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願いが一つだけ叶うノートを手にした僕は、あのツンツンした薬剤師に使うべきか迷っている  作者: 播磨 颯太


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23/47

23. 4時間の外側

春彦の部屋。

薄暗い室内に、スマホの画面の光だけが浮かび上がっている。


時計は1:40を指していた。


耳元のスマホから、正美の声が弾む。


『ねえ春彦くん、びっくりするわよ』


その一言に、春彦の心臓が跳ね上がる。


「……早く教えてください」


思わず前のめりになる。

あの後、柱の陰から見ていた光景――正美と卓馬が並んで歩いていく背中。そこまでは知っている。


だが、その先が知りたい。


『あの後ね――卓馬、普通にご飯OKしたのよ』


「えっ……マジっすか?」


わざとらしく驚く。

本当は見ていた。だが、知らないふりをする。


『でしょ!?私もびっくりしたんだから』


正美の声には、まだ興奮が残っている。


『そのまま近くのファミレス行ってさ』


「それで……どうなったんすか?」


食い入るように聞く春彦。


『22時くらいに入ってね、ずーっと喋ってた』


「どんな話を?」


『なんでそんなことあんたに言わなきゃいけないのよ』


そう言いながらも、正美は喋りたくてたまらない。


『最初はさ、普通にバイトの話とか。卓馬の大学の話とかね』


春彦は無言で頷く。


『で、祥子と健司の話になってさ。あの二人付き合ってるよねって話。卓馬もそう思ってるって言ってた』


「へえ……」


『そっからさ、自然と男女の話になってきて』


一拍。


『……で、私が攻めた』


春彦の喉が鳴る。


「……どうやって?」


『まず聞いたのよ。彼女いるの?って』


「……で?」


『いないって。フリーだって』


その言葉に、春彦の胸が高鳴る。


『チャンスだと思ったわよね、そりゃ』


正美の声が少し低くなる。


『だから私も言ったの。私もフリーだよって』


「……」


『そしたらね、ちょっと間が空いたのよ』


静かな空気が、電話越しにも伝わる。


『で、私言ったの。前から気になってたって』


「……卓馬さんは?」


『ちょっと驚いた顔してた。で、“そうなんすか”って』


春彦は息を飲む。


『でさ、聞いたの。“彼女欲しい?”って』


「……」


『“欲しいっすけど…”ってさ』


「……」


『だから言ってやったのよ』


一拍置いて――


『もしあんたさえ良ければ、私と付き合ってよって』


春彦の鼓動が一気に速くなる。


「……それで?」


声が少し震える。


『最初ね、すぐには答えなかったの。ちょっと迷ってる感じ』


「……」


『だから、押した』


正美の声に熱がこもる。


『目見てさ。“私あんたに尽くすから”って』


沈黙。


数秒の間が、やけに長く感じる。


『そしたらね』


正美の声が少し柔らかくなる。


『“オレでいいんすか?”って言ったのよ』


春彦の目が見開かれる。


「……ってことは……?」


一瞬の間。


そして――


『そう。付き合うことになったの!』


その瞬間。


ズンッ……!!


春彦の中に衝撃が走る。


「……マジっすか……!」


思わず声が上ずる。


「おめでとうございます、正美さん……!」


『ありがと』


素直に喜ぶ声。


だが――


次の瞬間、春彦の中で何かが引っかかる。


(……待て)


「……正美さん」


『ん?』


「それ……何時くらいっすか?」


『え?』


「デート……何時までしてたんすか?」


少しの沈黙。


『ついさっきよ。1時は確実に過ぎてた』


その言葉が、頭の中で反響する。


1時を過ぎていた。


(……ノートは21時)


(……4時間後は……1時)


(……効力は……切れてるはずだ)


なのに――


デートは続いていた。


春彦の背筋に、ぞくりとした感覚が走る。


(なんでだ……?)


『ちょっと、春彦くん?聞いてる?』


ハッと我に返る。


「……あ、はい」


『だからさ、あんたが今日誘えって押してくれたおかげよ。ありがとね』


軽い声。


そこには、ノートの存在は一切ない。


正美にとっては、ただ自分の行動の結果。


「……いえ、本当に良かったっす」


改めて祝福する。


『じゃあもう遅いし切るね』


「はい、お疲れさまでした」


通話が切れる。


――静寂。


時計を見る。


2:00を過ぎている。


ベッドの上で、春彦は天井を見つめる。


(……おかしい)


(なんで4時間過ぎても……)


(デートが……続いてた?)


答えが出ない。


ゆっくりと起き上がる。


カバンから、あのノートを取り出す。


ページをめくる。


そこにある――


正美の文字。


「卓馬がデートの誘いにOKする」


じっと見つめる。


そして――


その瞬間。


春彦の目が見開かれる。


「……そういうことか……!」


すべてが繋がった。

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