【2話】まさかの同室、そして様子のおかしい攻略対象たち
入学式を終え、寮の割り当て表を見た瞬間、私は思わず二度見した。
「モブリーヌ・ヴァイス/セレナ・ラファイエット」
同じ部屋の欄に、自分の名前と並んで、ヒロインの名前が記されている。
(え……え!? 同室!? いやいやいや、待って、寮に相部屋があるなんて知らなかった……!)
『アーレディ』をあれだけやり込んだはずなのに、寮生活の描写なんてゲーム本編にはほとんどなかった。
背景設定として「寮がある」とは知っていたけれど、誰がどこに住んでいるかなんて、攻略には関係のない情報だ。
すっかり頭から抜けていた。
荷物を抱えて指定の部屋に向かうと、すでに先に来ていたらしい少女が、ベッドの上を整えていた。
「あ、あなたが……モブリーヌさん、ですか?」
セレナ・ラファイエット。
画面の向こうで何度も見つめてきた顔が、こちらを見て小さく微笑んでいる。
「は、はい! モブリーヌ・ヴァイスと申します。これからよろしくお願いいたします」
(うわあああ、本物のセレナだ……! 喋った……! しかも普通に優しい……!)
内心の興奮を抑えながら、なんとか丁寧な口調を保つ。
セレナは特に気負った様子もなく、てきぱきと荷物を片付けながら世間話を振ってきた。
聖人らしい柔らかな空気感は、ゲームのままだ。
(よかった……セレナはちゃんとセレナだ……)
少しだけ安心しながら荷解きを終え、私は早速学園内の見回りに出ることにした。
目的はもちろん、攻略対象たちの様子を確認すること。
まず向かったのは王立図書館の前。
代わりに見つけたのは、中庭のベンチで縮こまっている、見覚えのある人物だった。
「……ユリウス殿下?」
恐る恐る声をかけると、王子は驚いたように顔を上げ、それからすぐに視線を逸らした。
「あ、ああ……何か用か……?」
(声、小さい……! 取り巻きもいない……! ベンチの隅っこに座る王子なんて、見たことない……!)
何か言葉を続けるべきか迷っているうちに、ユリウスはそそくさとその場を離れていった。
(……まあ、緊張してるだけかもしれないし。初日だし)
そう自分に言い聞かせ、次に向かった魔法実技訓練場では、ゼノンを発見。
「おう、お前も新入生か! 名前なんやった?」
(……関西弁? いや、これ絶対関西弁だよね? 無口設定どこ行った!?)
完全に予想と違う第一声に固まる私をよそに、ゼノンはからからと笑いながら、知らない他の生徒にまで気軽に話しかけている。
訓練場を後にしようとしたところで、エイデンを見つけた。
荷物を抱えて歩いていたかと思うと、足元の段差に引っかかり、見事に転倒。
「うわっ……!」
「だ、大丈夫ですか!?」
駆け寄って手を貸すと、エイデンは申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すみません……いつもこうなんです……」
(エイデンって、ゲームではセレナの専属執事だったのに……なんで一人でこんなところにいるの? いつもセレナのそばにいるはずじゃ……)
頭の中で、ゲームでの記憶と、目の前の光景がどうしても噛み合わない。
その後もカイルを見かけたが、誰かに何かを頼まれて困ったように立ち尽くしているだけで、優等生らしい雰囲気はどこにもなかった。
一通り見て回った後、私は寮の自室に戻った。
セレナはまだ部屋で本を読んでいる。
気になっていたことを、思い切って聞いてみることにした。
「セレナさんって、幼馴染とか……いらっしゃいますか? あと、専属の執事の方とか」
セレナは本から顔を上げ、少し不思議そうに首をかしげた。
「幼馴染……? いえ、特には……。執事も、うちにはいませんよ?」
「え……そう、なんですか……」
(幼馴染じゃない……? 執事もいない……? じゃあカイルとエイデンは、一体……)
予想していた答えと違いすぎて、思わず黙り込んでしまう。
セレナはきょとんとした顔のまま、再び本に視線を戻した。
部屋に静かな時間が流れる中、私はベッドに腰を下ろし、深く息をついた。
(……おかしい。みんな、おかしい)
気弱な王子。
お喋りな天才魔導士。
ドジなエイデン。
幼馴染でも執事でもない、二人の存在。
(これ、全部繋がってる気がする……でも、まだ何が起きてるのか分からない)
頭の中で情報を整理しようとするが、断片ばかりでうまく繋がらない。
一日目にしては、あまりに多くの違和感を拾ってしまった気がする。
(とりあえず……もう少し、様子を見てみよう)
何かを決めつけるにはまだ早い。
明日からの学園生活で、もっと近くで彼らのことを見ていけば、きっと何かが分かるはずだ。
そんな気持ちを抱えたまま、私はその夜、なかなか寝付けずにいた。




