【4話】クール系ばかりだと気づく日
その夜、寮の自室で日記をつけながら、私はこれまでの情報を整理することにした。
ノートに、ゲームでの設定を一人ずつ書き出していく。
ユリウス:俺様系、自信家、威厳あり、取り巻きあり
カイル:クール系、優等生、ヒロインの幼馴染
ゼノン:無口、ミステリアス
ジーク:腕っぷし強い、ぶっきらぼう、根は優しい
エドモン:無口、興味のない人とは話さない、レア
エイデン:クール、なんでもそつなくこなす、一途
書き終えて、自分が書いた文字をじっと見つめる。
(……あれ。なんか、クール系多いな)
カイル、ゼノン、エドモン、エイデン。四人もが「クール」「無口」「一途」というキーワードで括れてしまう。
攻略対象六人のうち、実に三分の二がそっち寄りだ。
(これ、当時プレイしてたとき気づかなかったな……攻略中は一人ずつ集中してたから、並べて見る機会がなかったのか)
新しい気づきにちょっとした驚きを覚えながら、ノートを閉じる。
とはいえ、今のこの世界では、その「クール」たちが見る影もないわけだけれど。
(まあ、考えても仕方ない。とりあえず、今の方針で進めよう)
方針はシンプルだった。
ユリウスとは関係を深めつつ、他の攻略対象たちのことも引き続き観察していく。
一気に全員に手を出すよりも、足場を一つずつ固めていくほうが確実だ。
その方針通り、翌日からは少しずつユリウスと言葉を交わす機会が増えていった。
中庭のベンチ、図書館の隅、廊下でのちょっとした挨拶。
気弱な性格は変わらないけれど、私と話すときだけは、心なしか肩の力が抜けているように見える。
ある日の昼休み、私はセレナとユリウスを誘って、三人で中庭で昼食を取ることにした。
「殿下とこうして食事するなんて、緊張しますね」
セレナが控えめに笑いながら言うと、ユリウスは少し戸惑った様子で目を逸らした。
「……そんなに緊張しなくていい。私のほうこそ、誰かと一緒に食べるのは……久しぶりだから」
「そうなんですか? 私もです。なんだか似てますね」
セレナの無邪気な一言に、ユリウスは小さく目を見開いた。
「……似てる、か。そう、なのかもしれない」
ぎこちないながらも、少しずつ会話が続いていく。
私はその様子を見ながら、内心でガッツポーズをしていた。
(いい感じ……! このまま三人で仲良くなれれば、ユリウスも少しずつ自信をつけてくれるかも)
昼食を終え、午後の授業もそれぞれ終わって、私は寮へ戻る前に少し校舎を回ってから帰ろうと、いつもより遠回りのルートを歩いていた。
渡り廊下を抜けたところで、ふと声が聞こえてくる。
「エドモン先輩!」
(……えどもん、せんぱい……?)
聞き慣れた名前に、思わず足を止めた。
声がした方向──発明クラブの部室の前に、数人の生徒が集まっている。
その中心にいる人物に目を向けて、私は思わず固まった。
長身で、髪は無造作にまとめられ、目元には眼鏡。
表情は柔らかく、声をかけられた生徒たちに気さくに笑いかけている。
手には何か工具らしきものを持ち、周りの生徒たちと楽しそうに話し込んでいる。
(……誰これ)
ゲームの中のエドモンは、教室にほとんど顔を出さない、誰にも興味を示さない、ミステリアスなレアキャラだった。
記憶の中の彼は、いつも一人で静かに何かを作っていて、声をかけても気のない反応しか返さない──そういう存在だったはずだ。
けれど目の前にいるのは、誰よりも人に囲まれ、誰よりも気さくに笑う青年だった。
(これが……エドモン先輩……?)
立ち尽くしたまま、私はしばらくその光景を見つめていた。
今までの誰よりも、ギャップが大きい気がする。
(これは……ちゃんと、近くで確かめないと)
新たな違和感を抱えたまま、私はその日の帰路、ずっとそのことを考え続けていた。




