三章三話「叫」
次に目を開けた時。
そこには——
仮面の門番と
見ただけで完璧を感じさせる何かがいた。
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空気が重い。
立っているだけで膝をつきそうになる圧を感じる。
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そして。
頭の中へ声が響いた。
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『私は閻魔大王』
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低く。
圧倒的な声だった。
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『試練達成を確認』
『評価を下す』
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『クリアタイム——1年』
『評価——Aランク』
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「……1年?」
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あの地獄に、もっと長くいた気がした。
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『報酬を一つ選べ』
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すると。
頭の中へ文字が浮かび上がる。
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【1】好きな生物へ転生
※転生後の生物ランクは評価ランクに準ずる
【2】地獄の門番になる
【3】現世の存在へ干渉する
※干渉対象に不利益は与えられない
【4】報酬を放棄し、更なる高ランクを目指して再挑戦
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俺は迷わず【2】を選んだ。
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「俺は、お前らにも怒ってる」
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仮面の門番を睨む。
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「理不尽に痛めつけやがって」
「同じ土俵に立って……いつか絶対殺してやる」
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そして閻魔大王を見る。
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「それに、どうせ他の報酬選んでもろくなことにならねぇんだろ?」
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閻魔大王は少しだけ口元を歪めた。
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『威勢と勘だけは良いな』
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『門番になるには、“現門番との入れ替え戦”に勝利する必要がある』
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『勝者は新たな門番となる』
『敗者は——無になるか』
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「無……?」
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『勝者に己の処遇を決められる』
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閻魔大王は笑った。
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『門番を殺すという貴様の望みも、
早速叶うかもしれんな』
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「無とかよく分かんねぇよ」
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俺は吐き捨てる。
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「そんなことより、早くやらせろ」
「言っとくが——閻魔大王、テメェもそのうち殺す」
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その言葉を聞いて。
閻魔大王は、楽しそうに笑った。
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『その時を楽しみにしているぞ』
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『大叫喚地獄の入れ替え戦は特殊だ』
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『己の感情を具現化し、戦わせる』
『先に“感情”を消滅させられた側の敗北となる』
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『では、場所を移そう』
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『あとは任せたぞ——叫よ、
己の門番としての役目を果たせ』
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その瞬間。
閻魔大王の姿が闇へ消えた。
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同時に。
周囲の景色が変わる。
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暗闇に囲まれた、巨大な広場。
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門番——叫は、仮面の奥で笑った。
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「さっきから聞いていれば……」
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「お前、勢いだけで現実見えてねぇんじゃないかい?」
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「自分の選択を後悔させてやるよ」
「惨めにな」
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すると。
叫の前に巨大な影が現れた。
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全身が焼けた鉄で覆われた、巨大な犬。
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赤熱した身体から火花が散っている。
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『名は——鐵狗』
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叫が嗤う。
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「貴様の感情を喰らい尽くして、
最も惨めな最期を迎えさせてやる」
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その瞬間。
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俺は——笑っていた。
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「ははっ……!」
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笑いが止まらない。
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「ふざけんのも大概にしろよ……!」
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「精一杯生きてきた後に、訳分かんねぇ地獄に落とされて——」
「漫画みてぇな化け物に痛めつけられて……!」
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怒りが溢れる。
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誰かの期待に応え続けるのは、もう疲れた。
「全部ぶっ壊してやる」
「地獄も」
「お前らも」
「感情押し殺してた俺自身も——全部だ」
俺は怒っていいんだ。
憎んでよかったんだ。
我慢しなくて、よかったんだ。
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その瞬間。
頭の中へ“名前”が浮かび上がった。
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——羅刹。
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「来い……羅刹!!」
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叫んだ瞬間。
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俺の前に、巨大な赤鬼が現れた。
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角。
牙。
異様に発達した腕。
全身から禍々しい殺気を放っている。
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羅刹は咆哮すると、鐵狗へ飛びかかった。
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——ドゴォッ!!
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衝突。
爆音。
衝撃波。
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鐵狗の身体が削れた。
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そして。
消えた部分と同時に——
叫の記憶が流れ込んでくる。
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戦争。
焼けた街。
死体。
泣き叫ぶ子ども。
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叫は——戦争孤児だった。
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「……」
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辛い過去があったのだろう。
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だが。
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「知ったことか」
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俺は吐き捨てた。
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次の瞬間。
羅刹が鐵狗の首を噛み砕く。
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巨大な犬は断末魔を上げながら消滅した。
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静寂。
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あっという間の決着だった。
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叫に着いていた面が割れて素顔が露わになる。
叫は想定外の事態に呆然としている様子だった。
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その瞬間。
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俺の頭へ、大量の情報が流れ込んできた。
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地獄のルール。
門番の役割。
無の存在。
入れ替え戦。
閻魔大王。
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無以外について根本的な事を含めて
全てが理解できる。
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放心している叫へ、俺は言った。
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「……他の地獄で、またやり直せ」
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叫がゆっくりこちらを見る。
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「次の地獄で自分と向き合って、
もし…もし試練を達成できたら次は転生でも選んで」
「穏やかに生きられるといいな」
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叫は何も言わなかった。
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俺は閻魔大王へ告げた。
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「敗者は他の地獄へ送れ」
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すると。
闇の奥から笑い声が響く。
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『くく……』
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『分かった』
『適当な地獄へ送っておこう』
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『だが、貴様は勘違いしている』
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『どこの地獄へ送ろうと、奴はすぐ無になる』
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『あれにとって一番の救済は、転生させることだった』
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「……無って何なんだよ」
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門番になったことで、“無”という存在自体は理解できた。
だが。
本質だけは理解できない。
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すると閻魔大王は笑った。
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『知りたければ——閻魔大王になるしかないな』
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閻魔大王になる方法。
八つある地獄。
その内、四つの地獄で門番になる必要がある。
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さらに。
他地獄の門番に挑むための条件も存在する。
様々な試練を乗り越えた末にようやく
閻魔大王へ挑む権利が与えられる。
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だが。
そんなことはどうでもよかった。
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俺は決めていた。
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閻魔大王を殺す。
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この地獄ごと、全部ぶっ壊す。
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もう。
自分の感情を我慢しない。
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「閻魔大王」
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俺は笑った。
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「お前が俺に殺される時の顔——楽しみにしてる」
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すると。
闇の奥から愉快そうな声が返ってきた。
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『期待せずに待っているぞ。』
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『そして——』
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『お前は今日より、こう名乗れ』
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暗闇が揺れ、俺の顔が仮面に覆われて。
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『大叫喚地獄 門番——叫』
三章三話 完
四章一話に続く




