【13話】お茶の時間、話題は私?
放課後、部室に集まったところで、セレナが嬉しそうに紙袋を取り出した。
「これ、うちから持ってきたお茶なんだ。皆にも飲んでもらいたくて」
「お、ええやん。セレナのとこの茶葉?」
「すごく良い香りですね」
皆が興味を示してくれたのを見て、私は内心でチャンスだと思った。
(これは……話題の中心を、私じゃなくてセレナに持っていける流れかも)
「セレナさんのご実家、すごく素敵なお屋敷でしたよ。庭園もきちんと手入れされていて」
「そうなんですね、行ってみたいです」
「なあ、今度皆で遊びに行こか?」
(よし、いい感じ……! セレナの話題で進んでる……!)
ところが、しばらく話が続いたところで、ふとゼノンがこちらを向いた。
「そういや、モブリーヌも一緒に泊まったんやろ? どんな感じやった?」
「え……あ、はい、すごく良いお宅でした」
「お前、最近セレナの家族とも仲良いんやな」
「それは……たまたま、というか」
「殿下にも自信を持つように言ったり、ゼノンにも色々言ったり。お前、本当に皆の世話好きだよな」
エイデンがそう言うと、ユリウスも頷いた。
「確かに。彼女がいると、いつも何か新しい話が増える」
(あれ……? お茶の話から、結局また私の話になってる……!)
「モブちゃんって、本当にすごいよね。私のお家のことまで、こんなに気にかけてくれて」
セレナがにこやかにそう言うと、皆も一斉に頷いた。
「ほんまやな。気配り上手やん」
「私も、いつも助けられています」
(これじゃ、お茶の話題で逸らそうとしたのに、結局全部私の話に戻ってきてる……!)
内心で頭を抱えながらも、表面上はなんとか笑顔を保つ。
「い、いえ、そんなことは……お茶、せっかくセレナさんが持ってきてくれたので、いただきましょうか」
なんとか話を戻そうとお茶を配る作業に移ったものの、皆は引き続き、和やかな調子でこちらに話題を振ってきた。
「モブリーヌの分、ちゃんと一番美味しいところ入れたから」
「私も、モブちゃんに一番楽しんでもらいたいな」
(結局、お茶を飲む段階になっても、私が中心になってる……!)
その日の部活が終わり、寮の部屋に戻った後、私はベッドに倒れ込みながら考え込んでいた。
(何か話題を振っても、結局私の話に戻ってきちゃうの、なんなんだろう……)
これでは、攻略対象たちとセレナの関係を深めるどころではない。
何か違うアプローチを考えなければ、と思いながら、私はその日も悩み続けることになった。
そんなことを考えていると、セレナが着替えを済ませてベッドの隣に座ってきた。
「今日も楽しかったね」
「うん、そうだね」
セレナは少し考えるような顔をして、それから珍しく、複雑な表情を浮かべた。
喜びと、少しの寂しさが混ざったような顔つきだった。
「最近、本当に毎日楽しいんだ。モブちゃんが、皆と話す機会をいっぱい作ってくれるから」
「それは、よかった」
「でも……最近、モブちゃんと二人で話す時間、ちょっと減った気がして」
「え……」
「殿下とか、ゼノンさんとか、皆と話すのも楽しいんだけどね。やっぱり、一番楽しいのは、モブちゃんと話す時間なんだ」
セレナはそう言って、少し恥ずかしそうに笑った。
「困らせるつもりはないんだけど……ちょっとだけ、寂しいなって」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと締まる。
(これは……完全に裏目に出てる。良かれと思ってやってたことが、セレナを寂しくさせてたなんて)
「ごめん、ね。そんな気持ちにさせるつもりじゃなかった」
「ううん、モブちゃんが悪いわけじゃないよ。皆と仲良くなれるように頑張ってくれてるの、ちゃんと分かってるから」
セレナは小さく笑って、それ以上は深く追及しなかった。
けれど、その表情の動きの豊かさが、いつもよりずっと鮮明に伝わってきた気がした。
(セレナの感情、本当に色々な顔を見せるようになったんだな……でも、その分、私のやってることが、ちゃんと伝わっちゃうんだ)
灯りを消した後も、私はしばらく、セレナの言葉を思い返していた。
(私が誰かと誰かを繋げようとする行動、セレナにとっては、ただの「私との時間が減る」ことになっちゃうのかもしれない)
良かれと思ってやっていたことの裏側に、こんな気持ちが隠れていたとは思わなかった。
今後の方針を、もう一度考え直す必要がありそうだった。




