【12話】帰り道、2人で
翌朝、目を覚ますと、隣にはまだ眠っているセレナの顔があった。
穏やかな寝顔を見ながら、昨日聞いた話を思い出す。
そっとベッドから出て、身支度を整える。
物音に気づいたのか、セレナも目を擦りながら起き上がった。
「おはよう、モブちゃん」
「おはよう」
慣れない言葉の崩し方に、まだ少しぎこちなさが残る。
それでもセレナは嬉しそうに微笑んだ。
「ちゃんと言えてる。嬉しいな」
朝食の席では、両親が「またいつでも来てね」と笑顔で送り出してくれた。
屋敷の前で馬車を待つ間、セレナの母がそっと耳元で囁いた。
「これからも、娘のこと、よろしくね」
「はい、もちろんです」
馬車に乗り込み、学園へ向かう道のり。
窓の外には、見慣れた街並みが流れていく。
「昨日は、本当にありがとう」
セレナがぽつりと言った。
「お父様もお母様も、すごく喜んでた。私も、すごく楽しかった」
「私も楽しかったよ。ご両親、本当に優しい方たちだった」
しばらく沈黙が続いた後、セレナが少し考え込むような顔をした。
「私、こうやって誰かと泊まったり、一緒に過ごしたりするの、初めてだったんだ」
「うん、知ってる……ご両親から、少し聞いた」
セレナは少し驚いた様子を見せたが、それ以上は気にせず、不安そうな顔でこちらを見つめてきた。
「ねえ、モブちゃん。昨日、本当に楽しかった……?」
「うん、もちろん。すごく楽しかったよ」
「よかった……お父様もお母様も初めてだったから、なんだか色々勝手にやりすぎちゃったかなって、ちょっと心配で」
そう言うセレナの表情は、いつもと変わらない、柔らかい笑顔だった。
普段の優しい笑顔、控えめな振る舞い。
傍から見ていたら、何も変わったところはないように思える。
けれど、その内側では、初めての友達付き合いに戸惑いながら、不安を抱えながら、それでも一生懸命距離を縮めようとしていた。
「全然、勝手にやりすぎてなんかないよ。むしろ、すごく嬉しかった」
「そう、なら良かった」
セレナがほっとしたように笑ったところで、私はせっかくの機会だと思い、少し探るように尋ねてみた。
「ねえ、セレナ。部活の皆って、セレナにとってどんな存在? 殿下とか、ゼノンさんとか」
「え……?」
セレナは一瞬きょとんとした顔をして、それから視線をすっと逸らした。
「皆、いい人たちだよね。優しいし、好きだよ。……でも」
「でも?」
「モブちゃんは、ちょっと特別な感じがするんだ」
「特別、って……」
「うーん、説明が難しいんだけど……あ、見て、外の景色、綺麗じゃない?」
「セレナ、また話逸らした?」
「逸らしてないよ。ほら、本当に綺麗だから」
明らかに話題を変えようとする態度に、私は思わず苦笑してしまった。
「今は、他の人の話はしたくないかな。今日は、モブちゃんとの話で、いっぱいいっぱいだから」
そう言われると、これ以上追及するのも野暮な気がして、私は素直に頷くことにした。
「分かった、また今度聞かせて」
「うん、また今度ね」
セレナはほっとしたように、いつも通りの調子で次の話題を振ってきた。
「今日も、いつものお茶の時間、楽しみだね。あ、そうだ、うちから美味しいお茶、持ってきたんだ。皆にも飲んでもらいたくて」
「それは楽しみだね。きっと皆も喜ぶよ」
寮に着くと、二人で部屋に荷物を置き、いつもと同じように朝の準備を始める。
表面上は、何も変わらない日常がまた始まっていく。




