような強盗殺人だ。
「ところが、ホームズ警部補が待ったをかけた。背中の傷に生活反応がなかったのさ。つまり、ナイフで刺されたのは死んだ後だ」
「……それで、毒殺?」
「その可能性が高い。遺体の口元や床には嘔吐の痕があった。それに、窓ガラスの大半が外に落ちていたそうだ」
外部から侵入するために割ったのなら、ガラスは室内に散らばっているはずだ。
つまり、内側から破壊された可能性が高い。
「でも、現場にはガラスが散らばっていたんでしょう?」
「ああ。だが、そっちは窓ガラスじゃなかった。部屋にあった花瓶が粉々に砕けたものだったらしい」
「粉々に? だとしたら、落として割れたんじゃないわね。誰かが意図的に砕いたのかも」
外側に散らばった窓ガラスをごまかすために、花瓶を割った可能性が高い。
「強盗に見せかけた偽装ね」
「警察もそう見てる。もっとも、誰がなんのためにやったかまでは掴めてないけどな」
そう言って、ルパンは口角の片側をつり上げた。
「事件のことは伏せられたまま、午後の奉献は予定どおり再開された。その裏じゃ、王宮中をひっくり返す勢いで捜査してたらしいぜ」
そういえば、メルモット子爵家は諸事情により奉献を辞退する、と説明されていたことを思い出す。
あの時にはもう、メルモット嬢は死んでいたのだ。
「で、王立法医学研究所から、ソーンダイク博士が呼ばれた」
「あの、法医学の権威の?」
「ああ。それで知ってのとおり、胃の内容物から赤ワインと毒物反応が出たわけだ」
「赤ワイン……」
献上式で供される赤ワインは、ライヘンバッハ・リザーヴだけ。それは、神々との契約によって定められている。
建国戦争の折、初代国王は神前でこう誓った。
『この戦いに勝利したならば、次の収穫で最初に醸したぶどう酒を、神々へ捧げましょう』
以来、献上式の日に王宮へ運びこまれる赤ワインは、すべて神々への捧げものとされている。
盟杯で口にする一杯も、いわば神々から分け与えられたものだ。
よって、それ以外の赤ワインは持ちこめない。供されるワインも白か、せいぜいロゼまで。ほかはエールやウイスキー、カクテルなどに限られる。
手荷物検査も厳しく、不正に持ちこもうとしても、まず弾かれる。
だから、警察が真っ先にこちらを疑ったのも、無理からぬことだ。
「その後は、おまえも知っているとおりだ。フォーマンの証言をもとに、警察は犯行現場付近から走り去った男を目撃したという、三人の侍女を聴取した」
「なにかわかったの?」
「彼女らの証言は、年格好や服装、髪の色などがおおむね一致していた。それらの特徴に当てはまる人物として浮かんだのが、ヴィンセント・ヴェンディス伯爵令息だ」
ヴェンディス――たしか、金属加工をはじめとする伝統産業で知られる家だ。
それに、あそこはファルコナー侯爵家の分家筋じゃなかっただろうか?
「でも、それだけで逮捕はできないでしょう?」
「それがな……警察が所持品を調べたら、さらに厄介なものが出たんだよ」
ルパンは二本の指を立てた。
「ひとつは合鍵。確認したところ、メルモット家が使用してる控え室のものと一致したそうだ」
「合鍵なんて、そう簡単に用意できるものかしら」
「あの部屋は一年半ほど前に鍵が壊れて、錠前ごと交換されてるらしい。警察は、その時に作られたものがヴィンセントの手に渡ったんじゃないかと見てるようだな」
だとすると、メルモット嬢はあの控え室を使ったから襲われたのだろうか。それとも、最初からメルモット家を狙った犯行だったのか。
考えてみれば、各家に割り当てられる控え室は、家格によっておおよその位置が決まる。メルモットほどの家なら、事前にどのあたりになるか見当をつけることもできなくはないだろう。とはいえ、あの部屋は去年の献上式で別の貴族が使っていたので、考えすぎかもしれないが。
「もうひとつは?」
「毒物らしき液体を入れた目薬瓶だ」
「つまり、まだ成分まではわかってない?」
「目薬じゃないことまでは判明してる。詳しいところは分析中だが、遺体から出た毒と一致したら、ほぼ決まりだろうな」
「それなら、父が取り調べられる理由がないじゃない」
「ところが、話はそこで終わらない」
ちっちっち、とルパンが指を振る。
「ヴィンセントはいまだに容疑を否認している。どちらも見覚えがない、誰かが自分に罪をかぶせるために忍ばせたんだ、とな」
現場付近から逃走する姿を目撃され、所持品からは合鍵と毒物。
これだけ揃えば、警察が彼を疑うのは必然と言えた。
しかし――。
「……妙ね」
「なにがだ?」
「合鍵を持っていたなら、もっと人目につかないやり方があったはず。前もって毒を忍ばせたあと、何食わぬ顔で参列者に紛れてしまえばいい」
にもかかわらず、彼は遺体にナイフを突き立て、窓を割り、現場を荒らした。
挙げ句の果てに、慌てて立ち去ったせいで、三人もの侍女に姿を見られてしまっている。
「なぜ、わざわざ事件性を強調したのかしら。もっと隠密行動に徹すれば、容疑者にすら挙がらなかったかもしれないのに」
「警察は、強盗の仕業に見せかけることで、毒殺から目をそらそうとしたと考えている」
「説明はつくわ。でも、合理的ではない」
犯行を隠すための偽装にしては、あまりにも杜撰すぎる。
合鍵まで用意していた計画的な犯人像とは、どうも重ならない気がした。
「ともかく警察は、ヴィンセントを正式に逮捕するつもりだった。ところが、その直前に第二の事件が起きた」
「ファルコナー嬢が毒針に刺された件ね」
「そうだ。ファルコナー侯爵の上着から、娘のアリシアがコサージュを外そうとした」
ルパンは自分の胸元に手をやり、外す動作を再現してみせる。
「針は布花の中心から表に向けて刺さっていた。つける時は、できるだけ花の部分を潰さないようにするだろう? だが、外す時は気にしないでいいからな」
「紙と布でできた、使い捨てのコサージュだものね。もう捨てるだけと思えば、花を押さえながら外そうとする。その時に飛び出した針に刺されたのね」
「そういうことだ。使われたのは、裁縫針のような細い針だったらしい。ファルコナー嬢は右手を刺された。手のひらから指にかけて赤く腫れ、焼けるような痛みと痺れを訴えている。手首の近くまで赤くなって、小さな水疱も出始めたそうだ。それから、吐き気とめまいもあって、立とうとするとふらつくらしい」
「容体は?」
「意識ははっきりしてるし、脈も今のところ安定してる。今すぐ命に関わる状態じゃない。だが、医者が手を洗浄して処置した後も、症状は進んでる。針に塗られていた毒の種類もわかっていない」
毒入りの赤ワイン。目薬瓶に入った毒物。そして、コサージュに隠された毒針。
一日に三つも毒が出てくるなんて、いくらなんでも異常だ。
「そうだ。現場を直接見せることはできないが、これをやるよ」
そう言ってルパンは内ポケットから、二枚の写真を取り出した。
「写真室ではねられた試し焼きだ。多少写りが悪いが、見るぶんには足りるだろ」
「……こんなもの、どうやって手に入れたの?」
「そいつは商売上の秘密だ。けど、今回はさすがに骨が折れたぜ。メグレ警視が現場を仕切ってるうえ、警察総監までお出ましだからな」
「警察総監って……バンクロフト・ホームズ?」
「そうだ。よく知ってたな」
「え、ええ……まあね。大きな事件があると、新聞で名前を見かけるから」
本当は『霧ロマ』でエルロックの兄として何度か登場したからなのだが、それは置いておく。
王宮で殺人事件となれば、さすがに執務室で報告を待っているだけとはいかなかったのだろう。
渡されたのは、室内の全景と、遺体の周囲を撮ったものだった。
前世の知識にあるようなデジタルカラー写真ではないが、これでもじゅうぶんな収穫である。
白黒なので、色の判別には向かないけれど。
「どうだ? それで、なにかわかるか?」
「そうね……」
じっと写真を見つめる。
遺体の周りにはガラスが散らばっていた。透明なそれが向こう側を浮かび上がらせ、まるで大量の水が撒かれているかのようだ。
メルモット嬢は、そのうちのひとつを右手で握っていた。
なぜガラス片を握りこんでいるのだろう。手袋越しとはいえ、危険であることに変わりない。
だが、その手袋が一部欠けているように見えて、思わず眉間に力が入った。
「……ガラスじゃないわね」
「どれだ?」
「手の中。ほら、向こう側が透けていないでしょう。これ、鏡だわ」
ルパンが写真を覗きこむ。
「なんで鏡なんか握ってるんだ?」
「さあ。これ、丸い鏡が半分に割れているみたい。なにかのダイイングメッセージかしら」
もう一度、写真を眺める。
鏡のことも気になるが、先ほどからなにかが引っかかっていた。だが、一体なにが――。
目をつむり、盟杯で見た彼女の姿を思い浮かべる。
脳裏に浮かんだ光景と、写真の中の彼女を見比べて、わたしはようやく違和感の正体に思い至った。
「コサージュがないわ」
「は?」
「盟杯でもらえるコサージュよ。彼女は確かに参加していた。ならば、胸元についていないのはおかしい」
「ドレスに穴を開けたくなかった、というのは?」
「並の令嬢ならあり得るでしょうね。でも、彼女は違う。家の財力に誇りを持つ彼女が、ドレス一枚をいちいち惜しむわけがない。それに、盟杯に参加できるのは選ばれた人間だけよ。だから、その証であるコサージュを途中で外すはずもない。むしろ、夜会まで着けて、堂々と見せびらかすつもりだったはずよ」
毒針事件が起きたばかりのコサージュが、メルモット嬢の胸元から消えている。――これは偶然なのだろうか?
「……ひょっとして、犯人はパリュールだけでなく、コサージュも回収した?」
「なんのためにだ? まさか、メルモット嬢を殺した毒は、コサージュに忍ばされた針だってのか?」
「だとすると、胃の内容物と矛盾するわ。……死後に流しこまれた? ううん、そこまでする理由がない……」
思考の海に沈んでいると、そこから引き上げるかのようにルパンが肩を叩いた。
「俺もひとつ、気づいたことがあるぜ」
「なにかしら?」
「クローゼットの中を見てみろ」
言われるがまま、もう一枚の写真を見る。
クローゼットには外套や予備のドレスが並んでいた。その中に、白っぽいエプロンのついた服が紛れている。
モノクロ写真なので色まではわからないが、形からしてメイド服のようだった。
「おかしいわね。貴族の控え室に、なぜメイドの服が?」
「そこだ。警察は使用人の着替えだと思ったのか、ろくに調べてない。……ま、連中は貴族社会とは無縁な人間ばかりだから、気づかなかったんだろう」
侍女は使用人控え室で待機しているのが普通だ。我が家のように高位貴族ならば個別の従者控え室も併設されているが、それでも主人のクローゼットに私物を置くはずがない。
「さて、俺が持っている情報はこんなところだ。どこから手をつける?」
ルパンが挑発的にこちらを見る。
わたしも、その目をじっと見つめ返した。
「……まずは、メルモット家のメイドに話を聞きにいくわ」
「その心は?」
「警察が気づいていない糸口なら、切り崩す余地があるかもしれない」
遺体も凶器も、すでに警察が押さえている。
けれど、人間ならば接触できる。
「あのメイド服について、メルモット家の使用人ならば、なにか知っているかもしれないでしょう?」
「けど、どうやって近づく?」
「ちょうどいいわ」
わたしは卓上の湯差しを手に取った。
「今のわたしは、ただの夜番侍女だもの」




