↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブだったはずなのに~気づいたら、誰よりも大事にされていた~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/30

【11話】セレナの家へ

ある日の放課後、部室でお茶を飲んでいると、セレナが少し改まった様子で切り出した。


「今度の休み、よかったら私の家に来ない? お父様とお母様が、ぜひ会いたいって言ってて」


「え……ご両親に、ですか?」


「うん。実は、最近の手紙で、モブちゃんのことをたくさん書いてたの。すごく良い友達ができたって」


驚きながらも、断る理由は見つからず、私は頷くことにした。


「ぜひ、お伺いします」


「よかった! お父様もお母様も、きっと喜ぶと思う」


休日、ラファイエット家の屋敷を訪れると、想像以上に立派な造りに圧倒された。


名門貴族というだけあって、庭園も建物も、隅々まで手が入れられている。


「いらっしゃい、あなたがモブリーヌさんね」


出迎えてくれたのは、優しい笑顔を浮かべた女性──セレナの母だった。隣には、穏やかな雰囲気の父親も立っている。


「娘の手紙で、何度もお名前を見ていたのよ。会えて嬉しいわ」


「は、はじめまして。モブリーヌ・ヴァイスと申します」


「セレナがこんなに楽しそうに誰かのことを話すのは、初めてなんだ」


父親がそう言うと、セレナは少し恥ずかしそうに頬を染めた。


「お父様、そういうこと、言わないで」


「いや、本当のことだから」


セレナが少し席を外して庭を案内する準備をしている間、両親はふと、少し声を落として話し始めた。


「実は……セレナは、これまで友達と呼べる相手が、ほとんどいなかったんです」


「そう、なんですか……」


「優しい子なんですが、自分から踏み込むのが苦手で。誰かに嫌われたくない、傷つけたくないという気持ちが強すぎて、結局深く関わる前に距離を置いてしまうことが多くて」


母親も、心配そうな表情を浮かべながら続けた。


「あの子が、誰かのことをこんなに楽しそうに話すのは、本当に初めてなんです。手紙を読んで、私たちも嬉しくて」


その言葉に、胸の奥がきゅっと締まる。


人と深く関わった経験がないからこそ、近づき方も、適切な間合いも、まだ手探りなのだろう。


今までの距離の近さも、悪意や特別な感情からではなく、単純に慣れていないだけなのかもしれない、と思えた。


「モブリーヌさんには、本当に感謝しているんです。あの子に、こんな顔をさせてくれて」


「いえ……私の方こそ、セレナさんと過ごす時間、すごく楽しいので」


そう答えながら、私は密かに決意を固めていた。


ちょうどそこへ、セレナが戻ってきた。


「お待たせ! 庭、案内するね」


「ありがとうございます。楽しみです」


何も知らないセレナの無邪気な笑顔を見ながら、私はその日聞いた話を、そっと胸の中に留めておくことにした。


そんな会話をしているうちに、外がすっかり暗くなっていることに気づいた。


「あら、もうこんな時間。モブリーヌさん、今日はもう泊まっていきなさいな。馬車で帰すのも、この時間だと心配だから」


「え……でも、ご迷惑では……」


「迷惑なんて、とんでもない。客室はいくつもあるし、ぜひゆっくりしていって」


セレナの母にそう言われ、セレナも嬉しそうに隣で頷いている。


「そうしようよ、モブちゃん。お泊りなんて初めてだから、楽しみ」


断る理由も見つからず、急遽お泊りすることになった。


夕食を終え、客室に案内される前に、セレナが自分の部屋に誘ってくれた。


広々とした部屋には、小さい頃から使っているらしいぬいぐるみや、装飾品が並んでいる。


「ここが私の部屋。あまり人を呼んだことがないから、ちょっと緊張する」


「素敵なお部屋ですね」


ベッドの端に並んで座り、たわいない話を続ける。


先程聞いた話のことを思い出しながら、私はセレナの何気ない一言一言を、いつもより少し丁寧に受け止めていた。


話していくうちに、セレナがふと、少し寂しそうな表情を浮かべた。


「モブちゃん、まだ丁寧な言葉遣いなんだね」


「え……?」


「私はもう、すっかり気崩した話し方になっちゃったのに。モブちゃんだけ、まだちょっと距離があるみたいで、寂しいなって」


その指摘に、私は思わず言葉を失った。


(さっき、ご両親から聞いた話を思い出すと……これも、距離感に不慣れなだけなんだろうな)


「す、すみません……別に、距離を取ってるつもりはなくて……」


「じゃあ、もっと砕けた喋り方にしてみてくれない? 私たち、もう十分仲良しだと思うから」


セレナの真剣な眼差しに、少し戸惑いながらも頷いた。


「……分かった。これから、頑張ってみる」


「うん! それでいいよ」


ぱっと笑顔になったセレナを見て、私は思わず見惚れてしまった。


先程までの少し寂しそうな顔から、嬉しそうな顔、安心したような顔──表情がころころと変わるたびに、なんだか小さな子犬を見ているような気持ちになる。


(……ほんとに、かわいいな)


何度も思ってきたはずのことなのに、改めてそう感じてしまい、自分でも少し驚いた。


その夜、同じベッドで並んで眠ることになり、灯りを消した後も、しばらく小声で話が続いた。


「今日、来てくれて、本当によかった」


「私も、楽しかった」


セレナの規則的な寝息が聞こえてくるまで、私はその温かい時間を、静かに噛みしめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。