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モブだったはずなのに~気づいたら、誰よりも大事にされていた~  作者:


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【9話】気づいてしまった、ひとつの事実

部室を出た後、私は重い足取りで寮の部屋に戻った。


ベッドに腰を下ろし、今日の出来事を思い返す。


(結局、誰の距離も縮まらなかった……むしろ、変な空気になっただけかも)


ため息をついたところで、扉が開いてセレナが戻ってきた。


「ただいま戻りました」


「あ、お疲れ様です」


セレナはこちらに近づいてきて、ベッドの端にぴったりと寄り添うように座った。


それから、少し恥ずかしそうに切り出した。


「あの……モブリーヌさんのこと、『モブちゃん』って呼んでもいいですか? それと、敬語じゃなくて、もっと普通に話しても……?」


「え、もちろん大丈夫です。私もそのほうが嬉しいです」


「よかった。じゃあ、これからは普通に話すね、モブちゃん」


許可が出た途端、セレナの口調はふわっと柔らかくなった。


距離も、物理的に肩がくっつくくらい近い。


「今日の勉強会、なんだか不思議な感じになっちゃったね。でも、モブちゃんとお話しできて、楽しかった」


「私と、ですか?」


「うん。最近、毎日モブちゃんとお話しするのが、楽しみになってるんだ」


無邪気な笑顔でそう言われて、私は思わず固まってしまった。


(あれ……?)


ふと、これまでのことを振り返る。


お茶の時間も、放課後の何気ない会話も、セレナが自分から話しかけてくるのは、決まって私に対してだった。


ユリウスやゼノンと話すときも、どこか一歩引いた様子で、自分から積極的に踏み込むことはあまりない。


(私……セレナに、懐かれてる……?)


ぞわっと、嫌な予感が背筋を伝う。


(いや、待って、それ自体は嬉しいことなんだけど、私が懐かれてもしょうがないんだよ……! セレナが懐くべきは、攻略対象たちのはずで……!)


セレナがこちらに笑顔を向けるたびに、内心では複雑な感情が渦巻いていた。


嬉しい、けれど、これでは本来の目的が果たせない。


「モブちゃん? どうかした?」


「い、いえ! 何でもありません。セレナさんとお話しできるの、私も嬉しいです」


「よかった。これからも、たくさんお話ししようね、モブちゃん」


セレナの笑顔を見ながら、私は密かに頭を抱えていた。


問題は、それだけでは終わらなかった。


翌日の放課後、部室に向かう途中、ゼノンに声をかけられた。


「なあ、モブリーヌ。お前、座学めっちゃできるんやろ? ちょっと教えてくれへん?」


「え、ゼノンさんも……?」


「頼むわ、テスト前で焦っとんねん」


断る理由も見つからず、放課後の部室で、ゼノンに魔法理論の解き方を教えることになった。


その翌日はエイデン、さらにその翌日はユリウスから「少し時間をもらえないか」と声をかけられ、結局、毎日違う誰かと一対一で勉強する日々が続いていった。


(なんで……私とこんなに勉強したがるの……?)


ゲームの記憶を辿っても、こんな展開は一切なかった。


本来であれば、セレナと攻略対象たちが、一対一で過ごす特別な時間のはずだ。


(私、完全にセレナの立ち位置を乗っ取ってる気がする……)


頭では分かっていても、頼まれると断れない。


困っている誰かを前にすると、つい引き受けてしまう自分の性分が、今になって裏目に出ている気がした。


その夜、ベッドの中で、私はこれまでの行動を振り返っていた。


確かに、セレナと攻略対象たちを引き合わせる場は作ってきた。


けれど、その場の中心にいたのは、いつも自分自身だった気がする。


会話の橋渡しをして、空気を作って、結果的に一番話しているのは自分とセレナ。


そして今は、勉強会という名目で、攻略対象たちとまで一対一で過ごしている。


(これじゃ、誰ともくっつかないどころか、私が全方位と仲良くなってるだけじゃ……!)


天井を見つめながら、私はしばらく考え込んでいた。


セレナが懐いてくれること自体は嬉しい。


攻略対象たちに頼られるのも、悪い気はしない。


でも、このままでは、本来の目的──セレナと攻略対象たちの関係を育てること──が、いつまでも進まない気がする。


(次は、もう少し慎重に動こう。誰かとセレナを、自然に二人にする機会を作らないと)


決意を新たに、私は目を閉じた。


明日からの作戦を、もう少し練る必要がありそうだった。

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