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願いが一つだけ叶うノートを手にした僕は、あのツンツンした薬剤師に使うべきか迷っている  作者: 播磨 颯太


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8. 最初の願いしか叶わない

16:15。家のリビング。


テレビの画面が、ゆっくりと切り替わる。


「——確定しました!!」


アナウンサーの声。


掲示板に、数字が並ぶ。


1着:4番 アライグマラクーン

2着:8番 スカンクフンシャ

3着:6番 ネズミチュウチュウ


その横に——


“確”のランプ。


そして。


「払戻金は……三連単、9523万1260円!!」


場内のどよめきが、テレビ越しに押し寄せる。


「大荒れです!!とんでもない配当です!!」


実況が興奮している。


だが——


リビングの空気は、真逆だった。


「……はぁ……」


父が、力なくソファに沈む。


「……終わった……」


呆然と呟く。


「……会社辞めれると思ったのに……」


完全に、肩を落としている。


一方で——


春彦は、立ったまま動けなかった。


「……え……」


目が、掲示板に釘付けになる。


(……違う)


(……違う)


(……違う)


「……ウソだろ……」


かすれた声が漏れる。


(……ノートに書いた通りじゃない)


アライグマラクーンは——


1着。


だが——


「……なんでだよ……」


2着と3着。


入れ替わっている。


(……叶ってない……?)


背中が、冷たくなる。


(……マジかよ)


(……どんな願いでも叶うんじゃないのかよ……)


心臓が、妙な速さで打つ。


(……もし)


(自分で書いた時に……叶わなかったら?)


(終わりだぞ)


(一回しか使えないのに)


喉が渇く。


呼吸が浅くなる。


だが——


春彦は、無理やり思考を落ち着ける。


「……待て」


低く呟く。


「……冷静に考えろ」


テーブルの上のノートに手を伸ばす。


ページを開く。


そこには、父の字。


——阪神12レース

1着 4番 アライグマラクーン

2着 6番 ネズミチュウチュウ

3着 8番 スカンクフンシャ

になれ


じっと見つめる。


(……アライグマラクーンは……来た)


指でなぞる。


(……1着)


(……これは叶ってる)


だが——


(……2着と3着は……違う)


眉が寄る。


沈黙。


思考が、ゆっくりと組み上がっていく。


(……もしかして)


「……あ」


小さく声が漏れる。


(……そうか)


顔が上がる。


(……複数は、ダメなのか?)


心臓が、ドクンと鳴る。


(……これ)


(父は……3つの願いを書いたことになる)


1着。

2着。

3着。


(……でも叶ったのは)


「……一番最初だけ……」


呟く。


(……アライグマラクーンだけだ)


(……その後は……無効)


背筋に、ゾクッとしたものが走る。


(……そういうことか)


(願いは一回だけ)


(でも……“書く回数”じゃない)


(“内容”が一つだけ……)


整理されていく。


(……一つ目の願いだけが、発動する)


(その後に書いたものは……意味がない)


(……コンボは不可)


口元が、わずかに歪む。


「……よくできてるな」


思わず漏れる。


(もし……一回の書き込みで100個願い書いたら全部叶うなら)


(そんなの……無敵すぎる)


(……だから)


「……最初の一つだけ」


結論が、はっきりと形になる。


(……これで辻褄が合う)


ゆっくりと息を吐く。


(……なら)


(まだ検証は必要だけど……)


目が、鋭くなる。


(……使い方は、かなり絞られる)


(絶対に——)


(一番最初に書く願いが全て)


父はまだ、落ち込んでいる。


「……あーあ……」


頭を抱える。


「……1億2000万やぞ……」


「……人生変わっとったのに……」


春彦は、その声を背中で聞きながら——


ノートを閉じた。


(……次だ)


(もう一回……試す)


(確証を取る)


静かに、そう決める。


——


自室。


ベッドに倒れ込む。


天井を見上げる。


思考が、ふっと緩む。


そして——


浮かぶのは。


「……彩子……」


あの顔。


少しきつい目。


無表情気味の口元。


(……生意気そうな顔)


(……感じ悪い目つき)


なのに——


「……なんでだよ」


苦笑する。


(なんで……こんなに気になる)


今日の薬局。


動き。

声。

仕草。


何度も思い出す。


(……まさか)


少しだけ、間が空く。


「……惹かれてる?」


すぐに首を振る。


「……いやいや」


だが——


完全には否定しきれない。


ポケットから、小さな紙を取り出す。


番号札。


今日、彩子から渡されたもの。


じっと見つめる。


「……しばらく行く用事ねえな……」


小さく呟く。


その時だった。


「……っ」


ぞくり、と。


背中を、冷たいものが走る。


「……なんだ……?」


腕をさする。


鳥肌。


「……寒……」


さっきまで普通だったのに。


急に、体温が下がったような感覚。


「……あれ?」


立ち上がる。


ふらりとする。


「……なんか……おかしい……」


布団を引き寄せる。


くるまる。


だが——


「……っ……」


震えが、止まらない。


むしろ——


どんどん強くなる。


歯が、カチカチと鳴る。


(……なんだよこれ……)


(……風邪……?)


いや——


それにしては、急すぎる。


胸の奥に、嫌な予感が広がる。


春彦は、布団の中で身体を丸めた。


それでも——


ゾクゾクは、収まらなかった。

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