妖精と契約
契約、ある目的を達成するために力を共用する約束の証。
ファンタジーの世界ではよくあるもの。
無論、この世界では生き物の間に、契約を結ぶことがあり、お互い体の一部を交わして成立するんだ。
竜に挑戦して勝って契約関係になるとか、借金を返済するために奴隷契約を結ぶとか色々な形があって、魔法が強い方がマスターになる。
特にマスターの方はこの関係でさらなる二倍以上の魔力を手に入れる
私の場合は恩返し契約である。
助けられた側が恩を返すために、決めた条件を満たすんだ。
でも、強い方が明らかに寿さんで、助けられた側が契約内容を決められないので、解除条件が不明のままである。
「そんなわけで、こちらは寿さんです。浮いている光っているボールは精霊のふうこさんです」
「寿はるかです。一瞬の意識で恩返ししたい思いがあって、不注意で娘さんと契約戦士の関係を結びました。しばらくの間、一緒に活躍することを許していただけないでしょうか。大変ご迷惑をおかけしまって申し訳ございません」
「どうも、精霊のふうこです。よろしくお願いします。一応はるかの教育係だったので、しっかり見てあげるから、安心してください」
って、寿さんは親の前で謝りながら、事情も説明していた。
そして、精霊のふうこさんは寿さんの契約精霊じゃなく、先輩なんだ
「眼帯」
父は呟いた。
「あ、すみません、私は妖精だけど、魔眼がないので、眼帯を付けません」
妖精は、強力な魔力を使える生き物で、そんな魔力持たない人間に魔族と呼ばれている。
魔族とはいえ、悪の存在ではなく、ただ魔法が強いということだけ。
悪魔、吸血鬼、妖精、エルフ、魔女などの生き物も魔族と呼ばれている。
妖精だと言うけど、耳は長くなく、翼もない、そして体は小さくなく、どう見ても普通の人間少女にしか見えない。
「すまない、ちょっと人違いしてしまっただけ。その前に、エリと話しがあるから、ちょっと待っていい」
母は私の肩を掴んで、どこかに連れて行こうとする。
「はい、ここで待ちます」
寿さんはお辞儀をして大人しく待つ。
「ついでにお茶と煎餅もどうぞ」
「はい、いただきます」
母は私を台所に引っ張った。
「サラ、こいつ間違えないあの子だ」
「私もそう思っているわ」
「もしかしてまたゲームのキャラ」
「正確にはモブキャラ。この子は番外編ストーリーに出た魔族部隊の中の一人だったわ。この番外編は魔族と一緒に魔法災害を調査し、解決する。そして、運営側がありがちな顔より、ファンにデザインさせて、この番外編のキャラ達は皆特徴的だったわ」
番外編は、アクションが好きなプレイヤーのために作ったDLCで、戦闘が多くて、色々な強力なアイテムを手に入れることができた。
ボスを倒すために、週末中ゲームに没頭していた両親の姿を覚えている。
そんな日は私が料理担当だった。
「この子は皆が大体揃ったCGに出て、セリフがなく眼帯が付いていて、暗い顔をしていただけ」
父は追加説明した。
「主人公たちと接触することがなさそうね。でも、戦士になったら、結婚相手を探す時間がなくなるんじゃない」
「いや、逆にいいことだと思うわ」
「お、どういう意味」
「母は正しいかもしれない。契約はエッチをするために結ぶケースがあるんだ。ピュアが好きな人は、こういう人と結婚したくないだろう。もし、出会う日にあの令息に契約マークを見せたら、興味を失わせると思う」
「でも、この子は女の子だけど」
「知られない限り、大丈夫だと思うわ。それとも、男探しを試し続けたいの」
今まで、進展がゼロのままで、この方法を試してもいいかもしれない。
そもそも、婚約を回避するために感情がない関係を築くのは相手を傷つけるだけ。
「なんか、この方法は正しいかも。手伝うのも悪いことじゃないみたい」
「これで、決まるね」
母は客室に戻って、寿さんに向かって話す。
「家族会議で、二人の同棲生活を許可することになりました。娘のことよろしくお願いします」
「同棲!!!!」
「そうだよ、契約戦士は戦士とマスターの魔法がお互いに依存する関係で、二人は近くにいないとお互い回復できないんだ」
触れ合いってことはそういう意味だったのか。
「私たち大人は邪魔するだけだから、今日からギルドの客室に住む。それじゃ、行ってきます」
「ちょっと、待って」
「まあまあ、これはいい魔法の勉強になると思ってくれ、あ、これを使ってちゃんと見せて。じゃあ、行ってきます」
父は小さい水晶を渡して、母の後について出た。
この水晶はきっとステータス画面を映すためだと思う
この世界ではパーティーを組む時、皆でステータスを共有する。
「なんか、思ったより納得できたね。よく説得したんじゃないはるか」
「私はちょっと説明しただけだと思うが」
「まあ、まあ、ちょっとだけ自分を褒めてもいいじゃない。さて、エリちゃんこれからよろしく」
「ヒルガルさん、これから改めてよろしくお願いします」
「あ、はい、エリ・ヒルガルです。よろしくお願いします。あ、これは私のステータスです。どうぞご覧になってください。私の魔法がお力にならないかもしれないが、他のところを精一杯ご支援を差し上げます」
「そ、そんなに、硬くなくていいですよ。あ、ヒルガルさん、その数字は」
「数字?」
私は寿さんが指している画面のところを見て、そこに三つの数字があって、健康という欄に示されている。
「あ、パーティーを組む時、ステータスを見せるのは、クエスト履歴と得意な魔法リストを見せるということです」
「あ、あああ、お恥ずかしいところを見せてしまって、申し訳ありません」
ステータス画面はもちろん能力の数値を記録するが、健康に関係がある身長や体重などの情報も記録できる。
冒険をやったことがなく、上手く使える魔法もない私は当然寿さんが話していたリストを持っていない。
そんなリストが存在しないから、デフォルトでステータス画面を見せることになる。
今、胸のサイズやウエストなどの個人情報は全部ばらされてしまった。
そんなことは家族に見せるはずなのに、またやらかした。
まるで、公衆の前で裸になるみたい。
絶対におかしいと思われる。
「あ、な、泣かないで、ほらこれで引き分けに納めましょう」
引き分け、どういう意味。
私が頭を上げると、寿さんの方にも似たような画面が映っている。
命中値が私より高く、使える魔法も多く、健康情報の数字の上の桁が私と同じ。
え
「はははは、もうお二人とも完璧にお似合いわ。こう見ると、はるかが一人でもなんとかなりそうで、私ちょっと後片付けをするから、後はよろしく」
私たちの失態に笑いながら、光のボールが出た。
寿さんの顔も赤くなって、こっちの頬も赤くなった。
「寿さんって可愛いですね。きっと男子にも人気があると思いますよ」
「そ、そんな、彼氏はいませんよ。そんなことを言って、ヒルガルさんも可愛いじゃないですか。それに、今私はマスターだけど、私を助けたヒルガルさんがマスターになるはずだったので、敬語で接してくれてなんか違和感がある。だから、敬語はいいよ」
「た、確かに」
話を続けようとした時、お互いの腹がグーッの音で鳴った。
あ、もうすぐ晩御飯の時間だ。
「私は晩御飯を作るから」
「じゃあ、私も手伝うよ」
「いいよ、寿さんは客だろう」
「客ではなくて、契約同士」
まあ、確かに一緒にする方が早く食べるかもしれない。
でも、一日中大変だった人に手伝わせるわけにはいかないわ。
寿さんを見て、服が結構汚れていることに気づいた。
「と、とりあえず、服を着替えて、お風呂に入った後、食事を食卓に出してもらえる」
「あ、はい。でも、お着替えは持っていないが」
「新品の下着がこちらにある。服は、私のを借りてもいいよ」
「それでいいよ」
お互いのサイズが近いおかげで、ぶかぶかにならなくて居心地よく着られそう。
私は部屋着に着替えて、三角巾とエプロンをつけて、台所で晩御飯をし始めた。
シルビアさんが仕入れた食材を取って、
玉ねぎと野菜を切って、肉をフライパンで焼く。
後は待つだけ。
そういえば、寿さんは私の命中値のことを知っているよね。
こんなステータス、戦いで何も役に立たないから、どう支えるか。
うううん、迷うな。
そう考えながら、フライパンから油が飛び散って、私の手に付き、火傷の痛みを一瞬で感じた。
「きゃー」
その痛みに叫ばずにはいられなかった。
幸い、ちょっとだけなので、大した傷じゃないよね。
「大丈夫、さっき大きな声が出たよ」
振り向くと、そこに私の二着目のパジャマを着ている寿さんがいた。
「ちょっと、油が飛び散っただけ」
「でもちゃんと処置する方がいいと思うよ。こっちで水で流して」
寿さんは蛇口をひねって、水を流せる。
私はそれに従って、火傷したところを水で冷やす。
同時に寿さんはコンロを消して、肉を皿に盛った。
「あ、それは」
「よくできたよ。後は私に任せて」
寿さんは食べ物が乗った皿を持って、テーブルに向かった。
客に手伝わせてしまって、ちょっと申し訳ない気分になる。
手が十分に冷えたので、蛇口を閉めて、手を拭いた。
「ほら、手を見せて」
寿さんは台所に戻って、すぐ目の前にいる。
「えっと、その」
「ちょっと治癒魔法を掛けるだけ。こうして早く治すよ」
私の手を優しく受け取って、魔法をかけ始めた。
お互いの肌が再び重なって、艶々とした柔らかさを感じられる。
心に安らぎを与える。
「そ、そういえば、私はそんな大した能力がないので、戦闘がちょっと役に立たないかも。でも、他にできることがあったら、遠慮なく言って」
「うん、ありがとう。でも、そんな心配しなくてもいいよ。契約関係を通じて、ヒルガルさんもなにかの力を得るかもしれないから。あ、そうだ、魔力回復についてのことだけど、近くにいないとお互いは回復できないって聞いたよね」
「あ、はい、だから一緒に住むことになったね」
「それはね、近くということは、ただ一緒に住むことではなく、肌と肌、体と体の接触で、お互いを摂取する」
え、待て、ってことは。
「せ、摂取?」
「肌からの分泌物や汗、それとも唾液とか」
寿さんの顔はちょっと赤くなったけど、温かな笑顔だ。
こっちの頬っぺたも熱々になって、でも寿さんの顔を見て心が落ち着く。
「じゃあ、このように手を繋ぐ」
「うん、その通り。でも肌と肌だけでは、摂取が遅くて、回復速度も低下する」
「じゃあ、回復速度を上げるために」
「直接摂取する方が効果的。一番効果的なのは、直接体内に取り込むか、体内からの液体を直接摂取するか」
つ、つまり、キス
こういうのは恋人関係だけがすることだろう。
「わ、私は」
「ルガルさんは困っていた私に手を差し伸べ、優しく接してくれた。信頼できる人だと思う。だから、もしそちらも同じ気持ちだったら、お互いの手を」
手を舐めるのか。
それを聞いた私は、心が変な気持ちになっている。
そういうこと、恋人とするじゃないのか。
でも、信頼してくれて、心底から嬉しい。
こっちも寿さんが優しいと思っている。
この力の差で、強引にしようとしたら、自分もなんの抵抗もできないはず。
その気持ちに答えたい。
寿さんの魔力の回復が遅くなって、活躍できなくなるなんて欲しくない。
まあ、キスじゃないなら、いいよね
「あ、はい、いいよ」
「う、うん、じゃあ、失礼します」
寿さんは私の手を口に近づけ、腰を少し屈んで、唇が私の手の肌に重なった。
舐めるではなく、ハンドキスなのか。
可愛い子にハンドキスされるなんて、気分がよくて、ぞくぞくする
手から、唇の感触から何かが全身に伝わっていて、これが魔力なのか。
「うん、できた。ヒルガルさんもお願い」
私の手から離れた寿さんは、続けて自らの手を差し上げる。
私も丁寧に受け取って、同じく自分の唇を寿さんの手に重ねた。
心が満たされる。
「ありがとう。ヒルガルさんと契約できて嬉しい。食事をしようか」
「うん」
寿さんは私の手を取って、一緒に食卓へ行った。




