表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
注:オレは人のココロを操るゾンビですが、人体に有害でも無害でもありません  作者: 私物
第一章 消息代理人という旅人は、真逆で矛盾にできている
44/65

第六話 本音で本当のことしか言えない即興劇・5

 オレたちを乗せた車は、無事に三つ目の検問を離れた。

 それを確認して、ラウルに手話で訴えた。


 ――ラウル、オレの血には、ナンシー型も混ざっている。

 ――君が噛めば、逆に君がナンシーに感染する。

 ――そのことを、忘れないでくれ。

 ラウルはそれを見るなり、苦しげに首を横に振り、手を動かし始めた。

 ――米沢、無茶言うなって! 俺、我慢しすぎて、もう、わけわかんなく……。

 ただ、それ以上ネガティブなことを考えるべきじゃない。

 ラウルの手を押し止め、少しでも励みになりそうなメッセージを伝えよう。

 ――次の検問が最後だ。あと少しだけ、辛抱すればいいんだ。

 なるべく笑顔でそう伝え、軽く肩を叩いた。


 彼にとっては、フルマラソンを全力疾走で完走しろと言われるようなもんだ。

 それでもゴールは、もう目の前まで来ている。


 オレたちのいる荷室の反対側では、相変わらず、ベッケンバウアーが他人事のように顔を伏せて、聖書を読みふけっている。薄い紙をめくる音が、やけに耳につく。


 ――なあ、米沢……俺、さっき……何て、言ったんだ……?

 ラウルは震える手で、手話における疑問の形を見せてきた。

 ――俺……ヘレンの『おともだち』を、作ってやらなきゃ、ならねえって、

 ――本気で、お前に、言っちまった気がする。

 ――おい、俺、まさかそんなこと、

 ――……言ってねえ……よな……?


 オレはしばらく、手を止めた。

 だが今は、過去を振り返っている場合じゃない。

 ――しっかりしてくれ。それはヘレンの願いであって、君の願いじゃない。

 ――君の願いは、もっと別にあったはずだ……そうだろう?

 そう伝えた瞬間、ラウルはつらそうに顔をしかめ、うつむきながら指を結んだ。

 ――クソッ、米沢……頼むから……助けてくれ……。

 オレはそのメッセージを読み取り、ラウルにはっきりとうなずいた。

 当然、自分にできることがあるなら、少しでも力になりたい。


 ただ、ラウルの依頼は、オレが想像したものとは――真逆(アベコベ)だった。


「……あいつ、このままじゃ……ブッ壊れちまう……俺がいねえと、あいつの周りに……もう、助けになれる奴が……いねえんだ!」


 急にラウルが、しゃべりだした。

 それは手話ではなく、彼の口から出た言葉だった。


 オレは焦りを感じた。

 一体、何を考えているんだ。オレもラウルと同じ『おともだち』だ。伝えたいことがあるなら、手話を使えばいいじゃないか。

「ラウル、やめろ、それ以上しゃべるな」

 思わず手を止めて、オレもまた声を使った。

「ここで体力を使うのはマズい。もうすぐ最後の検問が始まるんだ。今は――」

「へっ、俺の両親が、よく、言ってたんだ……『ラウル……人に、頼む、とき……必ず……自分の言葉で、伝え、なさい』……ってよ……」

 ラウルはそこまで言い切ると、震える手で、ボアジャケットのポケットから、あの木片を取り出した。

 彼がオレの目を見上げた瞬間――グレーの瞳から、ぽつりと涙が落ちた。


 ……止めても無駄だ。目を見た瞬間、そのことがはっきりとわかった。

 オレは黙って、彼が伝えようとしている頼みを、聞き入れることにした。


「なあ、頼むよ……エイダンを、助けてやってくれ……」

「墓地で流される涙のうち何より苦いのは、

 伝えなかった言葉や、なさなかった行いを悔やむものだ。」

 ――ハリエット・ビーチャー・ストウ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ