【19話】2人だけの放課後
放課後、部室に向かう途中、ゼノンに声をかけられた。
「モブリーヌ、今日は俺ら三人で、ゲーセン行ってくるわ」
「三人……?」
「殿下とエイデンも一緒や。最近、殿下もすっかりハマってもうて」
「そうなんですね……楽しんできてください」
少し離れた場所で、ユリウスとエイデンが、何やら楽しそうに話し込んでいる様子が見えた。
「ほな、行ってくるわ。お前らは、今日はゆっくりしとけ」
ゼノンがそう言って、ユリウスとエイデンを連れて、賑やかに去っていった。
部室には、私とセレナの二人だけが残された。
「なんだか、今日は静かだね」
セレナが、いつものソファに腰掛けながら、くすりと笑った。
「うん、たまにはこういう日もいいかも」
お茶を用意して、二人でゆったりとした時間を過ごす。
窓から差し込む午後の光が、部室をやわらかく照らしていた。
「ねえ、モブちゃん」
セレナが、ふと、何かを思いついたように口を開いた。
「卒業した後、何するか、考えたことある?」
「え……まだ入学したばかりなのに?」
「うん、分かってるんだけど。なんとなく、気になって」
少し気恥ずかしそうに笑うセレナを見て、私も自然と考え込んでしまった。
(卒業後、か……)
ふと、ゲームのエンディングのことを思い出す。
攻略対象ごとに、それぞれ違った卒業後の未来が描かれていたはずだった。
(王妃になるルートとか、冒険者になるルートとか……色々あったな)
そこまで考えたところで、もう一つの記憶が、うっすらと浮かんできた。
(……確か、誰とも恋愛フラグが立たなかった場合のエンディングも、あったはずだよね)
「うーん……正直、まだあまり考えてないかも」
「私もなんだ。でも、最近、こういう時間が楽しすぎて、いつか終わるんだなって思ったら、ちょっと寂しくなって」
セレナの言葉に、胸の奥が、じんわりと温かくなる。
(……あの友情エンド、確か、ヒロインが、女友達と一緒に、孤児院とか福祉活動を始めるんだったような)
(……あれ、それって、今の私たちの関係、そのまま当てはまるんじゃ……?)
「セレナは、何かやりたいこと、あるの?」
「うーん……できたら、誰かの役に立てるような仕事がいいなって、思ってる。お父様の領地のお手伝いとか」
「セレナらしいね」
(本当に、優しいセレナらしい答えだ……あの友情エンドの内容、まんま当てはまってる気がする)
「モブちゃんは?」
「私は……正直、まだ全然分からない。でも、できたら、皆と離れずにいたいな、とは思う」
「私も、モブちゃんとずっと一緒にいられたらいいな」
「……あ、うん」
(あれ、ちょっと、私の言ったことと、微妙にズレてる気がする……)
「皆と」と言ったつもりだったのに、セレナの返事は、なぜか自分だけに向けられたものになっていた。
一瞬、小さな違和感が頭をよぎったものの、いつものセレナらしい言葉だと思えば、特に深く気にする必要もない気がした。
(まあ、いいか。セレナらしいし)
「えへへ、それ、私も同じこと思ってた」
二人で笑い合いながら、まだ遠い未来の話に、しばし思いを巡らせる。
「あ、そういえば」
セレナが、ふと思い出したように声を上げた。
「お父様とお母様が、また来てほしいって言ってたよ。あれから、すっかりモブちゃんのこと気に入っちゃったみたいで」
「え、本当に?」
「うん。今度、また休みの時に、一緒に行こうって思ってたんだけど」
「ぜひ、お伺いしたいです」
「えへへ、よかった」
セレナが、嬉しそうに笑う。
「でも、こうして二人だけで部室にいるのも、なんか不思議な感じだね」
「うん、ちょっと変な感じ」
「いつも、皆で賑やかにしてるから」
「そうだね。でも、たまにはこういう時間も、悪くないかも」
「うん」
「まあ、まだ時間あるし。ゆっくり考えればいいよね」
「うん、そうだね」
放課後の静かな時間が、ゆったりと流れていった。




