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モブだったはずなのに~気づいたら、誰よりも大事にされていた~  作者:


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8/30

【8話】違和感の総まとめ、迫る中間テスト

ここ数日、私はまだ本格的に踏み込んでいないカイルのことを、少し離れた場所から観察するようにしていた。


休み時間、彼は決まって誰かに頼まれごとをしている。


「これ、ちょっと手伝ってもらえる?」


「悪いんだけど」


――そう声をかけられるたびに、カイルは困ったような顔をしながらも、結局は引き受けてしまう。


「カイル、これも頼んでいい?」


「あ……うん、いいよ」


断る様子は一度も見たことがなかった。


優等生という設定からは想像していたよりも、ずっと不器用で、人に振られた仕事を黒々と抱え込んでいる様子が見て取れる。


(優しいのは間違いないけど……周りに振られすぎて、損してる感じがするな)


声をかけるべきか何度か迷ったけれど、まだ接点を持つきっかけが見つからず、結局その日も観察するだけで終わってしまった。


夜、寮の自室でノートを開き、私はこれまでの情報を整理することにした。


ユリウス(王子)

ゲーム:俺様系、自信家、威厳あり、取り巻きあり

この世界:気弱、威厳なし、取り巻きなし。だが友達のために力を使う優しさがある


カイル(幼馴染ポジション)

ゲーム:クール系、優等生、ヒロインの幼馴染

この世界:優しいが不器用。頼まれごとを断れず、一人で抱え込みがち。セレナの幼馴染ではない


ゼノン(天才魔法キャラ)

ゲーム:無口、ミステリアス

この世界:よく喋る。関西弁


ジーク(不良)

ゲーム:腕っぷし強い、ぶっきらぼう、根は優しい

この世界:真面目な学級委員長。眼鏡


エドモン(隠しキャラ・先輩)

ゲーム:無口、興味のない人とは話さない、レア

この世界:誰とでも話す。発明クラブ部長


エイデン(執事)

ゲーム:クール、なんでもそつなくこなす、一途

この世界:ドジっ子。セレナの執事ではなく、ただの同級生


書き終えて、ノートを見つめる。


(全員、見事にゲームと違う……これは、もう「ちょっとした違い」では済まされないレベルだよね)


性格が反転している人もいれば、立場や関係性そのものが変わっている人もいる。


共通点を探そうとしても、はっきりとした法則性が見えてこない。


(セレナだけが、ゲーム通りの性格……でも、その周りの環境が変わってるから、本来の魅力が誰にも伝わってない)


ノートを閉じ、ベッドに横になりながら、私はこれまでのことを振り返った。


攻略対象と向き合い、少しずつ関係を作ってきた。


けれど、この「ズレ」の正体は、いまだに分からないままだ。


(まあ、考えても仕方ないか。今は、できることをやるだけ)


翌朝、教室に入ると、黒板の端に張り出された掲示物が目に入った。


「中間試験のお知らせ」


その文字を見た瞬間、頭の中で何かが繋がった。


(中間テスト……!)


ゲームの記憶が、一気に蘇ってくる。


『アーレディ』における最初の大きなイベント。


学園生活が落ち着き始めた頃にやってくる、ストーリー的にも重要な区切りの一つだ。


(待って……これ、確か──)


記憶を辿るうち、あるイベントのことを思い出した。


中間テストの直前、セレナと親密度の高い攻略対象が、一緒に勉強する時間を持つ――というサブイベント。


当時は何気なく回収していたシーンだったけれど、今思えば、関係を深めるための重要なフラグだった。


(これ……今、まさに条件揃ってるんじゃない? 部室で、皆で勉強会とか開いたら……)


そう考えた私は、さっそく部活の時間に提案した。


「せっかく部室があるんですから、テスト前にここで勉強会をしませんか?」


「いいですね、賛成です」


「私も、それなら集中できそうだ」


皆が乗ってくれて、その日、部室には机を並べて勉強する5人の姿があった。


けれど──


(あれ……これ、私がいたらフラグ立たないんじゃ……?)


教科書を開きながら、ふとそんな考えが頭をよぎる。


誰かと誰かの距離が縮まるイベントのはずなのに、自分がこの場に居座っていたら、せっかくの空気を邪魔してしまうのではないか。


(よし……そっと抜けよう。皆だけにすれば、きっといい感じになるはず)


教科書を開きながら、ふとそんな考えが頭をよぎる。


誰かと誰かの距離が縮まるイベントのはずなのに、モブの自分がこの場に居座っていたら、せっかくの空気を邪魔してしまうのではないか。


「あ……すみません、ちょっと用事を思い出したので、私、先に失礼しますね」


そう言って席を立とうとした、その瞬間。


「待ってくれ、私も、ちょうど用事を思い出した」


「私も、すみません、今日はこれで失礼させてください」


「俺も、なんか急に用事できたわ。悪いな」


ユリウス、セレナ、ゼノンまで、次々と荷物をまとめて席を立ち始める。


(え……みんな、なんで……)


呆然としていると、最後に残っていたエイデンまでが、慌てたように荷物を抱えた。


「あ……僕も、ちょっと用事が……」


「え、エイデンさんも!?」


「す、すみません、皆さんが帰るなら、なんとなく私も……」


完全に空気にあてられたような返事だった。


(これ……結局、誰も残らないじゃん……!)


部室には、誰もいなくなってしまった。


皆の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、私は呆然とその場に立ち尽くしていた。


(せっかく勉強会、開いたのに……これじゃ、フラグも何も立たないよ……)


予想とまったく違う結末に、私はどう声をかければいいのか分からず、しばらく動けなかった。

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