【18話】まさかのゲームセンター
ある日の放課後、貴茶研の皆で街に出かけることになった。
普段は学園の中で過ごすことが多いので、こうして街を歩くのは久しぶりだ。
「わあ、こんなに賑やかな通り、初めて来た気がする」
セレナが、目を輝かせながら周りを見渡している。
「殿下、外に出る機会、あまりないんですか?」
「ああ……正直、こうして気軽に歩き回るのは、新鮮だ」
賑やかな店が並ぶ通りを歩いていると、ふと、見覚えのある建物が視界に入った。
派手な看板に、点滅する飾り。
明らかに、周囲の中世風の街並みとは異質な雰囲気を纏った建物だった。
「あれ、何のお店なんだろう」
セレナが、不思議そうに指を差す。
頭の中で、ゲームの記憶が急速に蘇ってくる。
『アーレディ』のタイトル画面で、ある決まった順番でボタンを押すと、「特別な施設」が解禁されるというファンサービス的な裏技要素があった。
当時、攻略本を見て、面白半分で遊んだ記憶がある。
「モブちゃん、知ってるの?」
「えっと……たぶん、ゲームセンター、だと思います」
「ゲームセンター?」
「いろいろ遊べる場所、みたいな感じです」
内心で激しく突っ込みながらも、表向きは平静を保つ。
「面白そうですね、入ってみませんか?」
セレナの提案に、皆が頷いた。
「俺、こういう場所初めてやから、楽しみやな」
ゼノンが、興味津々な様子で先に進んでいく。
不思議な気持ちを抱えながら、私は皆と一緒に、その異質な建物へと足を踏み入れた。
中に入ると、薄暗い照明の中、見たことのない機械がずらりと並んでいる。
「これは……何をする場所なんですか?」
セレナが尋ねてくる。
「ゲームを遊ぶための機械が、こうやって並んでるんです」
奥に進むと、ひときわ目立つ二台の機械があった。
一つは横スクロール型のシューティングゲーム、もう一つは対戦型の格闘ゲームだ。
(あった……! これだ……!)
当時の記憶が、急速に蘇ってくる。
前世でやり込んだ『アーレディ』の中で、隠し要素として解禁されたこの二つのゲーム。
当時はかなりの高難易度で、攻略を何度も見ながら、ようやくクリアした記憶がある。
ゲームの中の設定では、クリアするとご褒美としてキャラクターの特別イラストが見られる、という仕組みだった。
(さすがに、こっちの世界でイラストが出てくるわけじゃないだろうけど)
「これ、私もやってみたいです」
セレナが、興味深そうにクレーンゲームに近づく。
「皆さん、こういう場所、入ったことありますか?」
「いや、初めてだな」
ユリウスが、少し緊張した様子で周りを見回している。
「俺も初めてやな。なんか、面白そうやけど」
ゼノンが、興味津々に私の画面を覗き込みながら言う。
「モブリーヌは、入ったことあるの?」
「私も、入ったことはないですけど……」
「え、初めてなのに、なんでそんなに詳しいんや? さっきから、ゲームの説明とか、すらすら言うてたやん」
「えっと……それは、本で読んだことがあったので」
(攻略本でこの施設の存在を知ったわけだし……嘘は言ってないよね、うん)
心の中でそっと自分に言い聞かせながら、表向きは平静を装う。
「本にも、こういうこと書いてあるんやな。物知りやな、モブリーヌ」
ゼノンは、特に深く疑うこともなく、感心したように頷いていた。
「やってみますね」
私はそう言って、シューティングゲームのレバーを握った。
画面が始まると、次々と現れる敵を、迷いなく撃ち落としていく。
難易度の高さは覚えていた通りで、画面のスピードも目まぐるしい。
それでも、かつて何十回と繰り返した記憶のおかげで、動きにまったく迷いがなかった。
「えっ……すごい」
セレナが、画面を見ながら声を上げる。
「モブリーヌ、めちゃ上手いやん……!」
ゼノンも、驚いた様子で画面に釘付けになっていた。
最終ステージを撃破し、クリア画面が表示される。
「やった、クリアできました」
(イラストは出なかったけど……まあ、当然か。それより、ノーミスで抜けられたこと、ちゃんと喜ぼう)
「これは……驚いた」
周りにいた他の客たちも、いつの間にか集まって、こちらを見ていた。
「あの子、すごいな……」
「ノーミスで抜けてたぞ」
「やべえ……」
驚きの声が、あちこちから漏れてくる。
続けて、格闘ゲームの方にも挑戦してみる。
こちらも当時、かなり練習を重ねたゲームだった。
「いきます」
対戦相手のキャラクターを操りながら、流れるようにコンボを繋いでいく。
これも、繰り返した記憶のおかげで、手が自然に動いた。
「圧倒的やん……」
ゼノンが、呆然とした様子で呟いた。
最終的に、その場にいた誰も私に勝てる相手はおらず、いつの間にか、ゲームセンターの中で小さな伝説のような扱いになっていた。
「あの子、すごい腕前だな」
「伝説になるぞ、これは」
周りの視線を集めながら、私は少し気恥ずかしくなっていた。
(まさか、ゲームの腕前で一目置かれることになるとは……)
その後は、皆でクレーンゲームに挑戦したり、写真を撮る機械で記念撮影をしたりと、和やかな時間を過ごした。
「これ、欲しいものが取れない……」
セレナが、クレーンゲームの前で苦戦していた。
「私が、やってみますね」
「またモブリーヌがすごいことになるんちゃう?」
ゼノンが笑いながら言うのを聞いて、私は少し照れながら、クレーンの操作レバーに手をかけた。
賑やかな時間が、夕方まで続いていった。
その後は、皆でクレーンゲームに挑戦したり、写真を撮る機械で記念撮影をしたりと、和やかな時間を過ごした。
「これ、欲しいものが取れない……」
セレナが、クレーンゲームの前で苦戦していた。
「私が、やってみますね」
「またモブリーヌがすごいことになるんちゃう?」
ゼノンが笑いながら言うのを聞いて、私は少し照れながら、クレーンの操作レバーに手をかけた。
何度か調整を重ね、ようやくアームが目当てのぬいぐるみを捉える。
ゆっくりと持ち上がり、無事に取り出し口へと落ちていった。
「やった……! 取れました」
「わあ、モブちゃん、すごい!」
セレナが、嬉しそうにぬいぐるみを受け取った。
小さな熊のぬいぐるみで、優しい色合いの毛並みをしている。
「これ、本当にありがとう。すごく可愛い」
「気に入ってもらえてよかったです」
賑やかな時間が、夕方まで続いていった。
寮に戻り、自室に入ると、セレナはずっとそのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
「セレナ、まだ持ってるんだね」
「うん。すごく気に入っちゃって」
ベッドに腰掛けながら、セレナは、ぬいぐるみの頭をそっと撫でている。
表情には、今日一日の楽しさが、まだ残っているようだった。
「モブちゃんが取ってくれたものだから、なんだか特別な気がするんだ」
「そんなに大したことじゃないと思うけど……でも、喜んでもらえて嬉しい」
セレナは、ぬいぐるみを胸の前にぎゅっと抱きしめながら、小さく笑った。
「今日も、楽しかったね」
「うん、楽しかった」
二人で、その日の出来事を振り返りながら、夜が静かに更けていった。
セレナの腕の中で、小さな熊のぬいぐるみが、優しく見守るように佇んでいた。




