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モブだったはずなのに~気づいたら、誰よりも大事にされていた~  作者:


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15/30

【15話】優秀な委員長

中間テストの結果が掲示されたのは、肝試しの夜から数日後のことだった。


「皆さん、入学試験の時より順位上がりましたね!」

部室に集まったところで、セレナが嬉しそうに声を上げた。皆で順位を見せ合うと、確かに以前よりも全体的に良い結果が出ていた。


「私、前回より十位以上上がりました」


「俺も、まあ悪くない結果やったわ」


「僕も、なんとか踏ん張れました」


「ああ、私もだ」


それぞれの結果に、皆が満足げな表情を浮かべている。


以前、毎日違う誰かと一対一で勉強した日々のことを思い出す。


あの時は空回りばかりだと思っていたけれど、結果としてはしっかり実を結んでいたらしい。


「モブリーヌのおかげやな。教え方、分かりやすかったし」


ゼノンがそう言うと、皆も頷いた。


「本当に助かりました」


「いえ、皆さんが頑張ったからですよ」


そんな会話をしているうちに、廊下の方で何人かの生徒が話している声が聞こえてきた。


「貴茶研って、なんかすごいらしいよ」


「あそこの部員、皆成績上がってるんだって」


「優秀な生徒しかいないんじゃない?」


少し、気恥ずかしさも感じながら皆教室へ戻った。


放課後、いつものように部室に集まって話をしていると、部室の扉が、控えめにノックされた。


「失礼します」


姿を現したのは、ジークだった。


眼鏡の奥の目は、いつも通り真剣な様子をしている。


手には、小さな箱を抱えていた。


「ジークさん……? どうしました?」


「部活が、優秀な生徒の集まりだと聞きまして。委員長として、見学させていただいてもよろしいですか。それと、これは手土産です。突然の訪問なので、礎儀として」


「わざわざありがとうございます」


箱を受け取りながら、私は内心で感心していた。


ジークは部室の中を見回し、それから皆の顔を確認するように視線を巡らせた。


「テストの結果が良かったというのは、本当ですか」


「ええ、皆さん頑張りましたよ」


「特に、モブリーヌさんの指導のおかげだと聞きました」


「そんな大したことは……」


「謙遜は不要です。結果が出ているという事実が、何よりの証拠です」


そう言って、ジークはまっすぐにこちらを見つめてきた。


教室で見ていた時と変わらない、生真面目な眼差しだった。


そこへ、セレナが興味津々に近づいてきた。


「ジークさん、せっかく来てくれたので、お茶どうぞ」


カップを差し出しながら、セレナが顔を覗き込む。


距離が近づいた瞬間、ジークの表情が一気に固まった。


「……あ、いえ、その……ありがとうございます」


声が小さくなり、視線も明らかに落ち着かない様子になる。


頬が、わずかに赤くなっていた。


私も興味を持って一歩近づくと、ジークはさらに表情を硬くした。


「ジークさん、お茶請けもありますよ。よかったら──」


「あ、いえ、結構です……」


目を合わせないまま、ぎこちなく答える。


教室で見ていた、淀みなく堂々とした委員長の姿とは、まったく違う様子だった。


「ジークさん? 大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です……すみません、少し、緊張してしまって」


ゼノンが、にやにやしながら口を挟んだ。


「お前、女子に弱いんやな。委員会では、あんなに堂々としてるのに」


「そ、そういうわけでは……ただ、慣れていない、というだけです」


耳まで赤くしながら、ジークは目を逸らした。


その様子を見ながら、私はふと、悪戯心が湧いてきてしまった。


「ジークさん、大丈夫ですか? 顔色、まだ赤いですけど」


そう言いながら、少しだけ顔を近づけてみる。


「っ……だ、大丈夫です……!」


ジークが、ぱっと後ずさりしながら答えた。


その反応の早さに、思わず笑いがこぼれそうになる。


「いひひ、モブリーヌ、ちょっと意地悪してるやろ」


ゼノンが、面白そうに笑いながら言った。


「モブちゃんの、こんな一面、初めて見た。なんだか嬉しいな」


セレナが、目を輝かせながら、楽しそうにこちらを見た。


「い、いえ、そんなつもりは……」


「ジークさん、倒れちゃいますよ!やめてあげてください!」


エイデンが、本気で心配そうな顔で割り込んできた。


「す、すみません、ジークさん。ちょっとからかうような感じになってしまって……」


「いえ……それは、大丈夫ですが……」


ジークは、なおも視線を逸らしたまま答えた。


二人にたしなめられて、私は素直に反省することにした。


「ジークさん、ごめんなさい。意地悪するつもりじゃなかったんです」


「……いえ、大丈夫です。むしろ、自分の方が、過剰に反応してしまって、申し訳ないです」


ジークは、生真面目な様子でそう言うと、小さく頭を下げた。


その様子を見ながら、私は改めて、彼への興味が深まっていくのを感じていた。


「皆さん、お茶のおかわり、お持ちしますね」


エイデンが、いつものように茶器を抱えて立ち上がった。


慎重に、慎重に足を進めていたものの、案の定、何もない場所で見事に足を滑らせた。


「うわっ……!」


抱えていたティーポットが大きく傾き、注がれていたお茶が、ちょうどジークの方へ勢いよく飛んでいった。


「うわっ!」


ジークの服に、お茶がべったりとかかってしまう。


「す、すみません……! 大丈夫ですか!」


エイデンが慌てて頭を下げる。


「い、いえ、大丈夫です……」


ジークは動揺しながらも、なんとか言葉を返していた。


「ジークさん、ハンカチお借りします、すぐに拭きますね」


私は近くにあったハンカチを手に取り、ジークの腕にかかったお茶を拭こうと、そっと手を伸ばした。


「あ──」


布越しに、軽く腕に触れた瞬間だった。ジークの顔が、見たことのないくらい一気に真っ赤に染まった。


「ジークさん?」


「……っ」


何か言おうとしたようだったが、言葉にならないまま、その場にすとんと座り込んでしまった。


「ジークさん……? え、大丈夫ですか!?」


慌てて駆け寄ると、ジークは目を回したまま、ぴくりとも動かない。


完全に意識を失っているようだった。


「うわ、倒れてもうたやん!」


ゼノンが驚いた声を上げる。


セレナも、心配そうにジークの顔を覗き込んだ。


「お、お茶のせいで、火傷でもしたんでしょうか……!?」


「いえ、お茶はそんなに熱くなかったはずです……」


「エイデンさん、医務室に連絡してもらえますか」


「は、はい! すぐに──」


「いや、それは大丈夫やと思うで」


ゼノンが、慌てる二人を制するように手を上げた。


「俺、ジークと同じクラスやから知ってんねんけど、こいつ単純に女子に弱いだけや。さっきも見たやろ。前にも、班分けで女子と組んだだけで、こんな感じで固まっとったし」


「え……そうなんですか?」


「せやで。多分、お茶がかかったことより、モブリーヌが触れたことの方が、効いたんちゃうかな」


ゼノンがからからと笑いながら言うのを聞いて、私は思わず固まった。


しばらくすると、ジークはゆっくりと目を覚ました。状況を理解するのに少し時間がかかったようだったが、すぐに恥ずかしそうな表情に変わった。


「す、すみません……ご迷惑をおかけしました」


「いえ、お気になさらず。お茶、お洗濯した方がいいですよね」


「あ、はい……ありがとうございます」


そう言いながらも、ジークは私と目を合わせないようにしているようだった。


「お前、本当に分かりやすいよな。同学年やのに、なんでそんな緊張するんや」


ゼノンがにやにやしながらそう言うと、ジークはさらに頬を赤くした。


「そ、それは……慣れていないだけです」


賑やかな部室の中、新しい接点がまた一つ増えたことを感じながら、私はその日の片付けに取り掛かった。


片付けが終わり、皆が解散した後、私は一人でその日のことを振り返っていた。


記憶を辿る。


ゲームの中のジークは、口調も態度もぶっきらぼうで、初対面の相手には誰であろうと容赦のない物言いをするのが特徴だった。


男友達だろうと、ヒロインだろうと、態度を変えることはない。


ただし、親密度が上がるにつれて、少しずつ優しさが見えてくる、というのが、彼の攻略における醍醐味だったはずだ。


教室では真面目で堂々としているのに、女性が近づいた瞬間、別人のように動揺する。


それは、ゲームでの「最初は誰にも厳しい」という設定とは、まったく違う方向性のギャップだった。

ノートを開き、ジークの項目に新しい一行を書き加える。


「ジーク:ゲームでは性別関係なく当たりが強い、親密度で軟化。この世界では女性にのみ極端に弱い。男性には普通」


書き終えて、ふと笑ってしまった。


今後、ジークとどう接していけばいいのか、新しい課題がまた一つ増えたことを感じながら、私はノートを閉じた。

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