【20話】大凶、そして起こる不幸
ある日の放課後、図書館で見つけた古い本を持って、私は部室に向かった。
中身は、茶葉の形から運勢を読み取る、占いについての本だった。
「これ、面白そうなので、試してみましょうか」
部室にいる皆に提案すると、興味を持ってくれたようだった。
「お、面白そうやな。俺からやってみてや」
ゼノンが、興味津々にカップを差し出してきた。
本を片手に、茶葉の沈み方や形を確認しながら、私は判定を進めていく。
「えっと……この形は……大凶、ですね」
「大凶?」
「本によると何か不幸なことが起きる可能性が高い、と」
「うわ、それは嫌やな」
笑いながらも、ゼノンは特に気にしていない様子だった。
続いて、ユリウス、セレナ、エイデンの分も占ってみる。
「殿下も……大凶、ですね」
「私も?」
「あ、私も……大凶です」
「僕も、大凶でした……」
四人分の結果を確認して、私は思わず首をかしげた。
「あれ……全員大凶って、ちょっとおかしくないですか」
「確かに、それはちょっと、信憑性に欠けるな」
ユリウスも、苦笑いしながら言った。
「まあ、占いやし、そんなに気にせんでもええんちゃう?」
ゼノンが笑いながら言うと、皆も同意するように頷いた。
そう笑い合いながら、その日は解散することになった。
ところが、寮への帰り道、皆それぞれに、ちょっとした不運な出来事が起きた。
ゼノンは、街角で看板の下を通った瞬間、ちょうど落ちてきた箱が頭に直撃した。
「いてっ……! なんやこれ……」
ユリウスは、馬車に乗る直前、足元の小石に躧き、危うく転びそうになった。
「……危なかった」
エイデンは、寮の階段を上る途中、何もないところで足を滑らせ、見事に踏み外した。
「うわっ……! 痛いなぁ」
セレナは、部屋の鍵を何度も落としてしまい、なかなか開けることができなかった。
「あれ……? なんでこんなに、手が滑るんだろう……」
それぞれが、それぞれの場所で、小さな不運に見舞われていた。
翌日、部室に集まった皆は、昨日の出来事を報告し合いながら、顔を見合わせた。
「俺、看板の箱、頭に直撃したんやけど」
「私も、転びそうになった」
「僕も、階段で踏み外しました」
「私も、鍵が全然開かなくて」
「モブちゃんは?」
「いえ、私は特に何も……」
しばしの沈黙が、部室に流れた。
「……これ、もしかして」
「占い、当たってたんかな」
「えっと……」
私は、本をもう一度開きながら、複雑な表情を浮かべた。
「大凶って、何日も続くものなんでしょうか……」
「待って、それって、今日もまだ何かあるかもしれないってこと?」
セレナが、不安そうな顔でこちらを見た。
「本には、そこまで詳しく書いてなくて……」
「念のため、今日は部活、早めに切り上げて、まっすぐ帰った方がいいかもしれませんね」
エイデンが提案すると、皆も頷いた。
「それがいいかもな。今日は、何もせず大人しくしとこ」
そう笑い合いながら、その日は解散することになった。
ところが、寮への帰り道、皆それぞれに、また不運な出来事が起きた。
ゼノンは、街角を歩いていたところ、すれ違った女性に、いきなり頬を強く叩かれた。
「いてっ……! なんやお前、人違いやろ!」
「えっ……あなた、ジョルジュじゃないの? 私のこと、騙したくせに!」
「知らんがな!」
人違いだと判明したものの、頬の痛みだけは確かに残っていた。
ユリウスは、馬車に乗る直前、足元の小石に躧き、今度は転んで顔を打った。
「これが大凶か……」
セレナは、馬車から降りる際、服の裾を踏んでしまい、お気に入りの一着を、見事に破いてしまった。
「あ……! これ、すごく気に入ってたのに……!」
そして私は、寮への帰り道、突然空から落ちてきた、何かにぶつかって意識を失った。
「……っ」
気づいた時には、寮の医務室のベッドに寝かされていた。
「あ……モブちゃん、目覚めた!」
セレナが、心配そうな顔で覗き込んでいる。
「私……何があったんですか?」
「隕石が、落ちてきたみたいなの」
「隕石……!?」
驚いて起き上がろうとしたものの、特に体に異常は感じられなかった。
「お医者様が言うには、特に問題はないみたいです。ただの気絶だったみたいで」
(あ……当たったんじゃなくて、ただびっくりして気絶しただけなんだ)
翌日、部室に集まった皆は、それぞれの報告を始めた。
「俺、人違いでビンタされたんやけど」
「私は、お洋服を破いてしまいました……お気に入りだったのに……」
「私も、転んで顔を打った」
「エイデンさんは、何かありましたか?」
セレナがそう尋ねると、エイデンは少し考えるように答えた。
「雷に打たれたくらいで、特に何もなかったです」
「雷……!?」
「えっ、それ、大事件じゃないですか!」
「いえ、慣れてるので、大丈夫です」
平然と答えるエイデンに、皆が一斉に固まった。
「普段から大凶ってことか?」
「丈夫すぎませんか、それ……」
「小さいころからこういうことがよくあったので、そのせいかもです」
エイデンが、特に深刻でもない様子で答えた。
(え、この世界、雷に打たれても平気なんだ……魔法のある世界だから、こういうのも普通なのかな……)
そんなことを内心で思いながらも、口には出さずにおいた。
「モブリーヌは、人のこと言えんやろ。隕石に当たって……ただ気絶しただけで擦り傷すらないって、それも普通とちゃう気がするけどな」
「丈夫とか、そういう次元の話じゃないな」
ユリウスにも呆れたようにツッコまれて、私は何も言えず、苦笑いするしかなかった。
しばしの沈黙の後、皆が一斉に、私の方を見た。
「もう、占いは、しばらく封印しましょう」
「……それがいいと思う」
「うん、絶対そうした方がいい」
「異論なしです」
その日を境に、貴茶研では、占いという言葉が、しばらく禁句になった。




