【27話】遠足、チーム決め
「今度の行事、遠足みたいやな」
放課後、部室でその話題が出た。
「2日間かけて、山を登る行事らしいな。途中、魔物や罠もあるとか」
「えっ、結構本格的な行事なんですね」
セレナが、少し驚いた様子で言った。
「チームは、四人一組で組むみたいです」
掲示板に貼られた案内を確認しながら、私は皆に説明する。
(これ……確か、ゲームのイベントにあった山だ)
ゲームの記憶を辿ると、メインイベントとして、この山を舞台にした行事があったことを思い出す。
罠の位置、魔物が出る場所、そして安全に進むための最短ルート──攻略情報として、当時しっかり頭に入れていた知識だった。
(これ、ちゃんと活用すれば、安全に進める自信がある)
「エイデンさんにも、一緒に組んでもらおうかな」
そう思って、私はエイデンに声をかけてみることにした。
「エイデンさん、今度の遠足、一緒のチームになりませんか?」
「あ……すみません、もう、別のチームに決まってしまっていて」
「えっ、もうですか?」
「はい、同じ授業を取っている方に頼まれて……」
申し訳なさそうに言うエイデンに、私は少し肩を落とした。
「そうなんですね……仕方ないですね」
「すみません」
(これは、計算が狂ったな……)
結局、いつもの四人──セレナ、ユリウス、ゼノン、そして私で、チームを組むことになった。
「俺らで組むなら、心配ないやろ」
ゼノンが、軽い調子でそう言った。
「いいですよ、私は、その四人で」
セレナが、すぐに頷いてくれた。
「私も、構わない」
ユリウスも、賛同の意を示した。
チームが決まったところで、私は密かに、内心で意気込んでいた。
(ゲームでやり込んだ山だし……これ、絶対最速クリアできるはず!)
これまでの暗躍が、ことごとく空回りしてきたことを思えば、これは、ちゃんとゲーム知識を活かせる、絶好の機会だった。
単純に、ゲーマーとしての血が、久しぶりに騒いでいる感覚だった。
「あの、皆さん。今回の遠足、目標、最速クリアにしませんか」
「最速……?」
「はい。記録、貼り出されるらしいので、上位目指したいなって」
「記録、貼り出されるんか。それは知らんかったわ」
ゼノンが、興味を持ったように頷いた。
「別に、無理して急ぐ必要は、ないと思うが……」
ユリウスは、少し戸惑った様子で言った。
「私も、ゆっくり進んでも、いいんじゃないかなって思います」
セレナも、特に競争心はないらしく、のんびりとした反応だった。
(あれ……皆、そこまで燃えてない……)
明らかな温度差を感じながらも、私は諦めずに、もう一度説得を試みた。
「で、でも、せっかくの機会ですし! 一番を目指すのも、楽しいと思いませんか?」
「まあ、モブリーヌがそんなに言うなら、ちょっとやってみるか」
ゼノンが、苦笑いしながら、付き合ってくれることになった。
「君がそう言うなら、付き合おう」
ユリウスも、渋々といった様子ながら、頷いてくれた。
「モブちゃんが楽しそうだから、私もやる」
セレナも、微笑みながら賛同してくれた。
(よし……! 皆、ノリ気じゃなかったけど、付き合ってくれることになった……!)
内心でガッツポーズをしながら、私は、改めて気合を入れ直した。
「あの、最速を目指すなら、持ち物は最低限にした方がいいと思います」
「最低限……?」
「はい。水と、簡単な補給食だけで十分だと思います」
「えっ、それだけ……?」
セレナが、少し驚いた様子で聞いてきた。
「はい。休憩はせず、半日で踏破するつもりなので、荷物は軽い方がいいです」
「半日……!? 2日間かけてって、説明にはあったような……」
「そこは、私たちが最速を目指すので、規定の時間より早く終わらせます」
「治療道具は、いらないんか?」
ゼノンが、心配そうに尋ねてきた。
「あ、それは、セレナにお任せしようと思っていて」
「私に……?」
「セレナの回復魔法があれば、道具に頼らなくても、十分対応できると思うので」
「な、なるほど」
セレナが、少し照れたように笑った。
「とにかく、水と補給食だけ持って、できるだけ身軽に進みましょう」
そう言いながら、私は紙を取り出し、すごい勢いでペンを走らせ始めた。
「ここで一時間以内に第一の分岐点を通過、ここで休憩なしに第二の難所を突破、ここで……」
時間ごとの行動を、細かく書き込んでいく手が止まらない。
紙の上には、あっという間に、緻密な工程表が完成していった。
「えっ……」
セレナが、その様子を見て、思わず後ずさった。
「モブちゃん……なんか、怖い」
「えっ?」
顔を上げると、皆が、少し引いたような表情でこちらを見ていた。
「いや、これは……熱意がすごいとは思うけど」
ユリウスも、少し戸惑った様子で呟いた。
「モブリーヌ、遠足になんか思い入れでもあるんか?」
ゼノンが、苦笑いしながら指摘した。
「あ……すみません、つい」
我に返って、私は少し気恥ずかしくなりながら、ペンを置いた。
(つい、ゲーム時代の感覚が出てしまった……)
「でも、これだけ細かく計画してくれてるなら、安心かもしれないですね」
セレナが、引きながらも、フォローするようにそう言った。
「とにかく、水と補給食だけ持って、できるだけ身軽に進みましょう」
そう改めて言い直しながら、私はノートに、シンプルな持ち物リストを書き出していった。
準備を進めるうちに、行事の日が、少しずつ近づいてきていた。




