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モブだったはずなのに~気づいたら、誰よりも大事にされていた~  作者:


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26/30

【26話】それぞれの朝

翌朝、目を覚ますと、セレナはすでに身支度を終えていた。


「おはよう」


「お……おはよう」


声をかけても、いつもより少し、よそよそしい返事が返ってくる。


昨日の余韻が、まだ続いているらしい。


(これは、まだ昨日のこと、引きずってるな)


少し悪戯心が湧いて、私はあえて、いつも以上に明るく声をかけることにした。


「おはよう、セレナ。今日も可愛いね」


そう言いながら、軽く頭を撫でる。


「な……っ」


セレナの顔が、一瞬で赤く染まった。


「もう……っ」


頬を膨らませながら、セレナは小さく呟いた。


「意地悪」


「ふふ、ごめんごめん」


それでも、その表情には、どこか嬉しそうな雰囲気も混ざっていた。


朝食を済ませ、二人で教室に向かう。


席に着くと、ちょうどユリウスも教室に入ってきた。


「おはよう」


「お、おはようございます」


声をかけられた瞬間、昨日の出来事が脳裏に浮かび、私は思わず目を逸らしてしまった。


「あの……モブリーヌさん」


ユリウスが、いつもより少し改まった様子で、こちらに近づいてきた。


「昨日の発言について、少し、説明したいことがある」


「えっ……」


周りに人がいないことを確認しながら、ユリウスは、真面目な表情で続けた。


「あの言葉は、決して、特別な意味で言ったわけではない。ただ、君と一緒にいる時間が、自分にとって心地よいものだと、改めて感じていただけだ」


「あ……」


「もし、誤解を与えてしまったなら、申し訳なく思う」


きちんと頭を下げるユリウスを見て、私は少し慌てて手を振った。


「い、いえ、大丈夫です! 私も、特に変な意味では受け取ってないので……」


「そう、なら良かった」


ユリウスは、少し安堵した表情を浮かべた。


「これからも、こうして気軽に話せる関係を、続けていきたいと思っている。それだけは、伝えておきたかった」


真面目すぎるくらいの誠実な言葉に、私は少し気恥ずかしくなりながらも、素直に頷いた。


「はい、私もそう思います」


「……ありがとう」


ユリウスが、ほっとしたように微笑んだ。


そのやり取りを、隣で見ていたセレナが、ぽつりと呟いた。


「殿下、本当に真面目だね」


「うん、本当に」


朝の教室に、いつもより少し穏やかな空気が流れていた。


その後、休み時間になると、教室の隅で、何人かの女子生徒が、こそこそと話している声が聞こえてきた。


「最近、ユリウス殿下、すごく素敵じゃない?」


「分かる。前は、ちょっと暗い印象だったけど、最近は、すごく堂々として見える」


「あの真面目な感じも、なんかいいよね」


「今度、思い切って話しかけてみようかな」


(あれ……殿下、人気出てきてる……?)


そんな話を耳にしながら、私はセレナと顔を見合わせた。


「セレナ、聞いた?」


「うん。最近、殿下のこと話す子、増えてる気がする」


確かに、思い返してみれば、以前のユリウスは、いつも控えめで、目立たないように振る舞っていた。


けれど、最近では、自信を持った発言や、堂々とした立ち振る舞いが増えている。


(あの「自信を持ってほしい」って伝えたこと、ちゃんと根付いてきてるんだ)


そう思うと、なんだか嬉しい気持ちが湧いてきた。


放課後、部室に向かう途中、女子生徒のグループが、ユリウスに何やら話しかけている場面に出くわした。


「殿下、今度の遠足、楽しみですね」


「ああ、そうだな。皆と一緒に過ごせるのを、楽しみにしている」


落ち着いた様子で答えるユリウスに、女子生徒たちは、頬を染めながら笑顔を見せていた。


「これ……完全に、人気者の対応じゃないですか」


私がそう呟くと、隣にいたゼノンが、にやにやしながら反応した。


「殿下、最近、めっちゃ人気上がっとるからな。前はあんなに気弱やったのに」


「自分でも、変化を感じている」


ユリウスが、少し気恥ずかしそうに、そう答えた。


「これも、君のおかげだ」


「私の……?」


「自信を持つようにと、言ってくれたから」


そう言って微笑むユリウスを見ながら、私は、改めて、これまでの積み重ねが、ちゃんと形になっていることを実感していた。


(これは……ある意味、計画通り、なのかも)


部室に向かう足取りが、いつもより少し軽くなっているのを感じながら、私はその日の出来事を、静かに噛みしめていた。

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